せんたん Jan.2013 Vol.21

せんたん Jan.2013 Vol.21 page 15/28

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概要:
植物形態ダイナミクス研究室http://bsw3.naist.jp/courses/courses106.htmlモジュールの組み合わせが多様性を生み出す田坂教授は、植物の生長を促す植物ホルモンとして古くから知られるオーキシンに目を向けている。....

植物形態ダイナミクス研究室http://bsw3.naist.jp/courses/courses106.htmlモジュールの組み合わせが多様性を生み出す田坂教授は、植物の生長を促す植物ホルモンとして古くから知られるオーキシンに目を向けている。胚や葉、茎など幅広い組織で、さまざまな現象に関わっているが、実はオーキシンは植物体内で一定の方向に輸送され、その分布は場所によって濃淡があり、濃い場所では、そこにある特定の遺伝子が働き始める(転写)という作用があることが古谷将彦助教らの研究でわかってきた。この輸送や転写調節の仕組みが解明されれば、植物の形づくりの大元のところでの細胞コミュニケーションの全体像が明らかになる可能性がある。「植物ホルモンや細胞間のコミュニケーションが形作りに関わるとき、関連して機能する複数の転写因子が集まった『モジュール』やレセプターとリガンドの『モジュール』、細胞内の膜輸送系や膜タンパク質の『モジュール』などいろいろな種類の『モジュール』の中から、場面に応じてどれかふさわしい遺伝子セットの『モジュール』を動かし、スイッチを入れているのではないか。また、細胞がやたら分裂、増殖しては困るので、それを調節するための常にフィードバックの信号を送り動的な安定状態を作り出すシステムがあるはずです」と田坂教授は強調する。この「モジュール」という新しい概念は、研究成果からも裏付けられ始めている。「ERECTA」受容体には同じような働きをする仲間があり、リガンドによって背丈のサイズだけでなく、茎頂の分裂組織の働きや茎の肥大化などの調節を行っていた。つまり、「同じモジュールを使い回ししながら、場面に応じて少し変えて使うことで非常に複雑なシステムをつくっていると考えられます」と田坂教授。「たとえば、玩具の合体ロボが、異なるモジュールをつなぐと、ライオンが戦士になるのに近い。要素は非常に似ているが、組み合わせると全然違ったものになる。この考え方を押し進めると生物の進化による多様性も説明できるかもしれません」。生物には自然の発想があるこのほか、田坂研究室では、葉の付け根に新たな分裂組織ができ、「枝分かれ」する現象を調べている。通常、枝分かれは一本だけだが、過剰に生えるようになった突然変異体を解析することで、形づくりに遺伝子を同定し、その働きから、「分裂組織がどのように形成、維持されるか」や「新たな器官が生まれる際の細胞の分化の制御の機構」の解明をめざしている。このように植物の本質に迫る研究を続けている田坂教授は、小さい頃から生物好きだった。「さまざまな生物がいて、それぞれ精巧にできているのに少しずつ違う。突き詰めると、人工の物は人の発想の及ぶ範囲で作った物しかないが、生物には現在の人の発想の及ばないものが存在するところに興味が魅かれた」という。だから、研究についても「『面白い』という気持ちを持ち続けることは大切だが、進化や多様性を理解し、一つの生物から野生型のシロイヌナズ地上部と、オーキシンの流れが阻害された変異株の地上部。花芽の形成が見られなくなっている。全体を見ることを常に考えていることが必要です。新たな発想を得るには分野外のことにも興味を持たなければ」という。自然に親しむ生活は変わらず、現在の趣味は海釣りだ。なお、田坂教授とともに「重力屈性」の研究に取り組んできた森田美代准教授は、現在独立して「植物環境応答」研究室を主催し、このテーマを発展させて関連する新しい遺伝子などの研究を進めている。教育システムが新鮮研究室を支える若手研究者も様々なテーマに取り組んでいる。ポスドク(博士研究員)の橋口泰子さんは2012年3月に博士号を取得した。「重力屈性」がテーマで、それに関わる遺伝子のうち一つの働きを解明することに成功した。重力の方向は、内皮細胞の液胞内にあるアミロプラストという物質が沈降する様子でわかるのだが、その遺伝子は液胞の膜構造を正常に保つことに関わっていた。「大変面白い発見でした。学部のときは動物の研究でしたが、大学院で植物に進路を変えました。重力屈性も植物の動的な性質なので受け入れやすく魅力を感じました」と話す。研究室については「本学の教育システムが新鮮で、学生主体で自分の研究の発表会を行えるなんて、それまで考えられなかった。また、田坂研究室は、研究室内の発表のときでもパワーポイントを用意するなど常にプレゼンテーションや自分の研究、全体の研究の進展状況を把握できるようなシステムになっているところも勉強になりました。学生寮があったり、一人一台新しいパソコンが貸与されたりなど他大学では見られない支援もありがたいと思いました」。趣味は小学生のときから20年間続けている書道で、身に付けた集中力は研究に大いに役立っている、という。博士後期課程1年の森明子さんも、「重力屈性」に関わる遺伝子の発見がテーマで10月に入ったばかり。本学情報科学研究科博士前期課程で「生命の起源」の研究をしたあと、企業に就職し、再び本学に復学したというユシロイヌナズ花茎の伸長の制御。野生株(WT)と比べて、レセプターが壊れた変異株(er)もリガンドが壊れた変異株(epfl4 epfl6)も茎が短くなる。ニークな経歴だ。「コンピュータ上での研究より、生身の生物を扱いたいと思いが募っていたためです。周囲に何もない研究に専念できる環境は、私にとっては長所です」と胸を膨らませる。10年間続けている日舞が趣味で、こちらも和裁から始まって、あれこれ自分に適したものを探し、たどり着いた、という。米原亮さんは、博士後期課程2年生。テーマは、シロイヌナズナなどアブラナ科の植物が花の下に葉(苞葉)ができないことから、その苞葉発達抑制機構を調べている。「苞葉ができるようになった突然変異体を使っていますが、葉に分化する前の幹細胞の時点で葉の表側、裏側をつくる2つの遺伝子がうまく協調して機能しないために葉(包葉)が発達してこないことがわかってきました」と説明する。「本学は博士後期課程の学生が多く、研究やほかのテーマで長く徹底的に議論できるのが何より、楽しい。辛いのは、日曜日に食堂が開いていないことと、趣味のスキューバダイビングができる海がないことぐらいかな」と研究生活を満喫している。森明子さん橋口泰子さん米原亮さんSENTAN14