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2007 Vol.5 はしか(麻疹)
保健管理センター所長:上田尚彦
昨年、はしか(麻疹)がわが国で流行したことは記憶にあると思います。麻疹ウイルスは感染力が非常に強く流行を引き起こしますが、最近の流行の主な原因は麻疹生ワクチンにより一旦獲得した麻疹に対する抗体の減衰による10代~20代の修飾麻疹と考えられます。麻疹生ワクチンによる抗体陽転率は95~99%あるいはそれ以上ですが、ワクチン接種で獲得した抗体は一定期間以上麻疹ウイルスに曝されないと次第に減衰し、ある程度以下になれば野生麻疹ウイルスの感染を受けた際に発症し、これを修飾麻疹と云います。修飾麻疹では、潜伏期間は通常より長く、症状が典型的でありません。この軽症例は臨床的に診断できずに通学・通勤し、ウイルスを散布しますから感染源となるのです。また、麻疹ワクチン接種後の修飾麻疹といえども、重症例はワクチン未接種の患者とほぼ同様の症状を示します。
もう一つの原因に、二次性ワクチン効果不全が考えられます。これは成人麻疹が多い原因とされ、近年麻疹の発生が少なくなったために、二次性ワクチン効果不全の(野生麻疹ウイルスに接触する機会が少なくなり、自然の追加免疫が得られなくなった)者が蓄積され、集団全体としての免疫が低くなっていった可能性があるのです。
さらに、10代後半の年齢層でワクチン接種率が比較的低いことも原因の一つかもしれません。これに対する対策はMRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)の2回接種(1歳時と小学校就学前1年間)で、平成18年4月からわが国でもようやく2回接種体勢となり、現在の小学校1年生以下は2回接種を済ましているか接種予定なのですが、それ以上の年齢にも罹らないために、任意接種ですが、2回接種を奨めます。
麻疹は後に述べるように肺炎、脳炎、重症麻疹などの重症化しやすい重い感染症です。
この機会に、麻疹について復習しておきましょう。
Ⅰ 麻疹の症状は
ⅰ 潜伏期間:麻疹ウイルスへの暴露から、発症まで10~12日間かかります。
ⅱ 発熱:38~39度の高熱が3~4日間続き(他人への感染力が強いのがこのカタル期です)、い
ったんやや下がり気味となりますが、その後、発疹とともに再度39~40度の高熱が数日間続き
ます(二峰性発熱)。
ⅲ 咳・鼻水・目やに・コプリック斑:あまり痰のからまない咳がかなり強く出ます。 そのうち痰が絡
んでくることが多いようです。鼻水、くしゃみもよく認められる症状です。また、結膜の充血や黄
色や黄緑色の目やにが数日間続きます(結膜炎)。下痢を伴うこともあります。
発熱3~4日目にほっぺたの裏側に赤みを伴った白色の小さな斑点が多数見られます(ちょうど
、粉チーズをふりかけたようです)。コプリック斑と呼ばれ、これは診断の決め手になりますし、
この時期が最も感染力が強いのです。コプリック斑は約2日程度で消えます。
ⅳ 発疹:発症3~4日目にいったん解熱した後、再度高熱が出現し持続しますが、同時に発疹が
出現します。発疹は、はじめ顔や首に出ますが、次第に胸や腕に拡大し、そのうち背中やお腹
、足へと全身に広がります。はじめは2~3mm程度の丸い赤色の発疹ですが、広がりはじめる
と発疹同士が次第に融合し、色も暗赤色に変化します。発疹は徐々に色素沈着(しみ)を残し
て治っていき、色素沈着は1~2週間で消えます。
この発疹期では、咳・鼻水・くしゃみ・目やになどのカタル症状がさらにひどくなります。
Ⅱ 麻疹の感染経路、感染力は
ⅰ 感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染と多彩です。
ⅱ 感染力:感染力はきわめて強く、免疫を持っていない人が感染すると、ほぼ全員が発症しま
す。麻疹患者1人から、免疫を持っていない15~20人に感染させるくらいの感染力があると云
われています。
Ⅲ 麻疹の合併症は
ⅰ 咽頭~気道系の合併症
○ 麻疹ウイルスによるもの:中耳炎、咽頭炎、喉頭炎、細気管支炎、肺炎
○ 細菌の二次感染によるもの:中耳炎、気管支炎、肺炎
ⅱ 脳・神経系の合併症
○ ウイルス性脳炎:発疹出現後2~7日の間に出やすい。1000人に一人くらい。嘔吐、頭痛、
けいれん、意識障害などが症状です。
○ 亜急性硬化性全脳炎:麻疹にかかった後6~7年後に発症します。ゆっくりと進行する予後
不良の脳炎で、麻疹に罹患した人の数万人に一人が発症すると云われています。学力低
下や行動異常で始まることが多く、徐々に運動障害やてんかんが加わり、意識障害や昏
睡となります。
Ⅳ 麻疹の治療法は、予防法は
ⅰ 治療法:特異的な治療法はなく、症状に応じた対症療法が基本となります。合併症が認めら
れた際は、それへの対策が必要です。
ⅱ 予防法:母体からの抗体は、生後3~4ヶ月くらいまでは有効ですが、徐々に減少し、生後8ヶ
月以降になるとほとんど無効となります。したがって、前述した麻疹ワクチンの接種が必須とな
ります。
麻疹患者と接触した場合、接触後3日以内ならば麻疹ワクチンで感染を防止できる可能性が
あります。
麻疹は一度罹ると二度と罹らない免疫(=終生免疫)が獲得されると考えられ、ワクチン接種
の場合も同様に免疫は終生続くと考えられていました。しかし、ワクチン接種の人には前述の
修飾麻疹や二次性ワクチン効果不全を絶えず考慮していなければいけません。
また罹患した際には、熱が下がって3日を経過して元気があれば登校・通勤してもかまいませ
んが、他人への感染の配慮が必要です。
昔は、麻疹はだれでも罹る病気、むしろ罹患させたほうがよいと云って無理に患者に接触させたりもしました。だから今の親や高齢の方々は麻疹の怖さの認識が少ないように思います。合併症の存在からも麻疹を軽視することのないようにしてください。また、麻疹ワクチンの接種率は先進国の中でも低い方で、わが国は麻疹輸出国になっています。このような視点からも、ワクチン接種を再認識してください。