せんたんvol.21

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世界をリードする人材、研究を生み出す大学院の在り方は世界的な政治、経済、社会の激動の中で、持続可能な社会の発展をめざす科学研究の役割も大きく変わっている。時代の要請に応えて奈良先端大が、トップレベルの....

世界をリードする人材、研究を生み出す大学院の在り方は世界的な政治、経済、社会の激動の中で、持続可能な社会の発展をめざす科学研究の役割も大きく変わっている。時代の要請に応えて奈良先端大が、トップレベルの研究を生み出し、次代を担う人材を養成するには、どのような対策、意識の改革が必要か。石井紫郎東京大学名誉教授と本学の畚野信義理事が話し合った。ー奈良先端大は、最先端の科学の分野に特化した情報科学、バイオサイエンス、物質創成科学の3研究科で構成する大学院だけの小規模な大学です。「小粒だがぴりりと辛い」との評価もあります。20周年を経て今後の在り方をどのように考えればいいのでしょうか。石井氏「小粒でぴりりと辛い」という表現は、まさにそのとおりで、たぶん日本の科学技術教育研究という料理のメニューにとっては欠かせないサンショウのような役割が期待されるところでしょう。問題は、それがどういうふうに料理の味を調えていくか、という点にある。スパイスであれば、利きがいいこと、香りがいいこと、そして周りの料理との間の取り合わせがいいということ、そして食べる人(社会全体)にとって非常に大事なものだと思ってもらえること。これがちょうど奈良先端大の役割に似ているのではないかと思います。畚野氏私の専門は電波と宇宙の研究で国立研究所などの勤務が長いので、大学についてはどちらかといえば客観的に見ています。今、京都大学の経営協議会の委員もしていますが、京大のような総合大学と比べて、奈良先端大という理系3研究科の大学院のみが置かれている立場はかなり違うのです。本学は、創立されて20年、粒ぞろいの先生方が研究に優れた成果を上げられ、その先生の背中を見て優秀な学生が育ってきました。2年前に国立大学法人の第一期中期計画が終わったときの評価では、ダントツの全国一位に選ばれています。しかし、この20年間に、大学をめぐる環境も社会からの期待の中身も変化してきました。研究や教育への姿勢が変わり、若者のたくましさが減少している。最近では文科省が大学院教育の改革と、国立大学法人の数を減らす方向を明確に打ち出しています。従来は、大学を卒業した人材が社会のリーダーの役割を果たしてきました。しかし、社会のシステムが高度化してきたので、より高度に訓練・教育を受けた人が必要になっています。大学院の教育も大学の先生たちがアカデミアでの自分たちの後継者を育てるものだけでなく、社会のさまざまな場面で活躍し、リーダーの役割を果たせる人材の育成が求められるように変わってきています。その中で、特殊で小さな大学院がどのように生きていくべきかを真剣に本気で考える時期にきています。本学が日本の新しい大学院教育の方向を示し、その実験校としての革新的な役割を果たすことを期待しています。石井氏それには、さまざまな意味で難しい問題があります。まず、科学技術の世界は学問の広い範囲を占めているようでありながら、文科系、理科系を合わせた学問分野全体から見ると、そう広いものとはいえない。また、理科系の中で、もっとも幅広い分野を総合的にカバーしている工学部・工学研究科を持つ大学は全国にありますが、大学院と学部を一緒に運営しなければならないという問題がある。奈良先端大は大学院だけという身軽さはあるでしょう。ただ、逆に、総合大学の大学院には、そのような重荷を背負いながら、学部の学生や教育のプログラムと一緒にコーディネートして動いているというメリットがあり、そこが大事なポイントだと思います。たとえば、アメリカにもロースクール(法科大学院)やメディカルスクール(医学専門職大学院)がありますが、すぐそばに、学部レベルの一般教育とか、あるいは多様な学問分野について教えるカレッジと一緒に設置され、互いに交流している。これが非常に大きなメリットになっています。私は1972年にハーバード大学に客員研究員として日本の文学部に相当する組織から招かれましたが、専門が法制史なので、ロースクールからもセミナーを持たせてもらいました。つまり、文学部と法学部2か所でセミナーをすれば、両方のゼミ生たちも自然に交流するようになって、意見がぶつかったり、啓発しあったりします。とても得難い体験でした。つまり異分野交流は非常に有益だと思いますから、奈良先端大も、どこか違う性質の学校と連携した体制を組むなどの策は、少なくとも試行のレベルでは考えてみる価値があるのではないでしょうか。研究教育の幅が広がるのではないかと、素人ながら感じます。畚野氏石井先生も言われたように、理系の分野は決して幅広く専門分野があるわけではありません。中でも本学のカバーする分野は、80年代以降に日本の科学技術が重点課題とした分野です。その中で見ても、本学の3つの研究科は、それぞれ研究の性格や社会との関わり方が異なり、研究としての成熟度にも差があります。いま融合研究に力を入れていて、その成果は上がり始めていますが、さらに幅広い、今の考え方とは違った展開が必要なのではないかという気はしています。国のリーディング大学院構想では、「俯瞰する力」や「独創性」がある人材育成を要請して石井紫郎いしい・しろう東京大学名誉教授(元東京大学副学長)、元総合科学技術会議常勤議員(第二期科学技術基本計画の策定等に携わる)、日本学術振興会学術システム研究センター相談役、国際日本文化センター名誉教授、学士院会員、本学経営協議会委員。専門は日本法制史。SENTAN02