読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~

第44回:バイオサイエンス研究科 真木寿治教授〔2017年1月17日〕
「DNA修復の仕組みを探る」

真木寿治教授
真木寿治教授

 怖いと感じるものは人それぞれですが、多くの人は、姿が見えないものを怖がる傾向があります。幽霊がそうですし、電気もそのままでは見えません。病気の原因も肉眼では見えないですね。放射線は、怖いと感じるものの代表格です。では、なぜ放射線は怖いのでしょうか?

 放射線には性質が異なる様々な種類がありますが、重要なことは、私たちヒトを含む生物に放射線が影響を与えるのは、体内の水分子に放射線が衝突し、有害な酸素ラジカル(活性酸素)が発生するためだということです。

 意外に思われるかもしれませんが、放射線を受けた時、最も頻繁に起きるのは水分子の活性化なのです。発生した酸素ラジカルは、すぐに生体内の他の物質と反応して、二次的な傷害を引き起こします。

 特にDNAが傷つくと影響は深刻です。DNAに書き込まれた遺伝情報が書き換えられたり、一部の情報を失ったりします。新しく生まれてくる細胞や子孫に正確に伝えるべき情報が、かく乱されてしまうのです。

 また生物の細胞には、DNAの傷が一定量を超えると、<自殺する>仕組みが備わっています。放射線は遺伝子を傷つけ、突然変異を誘発したり、細胞を殺したりするから怖いといえるでしょう。

 私たちは、遺伝情報を正確に伝達する仕組みや、逆に不正確な情報によって起こる突然変異のメカニズムの解明を目指して研究を進めています。

 これまでの研究で、生物は普通に生活していても、体内では呼吸の副産物として酸素ラジカルが大量に発生し、それによってDNAには日々、大量の傷ができていることが明らかになりました。一方、生物にはこうしたDNAの傷を修復する仕組み(DNA修復)が発達していることも分かってきました。

 生物が何事もなく生き、子孫に正確な遺伝情報を伝えられるのは、DNA修復の高い能力のおかげなのです。放射線によるDNAの傷についても同様です。

 私たちの目に見えないところで進むDNA修復ですが、そのおかげで生物は放射線に対し、かなりの抵抗性を持つことができているのです。

図1
放射線によってDNAが傷つけられる影響