画像でつくる仮想の世界
情報科学研究科  像情報処理学講座
      教授 千原 國宏  助教授 眞鍋 佳嗣
研究室には、UFO(未確認飛行物体)のような円盤型の翼を持った飛行機「スカイブレード」の写真がかかっていた。像情報処理学講座の研究員が製作したこの飛行機は、直径一メートルの大きさで十五台のカメラを環状に配置して、三百六十度の画像を一度に撮影し、画像を地上に送信できる。ラジコン操作で高度三百メートルまで上昇し、ヘリコプターのように空中でホバリングできるので、災害現場の上空を飛び回って被害状況を探査するのにうってつけだ。この研究では、画像を上空から基地局に送信する際、画像の乱れを少なくする新技術が開発された。  「大学院の学生だから、それぞれ自分が手掛けたい夢のテーマを持っています。画像メディアに関する研究ならどのような研究でも取り組めるほど指導態勢や設備が整っているのですが、ただこれまで誰も考えつかなかったテーマを提示し、夢を見せて欲しい」  千原教授は、こともなげにそう話したが、新分野の開拓は研究者にとってハードルが高い。しかし、それだけに、研究室が取り上げるテーマは幅広く多岐にわたり、さまざまな研究プロジェクトに関わる原動力になっている。

実写とCGを融合  

同講座のテーマは、①実写映像を解析し、処理する「環境画像」②CG(コンピュータグラフィックス)を使って現実にない画像を作る「バーチャル画像」③医療の教育や研究用の「メディカル画像」の三本柱。実写やCGの画像を計測して処理し、見てわかりやすいように変換したり、機械が識別しやすいようにインターフェイスを工夫したり、千原教授>仮想の画像空間を作り上げて現実を理解しやすくする技術の開発である。人間はほとんどの情報を視覚から得ているが、その情報を人間同士のコミュニケーションや機械の扱いにも役立つように仕立てていくのだ。  例えば、現実の映像と仮想のCG画像を組み合わせ、あたかもその映像環境の中にいるかのような立体的な画像を作る研究を見てみよう。まず実写映像を解析し、映像情報の不足部分をCGで補い立体感を生み出す技術が要求される。次いで周囲を取り巻く複数のスクリーンの映像が繋がっているように同時に動かせる技術、さらに、映像と音響、肌に伝わる振動を同期させる技術などきめ細かな技術の集積が調和し、違和感なく機能することが必要なのだ。最近では、画像の中のりんごを取って匂いが嗅げる「香り」と連動したシステムも作り上げた。  こうした研究成果の応用は幅広い。医用画像を使い脳や心臓など身体の内部を立体画像にして医学の教育研究に役立てたり、目の動きをチェックするセンサーを働かせ、その動きに応じて画像を変化することで、アメリカンフットボール選手の状況判断訓練を支援したり。視線を追跡して困っている人をサポートする高齢者の生活支援など福祉工学にも及んだ。  このほかのテーマでは、顔の特徴などを識別してセキュリティーに役立てる生体認証の「画像認識」、デジタル画像で文書や美術品、映像を収蔵する「電子博物館」など情報考古学分野、地域医療の拡充のために超音波画像などを専門病院に伝送して診療に使う「テレエコー」システムなど画像メディアのほとんどの分野をカバーしている。

光で計測する  

また、眞鍋助教授は、光を当てて得られた物体のカラー画像から、どのような素材であるかを識別し、全体の立体的な形状や微細な表面の様子を計測したうえ、自然のままの質感、光沢を表現する研究に取り組んでいる。真鍋助教授   光は赤、青などさまざまな波長の光が混じっている。それぞれの光の物理的な反射の特徴(分光データ)を数値化し、それをもとに光の種類や当て方を変えることで、一度に精密な計測データや光沢などの表現に繋がる分光データが得られるという装置を開発した。人間の肌や真珠など自然物をCGでリアルに表現することも可能になりそうだ。  「透明な物体については、物体を通して映る背景のゆがみなどを計測して形状を突き止めることができました。形状、質感を頼りに特定の物体だけを認識し、管理する装置も開発することができるでしょう」と眞鍋助教授は説明する。  情報社会はいまやユビキタス時代に入った。どこにでもコンピューターがあり、溢れる情報をスムーズに処理し、活用するという未来像が描けるなかで、文部科学省の二十一世紀COEプログラム「ユビキタス統合メディアコンピューティング」に奈良先端科学技術大学院大学が採択された。その拠点リーダーを務める千原教授は、衣服に着装して使えるウエアラブルコンピュータなどユビキタス社会の情報端末で使う画像ソフトの研究でも知られる。千原教授は「ユビキタス社会は現在さまざまなコンテンツの種をまいている段階です。多種のコンテンツを整理・統合して体系付けることが大切で、その中でも視覚メディアが中心的な役割を果たしていくでしょう」と話している。    
■像情報処理学講座

画像メディアと仮想現実感技術の開発を通して、画像の計測・処理・変換・認識・可視化まで、画像を機械と人間また人間 と人間とのコミュニケーションのための主要なメディアと捉えて、広く画像情報処理に関する教育と研究を担当しています。

教授 千原國宏
助教授 眞鍋佳嗣
助手 安室喜弘
助手 井村誠孝
   
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