ドキ★ワク先端科学
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~読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~
第20回:バイオサイエンス研究科 箱嶋敏雄教授 [2015年2月17日]「生命の設計図 謎に迫る」 |
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生命の設計図である遺伝子の中には、生命体(生物)を作り上げるために必要な部品についての情報が書き込まれています。これらの部品の大部分は、実はタンパク質でできています。
ヒトの全ての遺伝子配列を明らかにする「ヒトゲノム計画」では、遺伝子の中に一体いくつのタンパク質の設計図が書き込まれているかも調べられました。その結果、2004年には、2万~2万5000個のタンパク質の設計図が書き込まれていることが判明しました。
この数は自動車の部品数と同程度なので、少し驚きです。誰もヒトと自動車の複雑さや精巧さが同程度だとは思いません。さらに、航空機になると20万個、スペースシャトルにいたっては250万個の部品からできているのですが、いくらスペースシャトルがすごいといっても、ヒトより精巧だとは思いません。
つまり、複雑かつ「超」精巧な生命体を、少ない数の部品で形成できるように考えに考え抜かれたのが生命の設計図なのです。
タンパク質は生命体を形成し、それを維持して、生命を受け継ぐために必要な働きを持っています。どのタンパク質がどの働きを持っているのか、また、どのような「からくり」でその役割を果たすのか、これらの疑問を全てのタンパク質について明らかにできれば、人類は生命の神秘にずっと近づくことができると科学者たちは考えます。
タンパク質の働きの謎は、その構造の中に隠されています。そこで、構造を詳細に調べ、働きやからくりを明らかにして、生命を理解しようとする学問「構造生物学」が30年前に誕生しました。私たちの研究室でテーマにしている学問です。この分野は発展し続けており、すでに19人ものノーベル賞受賞者を輩出しています。
現状では、ヒトを形成する全てのタンパク質の構造が明らかにされたというにはほど遠い状況です。しかし、部品数は限られていますので、今世紀前半か今世紀中には、ほぼ全ての構造が明らかにされ、精巧な働きが手に取るように理解されることでしょう。
その時、生命に対して人類はどのようなイメージを抱くのでしょうか。到底人類には生命は作れないという絶望感と、新たな畏敬の念が生まれるのではないかと想像しています。