ドキ★ワク先端科学
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~読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~
第31回:物質創成科学研究科 山田容子教授 [2015年11月17日]「炭素材料 広がる可能性」 |
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「炭素材料」という言葉を聞いたことがありますか。地球上に広く存在する炭素(カーボン)からなり、炭素繊維はその一つです。「アルミより軽く、鉄より強い材料」と言われ、飛行機や車のボディー、テニスラケットなど、軽さと強度が必要な物の材料として発展してきました。
近年は、ナノ(10億分の1)メートルの単位で分子の並べ方を操作した「ナノカーボン材料」の開発が世界中で進んでいます。電子工学の分野で、次世代の材料と期待されているからです。
炭素でできている物質には電気を通すものと、通さないものがあります。
宝石の王様・ダイヤモンドは、炭素原子が立体的に整然と並んで強く結合した、最も硬い物質です。切削の工具にも使われますが、電気は通しにくく、電子工学の材料には向きません。
一方、ナノカーボン材料は電気を通します。代表的なのが「グラフェン」。六つの炭素原子が正六角形に並んで平面上に広がり、網のような2次元構造を作っています。このように炭素原子の六角形がいくつも並ぶと、その間に電気が流れる通り道ができるのです。
グラフェンを細長いリボン状に切り出した「グラフェンナノリボン」や、筒状に丸めた「カーボンナノチューブ」などが開発されています。筒の中に炭素以外の分子を並べれば、炭素との相互作用で、全く新しい機能を持つ素材ができると期待されています。
「フラーレン」は、60個の炭素原子がサッカーボール状につながった分子。窓ガラスに貼れるフィルム状の太陽電池などの材料として期待されています。
私たちの研究室では、幅のそろったグラフェンナノリボンや、グラフェンの一部分を切り出した「ナノグラフェン」を作り出す研究に取り組んでいます。
成功すれば、携帯電話などに不可欠なシリコン半導体に取って代わり、機器の中で非常に細かい配線の役割を果たすようにもなります。グラフェンの微細加工が可能になれば、電化製品やロボットなどをさらに小型化でき、多機能な製品の開発につながります。
電子工学の世界で大きな変革をもたらす可能性を秘めているだけに、「自由自在に合成できる」という夢がかなうよう、日々、研究を重ねています。