ドキ★ワク先端科学
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~読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~
第23回:バイオサイエンス研究科 別所康全教授 [2015年4月7日]「体のリズム『オン』と『オフ』」 |
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私たちは、たくさんの「リズム」を体の中に持っています。そのテンポは、早く刻むタイプから遅いものまであり、それらを巧みに利用して生物は生きています。
例えば、私たちの心臓は1分間に約70回拍動し血液を全身に送り出しています。激しい運動をすると200回近くにまで増えて、必要な多量の酸素を送ります。
また、私たちは1日の周期のリズムも持っていて、昼間には活動したり食事したりするのに適した活発な状態に体を保ち、夜には体を睡眠に適した状態にして休めるのです。
元々私たちの体は、一つの受精卵から発生し、巧妙な仕組みで複雑な形につくられます。実は、この発生の過程でも「リズム」が利用されています。
体の軸になる骨格を見ると、同じような形をした背骨が積み重なってできています。背骨の「もと」は頭側から順番につくられていくのですが、近年の研究で、この中にある特定の遺伝子のスイッチが、マウスでは2時間ごとに、「オン」と「オフ」を繰り返してリズムをつくることが明らかになっています。
このリズムを利用し、マウスでは2時間間隔、ヒトでは8時間間隔で一塊がつくられるので、同じような大きさになるのです。
遺伝子のリズムは、複数の遺伝子が互いの働きを感知し、相互に制御し合うフィードバックの仕組みによって調節されていることも、最近分かってきました。そのリズムは環境変化にも強く、例えば薬剤や熱で一時的にリズムが乱されても、すぐに元に戻るという頑丈なシステムなのです。
遺伝子のリズムを利用した体の形づくりのメカニズムは大変複雑なので、従来の生物学的手法では詳細な点まで解明するのは困難です。そこで、私たちの研究室では、分子生物学の手法の他に、数学や光学技術、顕微鏡技術など、あらゆる手法を使った総力戦でこのメカニズムの研究に取り組んでいます。近い将来、この巧妙な仕組みを理解できると考えています。