ドキ★ワク先端科学
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~読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~
第24回:情報科学研究科 猪俣敦夫准教授 [2015年4月21日]「情報守る隠れた勇者『暗号』」 |
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新聞やテレビなどでサイバー攻撃といった言葉を最近よく耳にしませんか。私たちの生活の一部にもなっているインターネット。そこでは、楽しい情報がやり取りされている一方で、名前や住所、電話番号など個人のプライバシーに関わる秘密の情報も受け渡しされています。
そこに落とし穴があります。たとえば、泥棒に大切な宝物を盗まれてしまったとしても、時には警察が泥棒を捕まえて宝物を取り戻してくれるかもしれません。しかし、インターネットの世界では、1度でも秘密の情報が流れ出てしまうと、2度と元の状態に戻すことはできません。これがインターネットの恐ろしさです。
そこで、この脅威に立ち向かう勇者がいます。それが今回のテーマ、暗号です。
さっそく問題です。「RUDQJH」。この意味不明な言葉を解読できますか? 文字をじっくり見て、解くためにある共通の「ルール」を見つけ出してください。アルファベットの順番を3つ前にずらしてみると……。もう分かりましたね。答えは「ORANGE」。これは、古代ローマ時代にジュリアス・シーザーが使ったとされるシーザー(換字式)暗号と呼ばれる手法です(図を参照)。
ここで大切なことは「ルール」が鍵ということです。すなわち、鍵を知らなければ他人が暗号文を解読できません(この解読は簡単でしたが)。悲しい話ですが、暗号は軍事目的で生み出されてきた歴史があります。ところが、今や情報を守る勇者なのです。
さて、次の問題です。項のかけ算(X+2)(X+3)を計算してください。少し面倒ですが、かけ算と足し算のみで答えを出すことができますね。それではもう一つ問題です。中学校の数学で学んだXの2次式 x2+5X+6を素因数分解してください。
おそらく解けたでしょうが、最初の問題より少し難しいと思います。それではx10が入った式の素因数分解はどうでしょう。これはかなり手強いですね。
このように、かけ算や足し算でできる計算は簡単ですが、逆方向の素因数分解の計算はとても難しい、というような特徴を一方向性と呼びます。こうした特徴を持つ暗号化の方法を見つけ情報を処理すれば、それは全て暗号になります。私たちはこうした暗号について研究しています。
現在、インターネットで最もよく使われているRSA暗号はこの素因数分解の問題が応用されています。中学校で学んだ知識が全世界中で利用されているなんてすごいですよね。
今度、インターネットにアクセスする時には、URLにあるhttpsの「s」に注目してみてください。これは暗号を使っていることを示しており、表示される鍵のマークをクリックしてみましょう。暗号の秘密がきっと見えてくるはずです。