せんたん Jan.2013 Vol.21

せんたん Jan.2013 Vol.21 page 14/28

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知の扉を開くバイオサイエンス研究科分子スイッチが調節していた種子をつくる植物は、体が地面に固定されているだけに、それを補うかのように環境に合わせて自在に形を整えて体を作っていく。つまり遺伝子の働きによ....

知の扉を開くバイオサイエンス研究科分子スイッチが調節していた種子をつくる植物は、体が地面に固定されているだけに、それを補うかのように環境に合わせて自在に形を整えて体を作っていく。つまり遺伝子の働きによる機能の制御だけでなく、光の強さや重力の方向など植物体に対するさまざまな周囲の環境の変化を的確に受け止め、対応している。「動物の脳のような全体を統括する場所がないのに、なぜそのようなことができるのか」。こうした植物の大きな謎に分子のレベルで機構を明らかにしようと挑んでいるのが田坂研究室だ。植物の体作りの出発点は、種から発芽までの「胚」形成の時期で、上部と下部の両端に細胞を分裂、増殖する組織ができる。それぞれ成長の過程で常に植物体の最先端に位置して、細胞数を増やし、体を伸ばす役割がある。上に向かえば、茎、葉、花をつくり、一方で地下に潜って根を生やす。田坂教授は、植物が重力の方向を感じて形を変える「重力屈性」の研究で知られるが、現在の大きなテーマは、このような植物が環境の変化に応じて反応し、生育する際に、体を形づくっている多くの細胞の間でどのようなコミュニケーションが行われ、それがどのように形態の変化に関わっているかを調べることだ。そこには、これまで想定すらされてこなかった仕組みがあることが分かってきた。その大きな成果のひとつが、打田直之助教らとともにモデル植物のシロイヌナズナを材料に行った研究で、植物が生育環境に合わせて背丈をさらに伸ばしたり、縮めたりするときの分子スイッチを世界で初めて発見したことだ。この分子スイッチは、植物体の内皮といわれる組織から放出される特定の生理活性物質(EPFL4、EPFL6)が、糖質などの通り道である篩部(しぶ)という別の組織にある受容体(ERECTA)に結合し、認識される過程でこれにより背丈が伸びる。両者の機能のどちらかが失われると背が低くなるのだ。動物に見つかるような、特定の物質(リガンド)と受容体の結合によってピンポイントで制御される仕組みが植物の体作りでも働いていたのは驚きだが、さらに組織を隔てた細胞のコミュニケーションが植物でも重要である事を証明している。植物の形の多様さと生存戦略の関係を知るうえで重要な発見で、背が低く倒れにくいなど有用な作物を自在に得る技術の開発にもつながる。田坂昌生教授植物の形づくりの根源に迫るバイオサイエンス研究科植物形態ダイナミクス研究室田坂昌生教授13 SENTAN