読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~

第43回:物質創成科学研究科 松井文彦准教授〔2016年12月20日〕
「ホログラムで原子像再生」

松井文彦准教授
松井文彦准教授

 クレジットカードなどの偽造防止に活用されている「ホログラム」は、光の「波」としての性質を利用してモノの立体的な形を平面上に記録する技術で、映像が飛び出しているように見えます。私たちは、光の代わりに電子の「波」を利用した「光電子(こうでんし)ホログラム」を駆使し、様々な物質の性質や機能を研究しています。

 X線を原子に当てると、原子核の周りを運動する電子が外に飛び出します。小石を池に落とした時のように、電子の波は四方八方に広がり(図1)、周囲の原子とぶつかって散乱します。これを全方位で測定すると、電子の波が重なり合い、光電子ホログラムと呼ばれる複雑な模様が球状の画面に現れます(図2)。この模様を解析すれば、その原子の周りの立体的な構造が分かるのです。

 例えば、鉛筆の芯の黒鉛(グラファイト)を形作る炭素の層の間に、アルカリ金属などの「よそ者」を混ぜて冷却すると、電気抵抗がゼロの「超伝導」状態になることが知られていますが、その原理は分かっていません。炭素に混ぜた「よそ者」の周りの原子の配列を光電子ホログラムで解き明かせば、超伝導の謎に迫ることができます。

 超伝導のように省エネルギーにつながる材料の開発は、環境に調和した「グリーン技術」の要。小型で強力な磁石や、安価で効率の良い触媒やセンサー、高性能な半導体素子などは、いずれも結晶中の不純物などを取り巻くナノレベル(ナノは10億分の1)の世界が、機能を発揮するために重要な役割を担っています。

 従来のX線回折や顕微鏡などの手法では、「よそ者」の原子がどのように機能の発揮に役立っているかを調べることは困難でした。

 光電子ホログラムを用いた手法は、特定の元素を選んでその周囲を可視化することができ、物質の機能に関わるメカニズムを解き明かす強力な手段として脚光を浴びつつあります。

 私たちが力を入れているのは、こうした手法の確立と、測定法の改良です。国内外の研究者と協力し、様々な物質がその機能を発揮する仕組みの謎にチャレンジしています。

図1
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図2
図2