ドキ★ワク先端科学
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~読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~
第19回:物質創成科学研究科 河合壯教授 [2015年2月3日]「光吸収 カメレオン分子」 |
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カメレオンの体は、草木の上では緑色ですが、木の幹や土の上では色が変わりますね。周囲の色に合わせて、体の色を変える能力があるわけです。
そもそも、色とは一体、何でしょうか? 光には強弱のほかに、色に対応する波長と呼ばれる性質があります。通常、人間が見ることのできる「可視光」は、およそ0.4~0.7マイクロ・メートル(マイクロ・メートル=1000分の1ミリ)の範囲の波長を持っており、おおむね短い側から紫、藍、青、緑、黄、ダイダイ、赤の順に並んでいます。
可視光の全ての色が混ざると白になるように、白色の光は可視光の波長全体を含んでいますが、例えば、りんごに白色の光を当てると、白ではなく赤く見えますよね。これは、青や緑などの光が吸収され、残った赤だけが私たちの目に届くからです。
それでは、物体はどのような波長の光を選んで吸収するのでしょうか? それは物体に含まれる分子の構造によって異なります。皆さんが目にする様々な色のインクは、それぞれ異なる構造の分子を含んでいるので違う色に見えるのです。
私たちが研究しているのは、光を吸収すると構造が変化するフォトクロミックと呼ばれる分子です。構造が変化するので、例えば無色だったものが、光を当てると青色になったりします。色の変化で紫外線の強度を簡単に調べたり、光の照射で浮かび上がる隠しインクを作ったり、さまざまな使い道が考えられます。
他にも、光を浴びると固まる性質をあわせ持った分子もあり、歯の治療で詰め物を歯につける接着剤や、ネイルアートの素材にも使われています。
ただ、フォトクロミック分子は全ての光に反応するわけではありません。例えば、ネイルアートの素材では光に反応する確率は約20%で、残り80%の光は無駄になってしまっています。
この反応の効率を高めることが大きな課題となっていますが、私たちの研究室では、100%の確率で分子構造が変化する超高感度の分子の開発に成功し、世界中の研究者から注目を集めています。