ドキ★ワク先端科学
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~読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~
第5回:バイオサイエンス研究科 河野憲二教授 [2014年6月26日]「品質管理バッチリ 体内工場」 |
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私たちを作っている一つ一つの細胞の中には、色々な製造工場があり、役割を分担しています。中心部にある大きな「核」は、遺伝子を複製して増やす工場です。その周辺にある「ミトコンドリア」はエネルギーを生産します。また、植物には、光エネルギーを糖に変える化学工場の働きをする「葉緑体」があります。こうした工場については耳にしたことがあるでしょう。
もう一つ、生きるのに欠かせないたんぱく質を作る重要な工場があります。「小胞体(しょうほうたい)」と呼ばれ、私たちの研究室のテーマです。
その工場の断面を電子z顕微鏡で拡大した写真(左)を見てください。きれいに層をなして並んだ構造をしているのが分かりますね。外側にたくさん見える黒い点がたんぱく質製造機のリボソームです。たんぱく質の原料であるアミノ酸を次々とつなぎ合わせて加工することで初めて機能するたんぱく質になるのです。
たんぱく質は、外からの刺激を受け取り、情報として利用できるようにする受容体や、食物を分解する酵素やホルモンなどの基となり、体内のあちこちに現れて働くため「分泌系」とも呼ばれています。
面白いことに、この小胞体の工場は、工業製品の工場と全く同じように厳格に品質管理を行っていることが分かってきました。ヒモのようにアミノ酸がつながっただけのたんぱく質を工場内で正しい立体構造に仕上げて完成品にするのですが、異常な構造のたんぱく質は厳しいチェックを受け、欠陥品としてストックされます。
ところが、細胞は欠陥品を補修して再出荷したり、廃棄処分にしたりすることにより、小胞体内にため込まない素晴らしいシステムを持っているのです。このシステムが破綻して欠陥品が蓄積すると、右図のように小胞体が異常に大きくなって正常な機能を失ってしまうからです。
また、アルツハイマー病などの神経に異常が起こる病気や炎症性の腸の病気、糖尿病の原因にもなることが分かってきています。システムを詳しく解明すれば、これらの病気の治療につなげることができると信じて、研究しています。 。