世界初!神経軸索を決定するタンパク質を発見
〜脊髄損傷や脳卒中後の神経再生の治療法開発に期待〜

  バイオサイエンス研究科細胞内情報学講座 稲垣直之助教授らの研究グループは、脳神経が複雑な神経回路を整然と形成する仕組みのかぎの一つになるタンパク質を世界で初めて突き止め、米専門誌「ジャーナル・オブ・セルバイオロジー」(インパクトファクター11.6)10月9日号に掲載された。
脊髄損傷や脳卒中により神経軸索が障害を受けると再生することができないため、その障害は患者や家族、社会にとって重い負担となっている。今回発見されたタンパク質は軸索を作る働きがあり、神経再生の治療法開発につながる可能性がある。

【論文要旨】
  神経細胞はシグナルを受け取る複数の短い「樹状突起」と、そのシグナルを出して次の細胞に伝える1本の長い線のような「軸索」で構成される。このような細胞がいくつも線状に連なり、情報の処理・伝達を行う。
  神経細胞が成長する時、まず細胞から複数の突起が生え出し、その中の1本が選ばれ、長く伸びて軸索になる。その後、残りはそのまま樹状突起になる。同じような突起からどの様にして1本の軸索が選ばれるのか、仕組みはよくわかっていなかった。
  そこで稲垣助教授らは、軸索に含まれるタンパク質が、突起の選択、伸長に関係していると発想。混在したタンパク質を種類分けできる世界最高感度の巨大なタンパク質泳動分離装置を作り、軸索に含まれる5千個以上のタンパク質を調べ、そのなかから「シューティン」というタンパク質を発見した。
  「シューティン」は神経細胞から複数の突起が成長する過程で、突起への輸送機構と拡散を介して1本の突起に濃縮し、軸索の形成を引き起こした。また、このタンパク質を減少させると軸索の伸びが抑えられることも確認した。これまでの研究では、軸索の形成時に機能するいくつかのタンパク質が見つかっているが、「シューティン」はそれらの働きを1本の突起に集めて軸索を決定する「司令塔」の役目をしていると思われ、複数の突起から1本の軸索を決定するタンパク質が見つかったのは世界で初めてである。「シューティン」は軸索が伸びる生後のラットの脳で量が増加し、軸索の再生が起こらない成体では量が減少することもわかっており、脊髄損傷や脳卒中後の神経再生の治療法開発につながる可能性がある。

【研究の背景】
  神経細胞にはシグナルを受け取る複数の短い「樹状突起」とシグナルを出す1本の長い「軸索」からなる。神経細胞内を伝わるシグナルの流れは、樹状突起から細胞体を経由して軸索へと至る方向性が生じており、神経細胞はコンピュータの半導体のように、シグナルの流れをコントロールする役目を果たす(補足図1)。神経細胞が成長する時、まず細胞から複数の突起ができ、その中の1本が選ばれて軸索になり、その後、残りが樹状突起になる。このとき神経細胞の対称なかたちは、軸索が伸びた非対称なものへと変換する(補足図2)。この過程で同じような突起からどの様にして1本の軸索が選ばれるのか、しくみはよくわかっていなかった。

左:[補足図1]シグナルの流れをコントロールする役目を果たす神経細胞
上:[補足図2]軸索が伸びた非対称なものへと変換した神経細胞

【研究の手法】

  軸索を決定するタンパク質を見つけるために、稲垣助教授らは横93cm x 縦103cmの世界最大サイズ・世界最高感度の巨大なタンパク質2次元電気泳動分離装置を作った。(参考までに通常の市販の大型2次元電気泳動分離装置のサイズは横24cm x 縦20cm程度である。補足図3)この装置を用いて軸索にある5千個以上のタンパク質を分離して調べ、「シューティン」という軸索に強く濃縮するタンパク質を発見した。


[補足図3]
上:市販のタンパク質分離ゲル
右:世界最大サイズ(93cm×103cm)のタンパク質分離ゲル

【結果】
  「シューティン」は神経細胞から複数の突起が成長する過程で細胞内の量が急激に増加し、突起への輸送機構と拡散を介して1本の突起に濃縮した。また、このタンパク質は軸索の形成を引き起こし、このタンパク質を減少させると軸索の伸びが抑えられることも確認した。これまでの研究では、PI3キナーゼなどの軸索の形成時に機能するいくつかのタンパク質が見つかっているが、「シューティン」はPI3キナーゼの働きを1本の突起に集めて軸索を決定することもわかった。

【本研究の意義と位置づけ】
  複数の突起から1本の軸索を決定するタンパク質が見つかったのは世界で初めてである。
  また、生体は発生や分化に従って次々に非対称性を獲得して固有のかたちを形成するが、生体が遺伝子情報を使ってどの様にして非対称性を獲得するのかというしくみは大きな謎である。本研究はそのしくみの一端を明らかにしたという意味でも学術的な意義は大きい。

【医療への応用】
  「シューティン」は軸索を作る働きがあり、軸索が伸びる生後の脳で量が増加し、軸索の再生が起こらない成体では量が減少することもわかっており、脊髄損傷や脳卒中後の神経再生の治療法(遺伝子治療や薬剤)開発につながる可能性がある。

【本件に関するお問い合わせ先】
バイオサイエンス研究科  細胞生物学専攻  細胞内情報学講座  助教授  稲垣  直之
TEL: 0743-72-5441   FAX: 0743-72-5449   E-mail: ninagaki@bs.naist.jp

このトピックにつきましては、以下のとおり報道されました。
2006年10月11日  日経産業新聞、毎日新聞、産経新聞、日刊工業新聞、奈良新聞



バイオサイエンス研究科  細胞生物学専攻  細胞内情報学講座

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