読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~

第41回:バイオサイエンス研究科 河合太郎教授〔2016年10月18日〕
「免疫 病原体を迎え撃て」

河合太郎教授
河合太郎教授

 私たちの体には、ウイルスや細菌、寄生虫といった病原体の感染から身を守るための「免疫」が備わっています。免疫を担当する多くの種類と数の細胞が、常に体内をパトロールしていて、侵入した敵(病原体)を迎え撃つのです。

 免疫の仕組みは「自然免疫」と「獲得免疫」に分けることができます。自然免疫は、生まれつき備わっている免疫で、マクロファージや好中球と呼ばれる細胞が、侵入してきた病原体を食べたり、殺したりして守ります。さらに、炎症を作り出す物質も放出します。この炎症物質を目印に、色々な免疫細胞が感染部位や傷口に集まって、総動員で病原体を攻撃し、侵入を防ぎます。

 一方、獲得免疫はB細胞やT細胞というリンパ球が担当しています。これらの細胞は、相手を詳細に見分けて、敵のみを攻撃する「抗体」を放出したり、感染した細胞自体を殺したりして防御します。

 この能力は、敵である病原体の感染を一度経験して初めて「獲得」します。獲得免疫細胞は敵の情報を記憶するので、2度目の感染には素早く反応できるのです。これがワクチンの原理となっています。

図1

 実は最近まで、自然免疫は無差別に敵を食べる単純な仕組みで、獲得免疫が働き出すまでの一時しのぎに過ぎないと考えられていました。

 ところが1990年代後半、昆虫やヒトで、トルライク受容体(TLR)という自然免疫に欠かせないタンパク質が発見されると、状況は一変しました。TLRはマクロファージなどが病原体の侵入をいち早く察知し、侵入者がどういう敵かを見分けるアンテナのような役割を果たしていると分かったのです。

 TLRは炎症反応の開始や、獲得免疫細胞の強化にも重要であることが分かりました。2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞した3人のうち2人は、これらを発見した研究者でした。

 免疫学は日本が世界をリードする研究分野の一つです。自然免疫の研究も、日本人研究者の活躍なしでは、ここまで急速に発展しなかったでしょう。

 現在では、自然免疫の破綻によって、感染症や自己免疫疾患、アレルギー、癌(がん)などが生じることが分かっています。私たちは、このような自然免疫が関係する様々な病気の治療につながる方法を探ったり、より安全で効果的なワクチンを作る技術を開発したりすることを目指して、日夜、研究に励んでいます。