ドキ★ワク先端科学
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~読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~
第25回:物質創成科学研究科 菊池純一教授 [2015年5月19日]「生物ヒントに人工細胞」 |
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人類は科学技術によって様々な物質を生み出し、その物質で作られた製品に囲まれて生活しています。その中には、生物が持つ巧みな構造や機能をヒントに考え出されたものがたくさんあります。
例えば、昔から人は空を自由に飛び回る鳥にあこがれ、「自分も空を飛べたら」と夢見ていました。その夢は、今から約100年前に飛行機という形で実現しました。その後も絶え間なく技術革新が繰り返され、今では私たちは鳥よりも速く空を飛べ、鳥には不可能な宇宙旅行もできる時代です。
このように、生物を手本にして編み出され、便利になったものはたくさんあります。皆さんも、ちょっと周囲を見回して考えてみませんか。
生物をヒントに新たなものを作るという考え方は「バイオミメティクス」と呼ばれています。「バイオ」は生物、「ミメティクス」は真似をするという意味です。私たちの研究室では、この考え方を分子レベルに広げ、人工細胞を作ろうとしています。
人間を含めて、動物も植物も、全ての生物は細胞からできています。細胞の内部には、様々な種類の分子があり、それらが私たち人間のように助け合いながら、ものを運んだり、細胞を修復したりといった様々な働きをしています。
人工細胞は、このような細胞の構造や仕組みをヒントにして、自然にある分子や人工的に作った分子を組み合わせて作られます。これらの分子をブロック遊びのように自在に組み立てることで、自然界にある細胞とそっくりな働きや、その能力を越えた働きをする人工細胞を作り出すことができます。
人工細胞の部品になる分子の大きさはナノサイズ(1メートルの10億分の1)で、目には見えません。化学合成で原子を連結させて分子を作り、分子が自然に整列する「自己組織化」という現象を引き起こして組み立てていきます。
人工細胞は、病気に効く薬を乗せて患部まで運ぶために既に利用されていますが、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を作る際に必要となる、遺伝子を細胞に送り込むためにも利用されようとしています。今後はエネルギーや情報通信など様々な分野でも役立つ未来技術になると期待されています。