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Ⅰ 目のしくみ

Ⅱ 遠近をどう調節して見ているのか

Ⅲ 近視(近眼)、遠視、老視(老眼)、乱視

  1) 近視(近眼)

  2) 遠視

  3) 老視(老眼)

  4) 乱視



近視・遠視・老眼について

保健管理センター所長 上田 尚彦


 日本人の約半分がメガネやコンタクトレンズを使用しています。若い頃から近視のためにメガネをかけている人が多いですし、年をとると次第に老視となり老眼鏡が必要となります。私たちの体が受信する外部からの情報の80%は視覚、つまり目から得ていると言われています。目のしくみはよくカメラに例えられますが、はるかに優れたメカニズムを持っているのです。

Ⅰ 目のしくみ
眼球の断面図
目をカメラに例えると、レンズを保護する前蓋まえぶたとシャッターにあたるのが眼瞼がんけん(まぶた)、光を屈折する無色のフィルターが角膜、レンズが水晶体すいしょうたい、絞りの働きをするのがレンズの前にある虹彩こうさい、フィルムに相当するのが網膜もうまく、ということになります。

  • 眼瞼(まぶた):裏側は眼瞼結膜という膜でおおわれ、ここから粘液が分泌され、涙とともに角膜や結膜を潤し、同時にゴミや細菌を洗い流しています。“目やに”の正体はこの粘液が乾いて固まったものです。まばたきは2〜10秒に一度、無意識のうちに行われています。
  • 睫毛しゅうもう(まつ毛):何かが目に近づきすぎたことを知らせる、センサーのような役目をするのがまつ毛です。これが眼球の方を向いて生えると、眼球の表面に触れ、傷つけたりすることもあります(逆さまつ毛)。
  • 結膜と角膜:眼球全体は強膜きょうまくで包まれていますが、そのなかでも黒目の部分は透明な角膜(角膜を通って目の奥に入った光はなかで吸収され反射しないので角膜部分が黒く見える)、白目の部分は白色の結膜(その下にある白色の強膜が透けて見えるため)でおおわれています。外気と接触するため、角膜炎や結膜炎などの炎症を起こしやすいのです。
    角膜の特徴は、血管がないことで、このために透明さが保たれているのです。そのため、角膜の細胞は酸素や栄養分を、血液からではなく、眼房水がんぼうすい(角膜と水晶体との間を満たしている液体)や涙から取り入れています。
  • 虹彩と瞳孔どうこう:黒目の中の茶色の輪の部分が虹彩で、中心の黒い部分が光を通す瞳孔(ひとみ)です。虹彩には紫外線をカットする働きのメラニン色素が含まれ、その量が多ければ茶色、少なければ青色となります。虹彩は、瞳孔を大きくしたり小さくしたりして、通過する光の量を調節する働きをしています。
虹彩による瞳孔の調節
  • 水晶体と毛様体もうようたい・チン氏帯(毛様小帯もうようしょうたい:レンズである水晶体は、毛様体とチン氏帯(毛様小帯)によって支えられています。直接に水晶体を支えているチン氏帯は毛様体と水晶体の間を結ぶとともに、毛様体(毛様体筋)と連動し水晶体の丸みや厚さを変え、屈折率(屈折力)を調節しています。
  • 硝子体しょうしたい(ガラス体):透明なゼリー状の物質(コラーゲン)からなる硝子体は、眼球の形を整える働きをしています。ガラス体とも言います。この硝子体が濁ったりしますと、目の前に虫や糸くずなどの浮遊物が飛んでいるように見える“飛蚊症ひぶんしょう”の原因となります。
  • 網膜と視神経:眼球の内面の硝子体を包む膜が網膜で、瞳孔から入る光の受容器である視細胞しさいぼうがあり、映った像を電気信号に変換させ、視神経を通じて大脳に送られ、視覚を生じさせるのです。
  • 外眼筋がいがんきん眼瞼挙筋がんけんきょきん(筋肉):眼球の外にくっついた6本の筋肉によって眼球を動かしたり、まぶたの開閉を行います。

Ⅱ 遠近をどう調節して見ているのか
 目とカメラの大きな違いは、ピント合わせのしくみです。カメラでピントを合わせる場合は、レンズの位置を前後に動かしてフィルムとレンズの距離を変えますが、目はレンズ(水晶体)を前後に動かせないので、かわりに、水晶体の厚さや丸みを変える(屈折率を変える)ことによって焦点を合わせています。遠近を見る調節機能は、毛様体とチン氏帯(毛様小帯)の共同作業で行われます。
 遠くを見ている時は、毛様体筋は収縮していない(縮んでいない)状態にあり、この際、水晶体はチン氏帯により引っ張られており、水晶体は薄くなっています。こうして水晶体の厚さを薄くする(屈折率を下げる)ことで遠くにある対象物を網膜に映し出します。
 近くを見ようとすると、毛様体筋は収縮し(縮み)、チン氏帯は弛緩しかん し(ゆるみ)、水晶体が厚くなります。これは水晶体自体の丸くなろうとする力によるものです。水晶体が厚くなる(屈折率を上げる)ことで近くにある対象物を網膜に映し出します。
 すなわち、遠くを見ている時は、毛様体筋は緊張していない自然な状態ですが、水晶体は引っ張られた状態にあり、近くを見ている時は、毛様体筋が緊張した状態で、水晶体が自然な状態にあるということになります。
  水晶体の動きをゴムボールに例えると分かりやすくなります。かろうじて球形が保てるくらいに空気を抜いたゴムボール(水晶体)にたくさんの釣り糸(チン氏帯)をぐるっと一周貼り付けます。釣り糸を引っ張るとゴムボールは円盤状に変形して薄くなります。釣り糸を緩めると元の球形に戻ります。この釣り糸を引っ張ったり緩めたりするのが毛様体筋なのです。
遠近の調節

Ⅲ 近視(近眼)、遠視、老視(老眼)、乱視
 光は角膜で強く屈折され、瞳孔を通り、水晶体で再び屈折されて網膜に像を結びます。その位置は、角膜と水晶体が光を屈折する力と、角膜から網膜までの長さ(眼軸がんじく)で決まります。網膜上に正しく像(焦点)を結ぶのが正常な状態(正視せいし)で、網膜より前に像を結んでしまうのが近視、網膜より後ろに像を結んでしまうのが遠視です。
1) 近視(近眼)
  近眼は英語で near sighted eye という通り、近くにピントが合った目のことです。当然遠くは見えにくいので“視力が悪い”という印象がありますが、矯正視力さえ良好なら、むしろ「近くがよく見える目」なのです。二つの原因で起こります。
  1. 眼軸の長さが長すぎる場合:眼軸の長さが長すぎると、遠くを見た時に水晶体を十分薄くしても、網膜上でピントが合わず、網膜の手間でピントが合ってしまいます。このような近視を軸性近視じくせいきんしと呼びます。近視の大部分は軸性近視です。
  2. 角膜・水晶体の屈折力が強すぎる場合:角膜・水晶体の屈折力が強すぎると、遠くを見た時に網膜上でピントが合わず、網膜の手間でピントが合ってしまいます。このような近視を屈折性近視と呼びます。

近視の場合には、おうレンズのメガネを使用すると、像が網膜上で結ばれ、遠くのものがよく見えるようになります。


注釈

 

成長過程の子供が近視になる理由:眼軸の長さは、成長に伴い伸びていきます。新生児は眼軸の長さが短く、たいてい遠視の状態になっていますが、角膜・水晶体の屈折力が強くなっているので、それほどひどくはありません。角膜・水晶体の屈折力は、眼軸の長さが伸びるとともに弱くなり、全体のバランスが調整されるようになります。しかし、環境の影響などでこれらのバランスが崩れると、近視になると考えられています。

遺伝的な要因:親が近視の場合、子供が近視になる可能性は比較的高く、遺伝的な要素が複雑にからんでいると考えられます。

環境的な要因:一般的な近視の場合、環境も影響すると考えられています。勉強、読書、テレビ、コンピュータゲームといった近くを見ることを続けていると、目が疲れ、好ましくないのはいうまでもありません。しかし、こういったことが近視の原因になるかどうか、はっきりした証明はありません。

仮性近視:最近ではあまり言われなくなりましたが、毛様体筋が緊張した状態から戻らなくなった状態を仮性近視または偽近視ぎきんしと呼び、近視とは少し違う見方をしていました。視力低下が始まってからまだそれほど時間の経っていない、非常に軽い近視のことをさしており、(真性)近視への移行段階で、目を酷使しますとそれを早めます。


2) 遠視
 遠視も眼軸の長さが短くて起こる軸性遠視と、屈折力が弱くて起こる屈折性遠視がありますが、前者が大部分です。遠視は遠くにピントが合っている目ではありません。目の屈折力が眼球の長さ(眼軸)に対して弱すぎるため、そのままでは網膜上にピントが結べない状態なのです。若いうちは目に力が十分ありますから、遠くが得意な“視力のよい目”ですが、目の屈折力が衰えるにつれ、まず近くが、そして室内距離範囲が見えにくくなってしまいます。
  遠視が強ければ、遠くも近くもはっきり見えなくなり、見えていても、目が余分な努力を続けるので疲れます。視力がよいのに目が疲れやすい、仕事をすると肩が凝ったり、頭が痛い、という「眼精疲労」になりやすい目なのです。眼科医からみれば、「視力の悪い」近視は大した問題ではなく、「視力のよい」遠視の方がずっとやっかいなのです。
  遠視の場合には、とつレンズのメガネを使用すると、像が網膜上で結ばれ、近くのものも見えるようになり、視力が向上します。

注釈 軽い遠視ならメガネは要らない:子供の目は発育途中なので眼軸が十分伸びていません。したがって、子供の遠視は異常ではありません。小学生/中学生の頃は遠近調節力がかなりあり、少しの遠視でも十分に調節ができるため、メガネをかける必要はありません。

3)老視(老眼)
 老視とは、年齢とともに新聞や雑誌を読む時、細かい字が見づらくなってくることで、目の調節能力が低下し、近くが見えにくくなる目の状態をいいます。個人差はありますが、通常、40歳代中頃から始まります。60歳頃にはピント合わせの能力が必ずゼロになってしまいます。
  加齢とともに水晶体(レンズ)の弾力性が失われ、硬くなるため、毛様体筋を収縮させ、チン氏帯を緩めても、水晶体の厚さが戻らないようになるためです(屈折率が低下)。
  老視も、遠視と同じように、像は網膜の後ろで結ばれるようになるので、凸レンズを用いることによって水晶体の湾曲わんきょくの不足を補えば、矯正できます。ただ、度数がゆるいうちに遠近両用メガネのような便利な道具に慣れていく方が賢明です。老眼によるトラブルの多くは、対策を遅らせすぎて慣れるチャンスを逸したために起きています。

注釈

遠視と老視はどう違うか:近くが見えにくいという共通点はありますが、両者の違いは調節力があるかどうかです。遠視はレンズパワーがマイナス寄りの屈折異常ですが、調節力があるので近くもなんとか見ることができます。老視は調節異常ともいわれるくらいで、調節力が減ってくる/無くなっている状態です。
近視の人でも老視になる?:“近視の人は老視にならない”といわれることがありますが、近視の人は元々近くにピントが合っている状態のため、老視が始まってもすぐに老眼鏡が必要にならないというだけのことです。実際には近視の目でも、1.0見えるようにメガネを合わせた状態では、やはり文字を読むことはできません。普通の人が老眼鏡を掛けるかわりに、近視の人はメガネを外すというだけのことなのです。
遠視の人は老視になるのが早い:近視とは反対に、遠視は元々遠くにピントが合って、近くのものにピントを合わせにくい目です。このため、強い遠視でなくとも、40代以前から近視障害を訴える人が多いようです。これは、老視が始まったというより、目の遠近調節力が低下したためと考えられます。テレビを見るのに、ゆるい老眼鏡が要ることもあります。
遠近両用メガネとは:凸レンズの老眼鏡は、掛ければ遠くが見えづらくなるので、近くのものを見る時だけに限定的に使用されますが、遠近両用メガネは、この不便さを解消した老眼鏡です。レンズ下方は凸レンズを使用し近くがよく見える、レンズ上方は凹レンズを使用し遠くがよく見える、このように一つのメガネで遠近が見えるようにしたものです。


4)乱視
 乱視は、角膜や水晶体の球形表面の歪みによって、像が網膜に届くまでに乱れてしまう目のことをいいます。乱視の程度は、傾きの異なる直線を並べた図形で判定します。乱視になると、縦の線がはっきり見える時に、横に走る直線がぼやけるといったことが生じるのです。よく間違われることですが、乱視はものが二重に見える状態ではありません。
 乱視の人は、目の疲れを訴えることが多いので、完全に矯正するのが原則です。ただ、乱視の入ったメガネは、慣れるのに多少の努力が要りますから、最初はわざと弱めに合わせることもあります。乱視の強い人は、メガネによる視力の矯正ができない場合が多く、このような時はコンタクトレンズを使用すると、よりよい矯正が得られます。この際、乱視は角膜乱視と水晶体乱視を合計したものですから、角膜に乗せるコンタクトレンズは、角膜乱視と水晶体乱視のバランスを考えて選択しなければなりません。

注釈 弱い乱視なら問題ない:正確に調べてみると、多くの人の目には弱い乱視が認められます。ただ、近視も遠視もなく毛様体筋が正常に調節を行っていれば視力にも影響はありません。このように視力に異常がない弱い乱視を「生理的乱視」と呼びます。

目の健康のために

正しい姿勢で勉強や読書をしましょう。背筋をきちんと伸ばし、目と本の距離は30cmくらい離しましょう。勉強や読書を1時間したら、10分くらい目を休めましょう。
照明は明るすぎたり、暗すぎたりすることのないよう注意しましょう。
運動や散歩などして、遠くを見るように心がけ、目に負担のかからない生活を送るようにしましょう。
テレビを見たら、しばらく目を休ませましょう。コンピュータゲームなどを40分以上続けないようにしましょう。
栄養のバランスを考えて、緑黄色野菜などを十分に取り入れた食生活を送りましょう。
視力に異常を認めたら、眼科医を受診しましょう。


引用図書
稲田英一著「病気のしくみ」、ナツメ社、東京、2001
蒲原聖可著「からだのしくみ」、日本実業出版社、東京、2000
服部光男、岡島重孝監修「病気がわかる 体の手引き」、小学館、東京、1996
「眼球の調節機能」、http://www5f.biglobe.ne.jp/~wakannai/chousetu.html、2005