平成12年度学位記授与式

 学長式辞 

 21世紀の初頭に、本学から学位を授与された諸君の今までの研鑽に対して、敬意と慶祝の言葉を教職員一同を代表して申し述べます。学位を授与されましたこと誠におめでとうございます。

 本日ここに博士の学位を取得された方は情報科学研究科21名、バイオサイエンス研究科30名であり、修士の学位を受けられた方は情報科学研究科131名、バイオサイエンス研究科120名、物質創成科学研究科85名であります。本学を巣立っていく人、また更なる勉学を本学で続ける人、それぞれのこれからの前途は異なっても、学位を取得したという一つのくぎりにおいては一致しています。21世紀の人類の運命は諸君の掌中にあります。ひとつ、多くの困難を乗り越えて頑張ってほしいと期待いたしております。

 今回学位を授与された諸君に、最近の私の感ずることを述べたく存じます。20世紀の後半から今世紀にかけて世界の人類は大きな危機に直面しています。すなわち、科学技術のあまりにも大きく急激な進歩が、人類の社会生活に及ぼした影響が、予想を超える大きなものであり、また、将来の我々の生活に、どのような変革を強いるのか不透明である点であります。連日のように報道される情報技術(IT)革命や、生命科学に基づく再生医療など、その進歩は止まるところを知りません。一方、環境破壊、エネルギー源の枯渇、人口増加に対する食糧と水不足の問題など、人類の死活にかかわる問題に直面していても、その解決は遅々として進みません。

 これらの現在誘発している問題を考えますと、科学技術の進歩自体が矛盾を含んでいます。人類のより快適な生活を支えるために、使用される多くの化石エネルギーの消費は、地球環境の破壊を起こし、情報通信の原理追求が現在の膨大な情報発信を促し、それを使用する力の格差が、ひずみある社会を形成しつつあります。さらに、基礎生命科学のゲノム分析は個人の遺伝的問題にまで及び、倫理上の問題を起こしつつあります。

 科学技術が進めば進むほど、今まで人類が直面しなかった根元的な生存の危機を引き起こすことになります。昔は、科学技術の大きな発明、発見があっても、それは単発的であり、それによる社会変革も自己回復能力によって調和を保つことができました。ところが現在のように多発的、連続的な発見と、技術的な革新が起こると、それが引き金となって、連動的に広領域にわたってその影響が顕現し、人類にとってもコントロールできなくなるほどになっています。そして人類は、一度近代文明を享受すると、それが当然のこととなって、なかなか元の生活に戻ることが難しくなり、かつ、その恩恵を当然と考え、素朴な心を忘れがちであります。

 今、21世紀の始まりにあたって、先端科学技術を攻究する我々にとって大切なことは何か、人類にとって真の幸せは何か、どうすれば持続可能な世界を築くことができるかを考えるべきです。従来から、日本の大学における構成員は、学生諸君の充実した教育と自己の高度の研究に没頭し、一般社会とは少し離れたところにあり、また、そのような態度であってこそ、よき教育、研究ができると不文律的に考えられてきました。現在においては、その考えは適当でないと私は考えています。大学から発信された多くの発明、発見が現在の社会の展開に、あまりにも大きく影響をもっているからであります。大学人はまず一社会構成員であり、しかも社会に対して非常に大きな責任ある立場にあります。

 我が国の為政者も場当たり的な政策ではなく、人類生存の長期展望に立って、新しい視野に基づく社会システムを、再構築すべきであると考えます。安心して長生きできる日本社会システムの再編成、発展途上国と共有共栄していく相互繁栄の外交政策、地球環境悪化を阻止する積極的な規制と技術開発、促進などを強く期待したく思います。現在と同じように社会的混乱と社会変革に面した明治維新の時の話をします。戊辰戦争で廃虚と化した長岡藩の食糧の困窮を見かね、明治3年、支藩の三根山藩から米百俵が救援されました。長岡藩大参事小林虎三郎は佐久間象山門下で、吉田寅次郎(松陰)と共に「象山門下の二虎」と呼ばれた人でありましたが、その米の配分を待つ藩士に対し、その日暮らしでは藩は成り立たないとして、この米を売り、書籍を購入し、国漢学校を設立しました。小林虎三郎は立国の根元は教育にあるとしました。誠に奥深い精神であり、その心は今も「米百俵」の故事として言い伝えられています。

 私は常に本学の理念、本学の先端科学技術の教育、研究は社会に真に役立つ根元的なものであらねばならぬ、と述べてきました。本日ここに巣立つ諸君も、そのことをよく理解されたことと思います。そして社会に出られても、本学において学ばれた自主自尊の確信をもって、この困難に面している社会の建て直しに立ち向かっていただきたく思います。

 さらに、諸君と共に学長を去る私から、小林虎三郎の残した言葉を贈りたいと思います。「のこない夜はない」。誰にでも挫折や困窮する時がありますが、必ず夜明けはきます。大切なことはその挫折や困窮から如何に立ち上がるかで、その人間が決まると思っています。

 本日学位を授与された諸君、日本の21世紀は、特に諸君の生き方にかかっています。常に初心に帰り、素朴な心をもって、ますます研鑽されることを祈っております。

 本日は誠におめでとうございます。

                              平成13年3月23日

                                                      奈良先端科学技術大学院大学

                                         学 長 山 田 康 之

答  辞

◆ 情報科学研究科修了者代表挨拶

 情報科学研究科修了生を代表して,ご挨拶させて頂きます。

 本日は,ご多忙のところ,学位記授与式に多くの方々のご出席を賜わりまして,誠にありがとうございます。

 本日をもちまして,私たちは奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士前期課程及び博士後期課程を修了します。今日の日を迎えるまでに,学長の山田先生を始め,先生方,事務局の皆様方に多くのご支援を賜わりましたことを,修了生一同心からお礼申し上げます。同時に,日頃お世話になった研究室の皆様,暖かく支えて頂いた家族にも感謝の意を表したいと思います。

 本学は,異なるバックグラウンドをもつ学生の受入れ,国際交流,産業界・他大学との連携など,他大学の大学院にはない個性をもっております。これらの特徴は,日々進歩する先端科学技術に柔軟に対応するために,いずれも不可欠な要素であると考えます。5 年前もしくは 2 年前,高い目的意識をもって本学に入学した私たちは皆,このようにハード面・ソフト面すべてが充実した素晴らしい環境の中で,非常に有意義な時間を過ごす機会に恵まれました。

奇しくも,私たちは 21 世紀最初の年を新社会人として迎えることになります。情報科学の分野を例にとりますと,20 世紀の最後の 5 年間でインターネットが驚異的なスピードで家庭レベルにまで浸透し,IT という単語が流行語として扱われるまでになりました。これに伴い,多くのビジネスモデル,ライフスタイルの変化が引き起こされました。しかし,全体を見渡せば,まだ様々な技術が実験段階であり,真の情報化社会の実現に向けては未だ多くの研究課題が残されています。21 世紀,私たちが担うべき役割は益々大きくなっています。そのような中で,本学で身に付けた専門性および方法論は,今後の研究者,技術者としての活動の場において必ず生かされるものと確信しています。

本学は既に多くの修了生を輩出しており,例えば情報科学研究科は設立以来 9年間で 1000 人を超える修士,博士号取得者を輩出したと伺っています。これらの諸先輩方のご活躍を通じて,本学も社会的に広く認知され,安定した高い評価を得られるようになったことと思います。私たち今年度の修了生も,これから一人一人が各自の場において本学の修了生であることを自覚し,後輩の皆さんのためにも,更なる良き伝統を築きあげていくことができるよう,常に努力を惜しまず精進して行く所存です。

 最後になりましたが,本日お集まり頂いた皆様方の,今後のご健康とご活躍,並びに本学のますますのご発展をお祈り致しまして,修了生一同の感謝の言葉に代えさせていただきます。

 

                               平成13年3月23日

                                    情報科学研究科 修了生代表

                                                 清 水 將 吾

 

◆ バイオサイエンス研究科修了者代表挨拶

Thank you very much Dean Yasuda.

I am here to speak on behalf of my fellow class members, the Biosciences class of the year 2001. For us, today marks the culmination of many years of our dedication and hard work. However, we would not have today without the support from people who have generously given their time and resources to help us achieve our goal. Who are these people? They are our professors, our mentors, our family, our friends, and all of the staff of this institute. They are involved in each and every part of our improvement and success. So, today, we would like to say thank you.

To President Yamada: Your passion to sciences and your great scientific mind have become the motivation for many of us. You have encouraged many young scientists, men and women, to follow in your steps. Thank you for being you and thank you for showing us how sciences should be practiced.

To our professors: You have given us the most valuable gift ― knowledge. You have taught us how to think critically, as a person, and as a scientist. You have taught us to analyze problems, to propose solutions, to weight outcomes confidently, and to feel the excitement of new challenges. You have been far more than our educators. You have become our mentors, our friends, and our source of pride. We love and respect you. The class of 2001 thanks you deeply.

To the staff of this institute: You have provided us with terrific facilities. Nothing including this event would have been possible without your depth of commitment and hard work. All your help in every aspect related to our lives in the campus will not be forgotten. Thank you very much.

To our family: Your support, your love, and your understanding have kept our spirits and our hearts alive. We are here today because you taught us the value of good education and the rewards of working hard. We are here today because you believe in us. Thank you very much.

To our friends: You are almost everything. Thank you for being around when problems seem too difficult to be solved. Thank you for every hug and every pat on the back. Thank you for your advices and your smiles. Above all, thank you for your friendship.

I am also here to speak on behalf of international students graduating today. As you can imagine, to start a new life in a foreign land can be sometimes difficult. However, I am sure it would had been much more difficult without help and support from the people I just mentioned, especially from the staff of the International Center, and the staff of the Ministry of Education, Culture, and Science of Japan. Because of you, we managed to come this far. Thank you deeply.

All through these years, we have learnt to appreciate and understand Japanese culture. All through these years we have befriended with students from Japan and all over the world. Let us not forget what we have learnt from here. Let us not forget to respect and understand people from different culture and race. And let us not forget the international friendship we have made here.

My friends, we are leaving Nara Institute of Science and Technology to enter the real world, the world with so many problems waiting to be solved. Let us use our knowledge to solve problems of hunger, disease, and environmental degradation. Little by little, let us make this world a better place.

My friends, we are well prepared ― the rest is now up to us.

Thank you.

 

                                   平成13年3月23日

                                           バイオサイエンス研究科 修了生代表
                                                      Pulla Kaothien

 

◆ 物質創成科学研究科修了者代表挨拶

 物質創成科学研究科修了生を代表して、ご挨拶させていただきます。

 本日は、ご多忙のところ、学位記授与式に多くの方々のご出席を賜り、誠にありがとうございます。

 本日をもちまして、私たちは奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科博士前期課程を修了いたします。私たちがこの授与式の場に至るまでには、山田学長をはじめ、本学教官、事務局の皆様方、支援財団の方々に並々ならぬご支援を賜りました。修了生一同、心から厚く御礼申し上げます。

 昨今、わが国日本において、国への誇りを持つことができないという人が増えてきたという話をよく耳にします。悲しいことですが、そのようなことではこの国の今以上の発展は期待できないのではないかと危惧します。一方、私たちがこの国に誇りを持って努力を続けるならば、これからも日本は必ずや世界の中で確固たる地位を築いて行くことができると思います。大学についても同じことが言えるのではないでしょうか。卒業生が自分たちの母校に誇りを持って努力するならば、きっと大学が今後も一段と発展して行くための大きな力となるに違いありません。

そこで、私から修了生の皆さんに一つ提案したいことがあります。皆さんそれぞれが目標や希望をお持ちだろうと思いますが、それらにもう一つ、本学を私たちの力で誇りある大学にすることを私たちの目標に追加しようではありませんか。本学は科学技術にたずさわっている人達にはある程度知られているでしょうが、一般的にはそれほど知名度が高い大学だとは言えないと思います。それには規模の問題や、地理的条件などいくつかの理由が考えられますが、一番の理由はやはり‘新しい’ということでしょう。明治時代の初めには多くの‘新しい’ことが私たちのような若い人達によって行われ、日本の新しい歴史が作られました。     

しかし、これまでに私たちと同世代の人たちで、新しい環境に身を置き、そこに自分たちが歴史を作っていくという経験をした人は少ないのではないかと思います。私たちはそのような経験をすることができるのです。それはすばらしいことだと思います。私たち自身が本学出身者であることに誇りを持ち、日本、いや世界のために尽くすならば、それによっておのずから大学も真に世界に誇れる大学になるのだと思います。私は、そのようにして私たちで本学を盛り上げていこうではないかと提案したいのであります。

 最後になりましたが、本日お集まりいただきました皆様方の、今後のご健康とご活躍、並びに本学のますますの発展をお祈り致しまして、修了生一同の感謝の言葉に代えさせていただきます。

  

                            平成13年3月23日
                                 物質創成科学研究科 修了生代表
                                                松 浦 大 輔   

 
★平成133月修了者
 
  
情報科学研究科
バイオサイエンス研究科
物質創成科学研究科
博士前期(修士)課程 
    131  ( 13
8
   120 ( 36

       [ 1

  85  ( 13

      [ 0

 336  ( 62

     [ 9

博士後期(博士)課程
    21   ( 1

5

 30 ( 11

       [ 1

( _

_
51  ( 12

     [ 6

計 
     ( 14
    152
     [ 13
       ( 47
               150
       [ 2
     ( 13
       85
      [ 0
     ( 74
    387
     [ 15

注)(  )は女子数を内数で、[  ]は短期修了者を内数で示す。

★学位授与状況

 ●博士前期課
 
情報科学研究科
バイオサイエンス研究科
物質創成科学研究科
学位授与数
学位の内訳
学位授与数
学位の内訳
学位授与数
学位の内訳
修士(工学)
修士(理学)
修士(バイオサイエンス)
修士(工学)
修士(理学)
131 8
128 8
3 0
120 1
120 1
85 0
72 0
13 0

注)(  )は短期修了者数を内数で示す。

 ●博士後期課
 
情報科学研究科
バイオサイエンス研究科
学位授与数
学位の内訳
学位授与数
学位の内訳
博士(工学)
博士(理学)
博士(バイオサイエンス)
21 ( 5
20 ( 5
1 ( 0
30 ( 1
30 ( 1

注)(  )は短期修了者数を内数で示す。

奈良先端科学技術大学院大学同窓会会費納入のお願い

奈良先端科学技術大学院大学同窓会は、平成12年3月11日に会員(在学生及び修了生)相互の親睦を図り、併せて奈良先端科学技術大学院大学建学の目的及び使命の達成に寄与することを目的として設立されました。このたび修了される皆様には以前ご案内を差し上げ、会費の納入をお願いしておりますが、未だ納入されていない方は、下記の振込先へ是非納めていただくようお願いします。

なお、同窓会の活動内容や各種案内、皆様方からのご意見ご要望については、同窓会ホ-ムペ-ジ(http://alumni.aist-nara.ac.jp/)を利用してください。

金 額 : 20,000円(永年会費)

 銀行振込の場合

銀行名・支店名:南都銀行 登美が丘支店

口座名義: 奈良先端科学技術大学院大学同窓会

代表 城 和貴

口座番号: 普通預金 278442

郵便振込の場合

口座番号: 00960?4?158330番

口座名称: 奈良先端科学技術大学院大学同窓会

*問い合せ先:奈良先端科学技術大学院大学学生課 TEL 0743-72-5920(ダイヤルイン)
 



「せんたん」号外第4号(平成13年3月23日発行)
企    画:奈良先端科学技術大学院大学広報委員会
編集発行:奈良先端科学技術大学院大学総務部庶務課企画広報係
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