ドキ★ワク先端科学
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~読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~
第15回:情報科学研究科 岡田実教授 [2014年12月2日]「『純正律』で高速データ送信」 |
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クリスマスシーズンが近づいてきましたね。大聖堂やホールで披露される聖歌隊の合唱は、音源が止まった後も、壁や天井などに反射して引き続いて聞こえる「残響」の効果で、壮大で幻想的に聞こえます。
聖歌隊で歌われる古典音楽は、「純正律」と呼ばれる音律を使います。これは和音の各音の周波数が単純な整数比になります。例えば、「ド」「ミ」「ソ」なら周波数が正確に「4」対「5」対「6」の関係です。
この場合、残響で音が重なっても、元の音を別々に分離して聞くことができます。この性質を「直交」といい、残響があっても濁りのない和音になるのです。
面白いことに、この「純正律」と同じ原理が無線で高速、大量のデータをやりとりする際の基盤技術として使われています。最近、スマートフォンやタブレット端末を使って、いつでも、どこでも快適に動画やインターネットを楽しめるようになったのも、この「純正律」のおかげなのです。
通常、携帯電話の電波は、周りにあるたくさんの建物や地形に反射しながら伝わっています。このように、複数の経路から同じ電波を受信してしまうことをマルチパスと呼びます。この状態では、信号がひずんでしまい、うまくデータを受け取ることができません。
そこで登場するのが純正律の原理です。最新の移動通信では、純正律の合唱と同じように周波数が整数比の関係にある複数の電波を用い、それに載せて情報を送っています。
これは、「直交周波数分割多重」と呼ばれているもので、マルチパスがあっても、合唱が美しく聞こえるように、大量のデータ伝送が可能となったのです。
この技術で、高速の無線伝送がある程度できるようになりました。しかし、より高精細な動画視聴やネットゲームなど新しいサービスに対応するには十分ではありません。
現在、われわれの研究室では、基地局や端末のアンテナ、送受信機を工夫し、さらなる高速化に向けた研究を進めています。