読売新聞寄稿連載「ドキ★ワク先端科学」から~

第51回:研究推進機構兼物質創成科学研究科 網代広治特任准教授〔2017年8月23日〕
「高分子材料 新性能に変化」

網代特任准教授
網代広治特任准教授

 古代ギリシャで生まれ、世界中に広がった錬金術は、現代化学の発展につながりました。材料を強くしたい、有用な性能にしたいという願いは、はるか古代から育まれたものだと言えます。

 私たちの研究室では、新しい性能をプラスした高分子やプラスチックの素材をつくろうと、分子レベルで構造をデザインしています。

 例えば、トウモロコシなどから得られるラクチドという化合物からは「ポリ乳酸」という生分解性の高分子を合成できます。空気中の二酸化炭素を取り込んで成長する植物が原料なので、石油などから合成する場合と違い、分解されたり燃やしたりしても、地球温暖化の原因である二酸化炭素をトータルとして増やさない「カーボンニュートラル」の実現につながります。

 医療用の材料としても有用で、手術用の縫合糸や容器などに使われています。体内で徐々に分解され、なくなっていくのが利点です。

図1
バニリンを結び付けたポリ乳酸を水に溶かすと、粒子がばらばらに散らばって白く濁るが、酸の刺激でバニリン部分が外れると、粒子が集まり、濁りが消える

 このポリ乳酸に、他の植物を使って様々な性能を<足し算>してみましょう。

 コーヒー豆に含まれる「カフェ酸」を化学的に変化させ、鎖状のポリ乳酸分子の端っこにくっつけると、熱で分解する温度が上がりました。さらに、この分子同士を互いに作用させて結晶化すると、溶ける温度(融点)も同時に上げることができたのです。ポリ乳酸に耐熱性が加わりました。

 次に着目したのが、緑茶に含まれる「カテキン」。抗菌性が知られていますね。

 カテキンをポリ乳酸にくっつけると、バクテリアの繁殖を抑える特性が加わりました。加熱滅菌した後も、素材自身が抗菌性を持ち、清潔な状態を保つことができるポリ乳酸の誕生です。

 最近では、バニラに含まれる「バニリン」を利用しています。水になじみにくいポリ乳酸の端っこに、水との仲介役としてバニリンを結びつけます。これを水に溶かすと、粒子が散らばって白く濁りますが、酸を加えて刺激すると、今度はばらばらだった粒子が集まって塊状になるのです(図)。この性質をうまく利用すれば、体内の特定の場所に薬剤を集中させ、薬の効果を高めたり、副作用を抑えたりすることができそうです。

 このように、新しい性能を加えた素材をつくり出せるという点が面白い高分子材料の合成。こうして開発される新しい素材には、私たちの生活を劇的に変える可能性が秘められています。