せんたんvol.21

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動物細胞工学研究室http://bsw3.naist.jp/courses/courses207.htmlク質の合成を一時的に止めて、異常タンパク質蓄積によるストレスを効率的に解消するシステムがあることを柳谷耕太特任助教らとともに発見したことだ....

動物細胞工学研究室http://bsw3.naist.jp/courses/courses207.htmlク質の合成を一時的に止めて、異常タンパク質蓄積によるストレスを効率的に解消するシステムがあることを柳谷耕太特任助教らとともに発見したことだ。米科学誌「サイエンス」などに掲載され、国内メディアも「ストレス解消には休養が必要」との比喩を使って紹介した。この現象は、小胞体に異常タンパク質が蓄積したとき、「XBP1u」というタンパク質が、処理を促す別のタンパク質「XBP1s」に変身するときに起こる。小胞体で「XBP1u」の設計図を持つmRNA分子の一部が切り取られて「XBP1s」の設計図になるためで、それには、mRNA分子が小胞体膜上に集まる必要がある。そこに「一時休止」の理由があった(図1参照)。つまり、mRNAは小胞体への移行シグナルをもった「XBP1u」を合成途上で休止するので、XBP1uタンパク質とXBP1u mRNAの両者はリボソームと一緒に結合したままになる。この結果、XBP1u mRNAは半製品のタンパク質に運ばれる形で小胞体膜上に向かっていくのだ。「通常、タンパク質合成は途中で止まるなどということはなく正常に進行しますが、XBP1uタンパク質だけは例外で、ストレス情報を効率的に伝えるために一時休止が非常に大切であるということです。さらに、XBP1uタンパク質は、タンパク質としては未完成なのにXBP1u mRNAの運び屋として機能するなど興味深い情報ネットワークがわかってきました」と河野教授は解説する。センサーは情報の発信源また、木俣准教授は、小胞体の膜を貫通するタンパク質のストレスセンサー(Ire1)が異常タンパク質を感知し、活性化する仕組みについて、センサー分子に結合しているシャペロン(BiP)が解離し、センサー分子同士がくっつくことにより、センサー分子が直接、異常タンパク質を感知したうえで細胞内に情報を流すという仕組みを酵母の研究で明らかにした。一方で、マウスにおいては、同様のストレスセンサー(IRE1)が異常なタンパク質の蓄積をうまく感知できないと、血糖値を下げるホルモン、インスリンを分泌する膵臓ランゲルハンス島のβ細胞に異常が起きることなど、糖尿病発症との関連を示唆するデータを得ている。特定の遺伝子を失わせた独自開発のマウスを使っての成果だ。今後、細胞内の異常が、細胞の集合である個体の病気にどのような仕組みで影響しているかを詳しく調べ、創薬などに結びつけていく、という。生命の謎がさまざまな側面から明らかにされていく。河野教授は「予想していなかったことを発見する。それで謎が解けるところがサイエンスの醍醐味です。さらに、その成果が病気の原因の解明や創薬、治療法の開発に結び付けられたら素晴らしい」と話す。「わくわくするような研究をしたい」が信条で、学生に対しては「面白くてどんどん広がっていく研究を」と期待する。テニスやスキーが得意なスポーツマンでもある。また、木俣准教授は「変わったことや前例図1一時的翻訳停止によるストレス応答の効率化動物細胞では翻訳途上のXBP1uのHR領域を利用し、翻訳を上図の状態で一時休止しXBP1u mRNAを常に小胞体膜上に局在化させ、ストレス時にセンサーIRE1による効率良いストレス応答を行う。がない現象には、委縮したり、頭から否定したりせず、きちんと向き合ってとにかく面白がる、それが科学の楽しさです」と研究の秘訣を語る。学生時代から東南アジアをバックパックで旅行するのが趣味で、キャンパスでの留学生との交流にも役立っている、という。研究の方向がみえてきた若手研究者も先端科学の挑戦に夢を抱いている。博士後期課程2年の土屋雄一さんは、哺乳動物(マウス)のβ細胞では小胞体ストレス応答経路が常に活性化しており、さまざまなセンサーが働き、遺伝子を活性化して処理能力を上げる現象について調べている。河野研独自開発の遺伝的に2種類のセンサーを同時に失ったマウスを使った実験では、血糖値が跳ね上がり、β細胞の数も減っていることを突き止めつつある。「一種類のセンサーが欠損しても他のセンサーが補完しているらしく、研究の先が見えてきました。β細胞特異的な小胞体ストレス応答の遺伝子を特定したい」と意気込む。「学部のころから、ずっと糖尿病に興味を持っていて、河野先生の小胞体ストレスの論文を読んで入学しましたが、ついにβ細胞に行きついた」と振り返る。海外での発表も経験し、研究面での国際感覚も身に着けた。本学のビーチフットボール部「NAIST」に所属し優勝経験もある、という。博士前期課程1年の曽川愛守榮(そがわあしゅえい)さんのテーマは、タンパク質の合成が一時休止したあと、再開するさいに必要な因子を探している。「予想を立て候補を絞っていて見つかることを願っています。学部では光合成の研究でしたが、動物細胞の研究がしたくて入学しました。大学院大学なので、博士研究者や教員の層が厚く、何でも相談できます。今後も研究者を続けていきたい」と張り切る。同1年の保田裕貴さんは、神経変性の病気図2小胞体ストレスセンサーIre1のクラスタリング(酵母)正常時は小胞体膜上に均一に分布するセンサー(左)がストレス時にはクラスター化する(右)。土屋雄一さん保田裕貴さん蛍光顕微鏡を用いたマウス組織の観察の要因となるタンパク質の分解に関わる因子を調べている。「新たに関与している物質が見つかった可能性があります。運がよかったのでしょうが、面白くなって博士後期課程に進むことを決めました。同期生はほとんど出身学部が異なるので知識の幅を広げられるところがうれしい」と胸を膨らませる。同1年の高橋砂予さんは、マウスの寄生虫感染に伴う小胞体ストレスをキャッチするセンサーの機能を解析している。「学部では化学合成の研究だったのですが、生物の研究がしたかった。機能に関するデータが出始めているのがうれしく、博士後期課程に進み、研究者になりたいと思っています。国内外の研究者を呼んでシンポジウムやセミナーが開かれ、幅広い知識が学べるところがいい」と話していた。曽川愛守榮さん高橋砂予さんSENTAN10