せんたん vol.21

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グリーンバイオナノ研究室http://mswebs.naist.jp/courses/guidance/26.html備した4種類の顕微鏡システムが据えられている。大がかりな装置は微細な世界を扱うだけにデリケートで、停電などあると調整に苦労する、....

グリーンバイオナノ研究室http://mswebs.naist.jp/courses/guidance/26.html備した4種類の顕微鏡システムが据えられている。大がかりな装置は微細な世界を扱うだけにデリケートで、停電などあると調整に苦労する、という。ここで生まれた最近の大きな成果を紹介しよう。多細胞生物の細胞同士が接着する強さを初めて定量的に測定できたことだ。ひとつの細胞は小さく、構造は脆弱なのに、あまりにも強く結合しているので、これまで細胞を無傷で引きはがすことはできなかった。そこで細胞培養液にフェムト秒レーザーを照射して衝撃波を起こして細胞群を分離させるとともに、その時の衝撃波の強さを測定する技術を開発。こうして得たデータを解析して、接着する力を力学計算できるようにした。具体的には、生体の表面で異物の侵入を防ぐ上皮細胞同士の強固な接着力は、白血球が血管外に出ようとして血管の内皮にくっつく力の10倍にも上ることがわかった。この定量化により、さまざまな形の細胞群の接着力を個別に数値データであらわして定量化でき、生命の営みを統合的に理解できる。医学面では、がん細胞の転移のさいの接着力など臨床に役立つデータが得られる。この成果は高く評価され、米科学アカデミー紀要に掲載された。実は、この研究の過程にはチャレンジがあった。衝撃波の力は、原子間力顕微鏡につけたナノ(10億分の1)メートル単位の微細針のかすかな動きで測定するのだが、それは専門家が「衝撃波により顕微鏡が壊れるかもしれない」と恐れるほどの大胆な試みだった。この成果は近畿大学医学部伊藤彰彦教授らとの共同研究によるが、このほかにも20- 30のテーマで、大学、研究機関と共同研究を行っている。それらの融合研究の一端が披露されたのが、細川特任准教授が4月に開いた「超短パルスレーザー細胞プロセス研究会」だ。発表された研究成果のいくつかを上げると、▽ゼブラフィッシュやニワトリなどの脊椎動物の初期胚にレーザーを集光してDNAなどのバイオ分子を導入する手法を開発▽植物の葉の気孔のそばの細胞を傷つけ、気孔を開かせることに成功▽植物の生長点に穴を開けて、植物ホルモンの供給を断つ方法で、茎の伸長のメカニズムを研究―など。さまざまな最先端分野との融合研究が進んでいることがわかる。「光合成で言えば、葉緑体は処理の限界を超える光が入ってきたら有害なので細胞の縁に逃げる。一方で、光がとどかない暗所では、茎を伸ばして明所に葉を伸ばそうとする。これらも植物の光応答で、光合成を最適化するために、いろいろな補助機能が働いている。生物の機能を全体的に捉えると実に多様です。その知見を産業に結び付けようと思ったら、工学系の研究者たちが、それらの現象を理解し、いい所取りをしてデバイス(装置)やソフトウェアの開発に生かすことでしょう」と強調した。異分野との相互作用を期待ところで、細川特任准教授は、応用物理の出身で、ものづくりが好きであった。学生の時は、有機分子の光応答のレーザー計測装置を開発し、そのメカニズムを解明する研究を手掛けていた。その後、レーザー装置の発達とともに、「生体材料も有機分子の仲間という拡大解釈」でバイオの分野に踏み込んだ。レーザーナノ化学研究の権威であり、学生時代からの恩師である増原宏本学特任教授の研究室から独立し、平成23年に独立研究者として同研究室を開設した。そのような物理、化学、生物に横断した経験は学生の指導にも生かされる。研究室の学生の出身学部は、薬学、農学など生物系から化学工学、電気工学、情報科学とすべて異なるだけに、学生に対しては「レーザーを使った研究なら、自分の興味に合わせてテーマを選びなさい」と声をかけ、異分野との相互作用を期待する。博士後期課程3年の飯野敬矩さんは、細川特任准教授とともに、細胞同士の接着力を測定する研究を手掛けてきた。「接着力を数値として出せましたが、そのデータをもとに生物学的な現象としての意義を解明していきたい。たとえば、生体内の部位による接着力の違いと、炎症など細胞の状態との関連といった医科学系のテーマで、その基礎固めをしています」と抱負を語る。飯野さんは就職の経験があるが「研究に携わっていきたい。良いデータが出て、このデータはいま僕しか知らないと思えたときは楽しい。本学は社会人にも門戸が開かれているし、博士課程の学生に飯野敬矩さん新屋龍太郎さん熊野悟さん対しては経済的な支援もあることがいいと思います」と話す。博士前期課程2年の熊野悟さんは化学工学の専攻だったが、幅広い知識を身につけたいと本学を選んだ。「細川先生のガイダンスが面白かったので全く知らなかったレーザーの研究に取り組んでいます。レーザーの衝撃波で過冷却水を凍らせられないかと研究していて、何とか氷はできましたが、そのメカニズムを解明するのがこれからの課題です。周囲に意欲的な人が多いのが励みになります」と張り切る。博士前期課程1年の新屋龍太郎さんは実験装置を作っている段階だ。「植物の細胞は内部の圧力が高く、レーザーで傷をつけても外部からDNAが導入できないので、外部から10気圧もの高圧をかけられる装置を作って、レーザーにより1細胞にDNAを導入する新しい方法を開発しようとしています」という。薬学部で動物の光に対する免疫反応の研究をしていたが、本学で更に光に特化した技術に挑みたいと考え、この未知の分野に飛び込んだ。まだ研究を始めて間もないが、「予想外の結果が出るのも面白さのひとつと思えるようになりました」と振り返る。ランニングが好きで毎日10キロ走り、フルマラソンの出場も計画していて、「緑が多いキャンパスや周辺の環境は練習に最適」と学生生活を楽しんでいる。原子間力顕微鏡によるフェムト秒レーザー誘起衝撃波の検出実験室の装置配置図。ピンク色の部分がレーザー実験室であり、3つの部屋が連動して機能している。フェムト秒レーザーによるゼブラフィッシュ初期胚へのバイオ分子の導入【研究協力】東工大生命理工田中幹子准教授本学バイオサイエンス越智陽城研究員SENTAN12