ドキ★ワク先端科学
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~読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~
第2回:バイオサイエンス研究科 出村拓教授 [2014年5月9日]「二次細胞壁 植物の支柱」 |
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私たちの身の回りにあふれる木材や紙は、植物が作り出す「細胞壁」からできていることをご存じですか。
細胞壁とは、個々の植物細胞の表面を包んでいるものです。出村研究室では、中でも、細胞が十分に成長した後に作られる厚みのある特別な細胞壁「二次細胞壁」の合成の仕組みについて研究しています。
木材を顕微鏡で観察すると、細長い「繊維細胞」や水分の通り道である「道管(どうかん)」という二次細胞壁をもつ特殊化した細胞の集まりが見えます。普通の植物細胞は軟らかいので、これら二次細胞壁がある細胞がないと植物はまっすぐ立つことができません。
興味深いことに、二次細胞壁の構造は、まるで鉄筋同士をワイヤーなどでつないだ後にコンクリートを流し込んで固める「鉄筋コンクリート」のようです。鉄筋の役目を果たすのは、数多くの糖類が連なった、太い繊維状のセルロースという成分です。二次細胞壁の約50%はセルロースでできています。ワイヤーに相当するのが細い繊維状の多糖・ヘミセルロース、コンクリートの代役はリグニンという化合物です。
これら3つの成分が同時に合成されないと、ちゃんとした二次細胞壁ができません。出村研究室では遺伝子レベルの研究を行い、二次細胞壁を作る際の司令塔の役割を果たすたんぱく質を発見しました。なんと、この司令塔たんぱく質を働かせると、もともと二次細胞壁を持たないはずの細胞でも二次細胞壁が作れるようになったり、繊維細胞の二次細胞壁をぶ厚くしたりできるのです。
セルロースからエタノールを作るなど、二次細胞壁の成分は、バイオエネルギーの原料に利用することもできます。私たちの研究をバイオエネルギー原料の増産に結びつければ、化石資源に頼った社会から、植物由来の資源を使う持続可能な社会に変換できる。そう期待して、研究を進めています。