せんたん Jan.2013 Vol.21

せんたん Jan.2013 Vol.21 page 17/28

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概要:
反応制御科学研究室http://mswebs.naist.jp/courses/guidance/08.htmlを含む有機化合物の合成に柔軟に対応できる。さらに、光の高いエネルギーを使って化学反応を行う光反応の分野にも取り組んでいる。この反応は一....

反応制御科学研究室http://mswebs.naist.jp/courses/guidance/08.htmlを含む有機化合物の合成に柔軟に対応できる。さらに、光の高いエネルギーを使って化学反応を行う光反応の分野にも取り組んでいる。この反応は一気に進むので制御が困難だが、成果の一つは、通常、鏡像のように左手型、右手型と一対できる光学異性体のうち、どちらか有用な型の物質だけを作る「不斉合成法」の開発に成功したことだ。ハッカの成分であるメントールに光学異性体があることに着目。この分子のどちらかの型を補助基(鋳型)として目的の分子(基質)に結合しておくことで、それと同じ型の光学異性の分子ばかり作る反応を100%に近い効率で起こすことができた。それに加えて、西山靖浩助教らは、超臨界流体というクリーンな溶媒を使って光反応の効果を高めることや、一辺1ミリ以下という極細の流路を作るマイクロリアクターという装置で光のエネルギーを十分に吸収させ、多量生産に結びつける方法の開発などに取り組んでいる。一方、森本准教授は、有毒で扱いにくい一酸化炭素(CO)の代わりに、塗料などの原料としての利用に限定されていたホルムアルデヒド(CH2O)をその代替に使い、医薬品の原料になるシクロペンテノンなどカルボニル基(―C=O)を持つ有機化合物を合成する方法を開発した。ロジウム錯体などの金属触媒により、ホルムアルデヒドから一酸化炭素を遊離させる形で使うの生み出すで、工場での作業の安全性が高まると評判になった。次は、全く無毒なグルコース(ブドウ糖)を原料にした研究に挑む。グルコースの分子には、カルボニル基があるので、それを利用する。これまでグルコースからバイオアルコールなどエネルギーを得ているが、直接、有機化成品の合成の原料として用いる発想は初めて。グルコースを含むセルロースやデンプンなどのバイオマス資源の直接利用にも広げる考えだ。π型の研究者を育成このような幅広い分野を手掛ける研究の人材育成について垣内教授は、「まず、有機合成という一つの専門性をきちっと身に付けさせたい。研究室の学生は理論物理など基礎科学の出身や文科系の人もいる。複数の専門を持つことになり、さらに幅広い知識を身に付ければ望まれるπ(パイ)型の研究者になれる。そのような能力を身に付け、企業などに入ったとき、仕事のテーマを分子レベルという原点に立ち返ってみられる人に育ってほしい」という。本学の草創期に赴任して15年になるが「学生は、もう少し隣接する研究に興味を持ってほしい。これだけ幅広いテーマを扱っているのですから」と強調する。中学時代から軟式テニスの選手で、体力には自信がある。米スクリプス研究所で研究した際、ノーベル化学賞のバリー・シャープレス博士から「時間は大切、無駄なことはしない」と言われたのが信条になった。「だれでも大発見の機会があり、それを見極める力(セレンディピティー)を身に付けてほしい。そのための粘り強さが重要なのです」。また、森本准教授は「大学生の頃は、教科書を書き換えるような発見を目指していました。自分の名前を冠する反応や方法を見つけたかった。それは今も変わりません。しかし、出口が見えない研究には今の社会も学生も中々興味を持ってくれないのが少々寂しいです。実際には、“これのどこが役に立つの?”ということの方が、大きく広がる可能性が高いと思いますので、学生には、既存のデータベースにないことを研究しているんだという意識を付けさせるよう心がけています。ナンバーワンを目指す数値争いの研究ではなく、オンリーワンの研究をしているということを、学生に耳が痛くなるほど、また、自分にも諭しています」とアピールする。私生活では生粋の阪神タイガースファンで、昆虫など生き物の飼育が趣味だ。座右の銘は「最少努力の最大効果」。ゼロから1の段階に進めた研究室の若手も成果を上げ始めている。博士後期課程2年の柳澤祐樹さんは、光反応の不斉制御の研究で、合成を簡便にする方法の開発に取り組んでいる。「基礎研究の中で、たとえばゼロから1を生むという重要な段階を達成できたと思っています。材料科学の知見を光反応に応用するというアイデアで、最初は成果ゼロの時期が続き辛かったのですが、基を変えることで1に結びつきました。柳澤祐樹さん冨家愛さん寺尾公維さん本学は設備がよく、研究室では、自分のやりたいことをアピールすれば、すぐに研究に反映させてくれるところが非常によかった。実験系なので生活が実験中心にあり、厳しい面もありますが、それだけによい結果が出たときの喜びは大きく、充実しています。ときには趣味のフットサルで解消します」と語る。博士後期課程2年の寺尾公維さんのテーマも光反応で、産業応用の研究としてマイクロリアクターにトライしている。「細長い透明のチューブの中で光反応を効率よく進めることと、その反応を観測するシステムの研究をしています。本学は、外国人の研究者が非常に多く、コミュニケーションできるのでグローバルな雰囲気が体感でき、留学でも国際感覚が身に付くところ非常によいと思います」と評価する。博士前期課程2年の冨家愛さんは、ホルムアルデヒドを使って有機化合物を作る際の新しい触媒反応の開発を行っている。「ロジウムとパラジウムという2種類の金属触媒を同時に使えば、反応がスムーズに進行することがわかりました。学部のときは、可視光で結晶の物性を評価していましたが、自分でものづくりをしたくて進学しました。本学では研究設備など不自由なところがまったくないところがいい。休日は音楽を聴いたり、ドライブに出かけます」と研究生活をエンジョイしている。抗がん活性タキソールの新化学合成南米アリ毒の化学合成金属触媒を用いたホルムアルデヒドの新化学変換SENTAN16