せんたん vol.21

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TOPICS最新の研究成果バイオサイエンス研究科発生ゲノミクス研究チーム荻野肇研究チーム長越智陽城研究員ナメクジウオからヒトへカンブリア紀に重複した遺伝子を不要な部位でOFFにして進化約5億年前のカンブリア紀....

TOPICS最新の研究成果バイオサイエンス研究科発生ゲノミクス研究チーム荻野肇研究チーム長越智陽城研究員ナメクジウオからヒトへカンブリア紀に重複した遺伝子を不要な部位でOFFにして進化約5億年前のカンブリア紀の末期に、動物の全遺伝子の重複(ゲノム倍化)が起こったが、その変化が脊椎動物への進化にどのように影響してきたのか、謎が多い。こうした遺伝子の進化の仕組みを調べるため、バイオサイエンス研究科発生ゲノミクス研究チームの荻野肇研究チーム長と越智陽城研究員らは、遺伝子の重複がない生きた化石のナメクジウオと、脊椎動物のカエルやマウスについて、腎臓や眼、脳で働く遺伝子の仕組みを詳しく比較した。その結果、重複遺伝子を様々な組織で「ON」にして働かせるスイッチの部分の遺伝情報(エンハンサー配列)は変化しておらず、むしろ、この「ON」スイッチの働きを打ち消す「OFF」スイッチの部分(サイレンサー配列)を後から別々に進化させていた。これにより、重複遺伝子はお互いの働く場所とタイミングをずらすことができ、多様性が生まれるという仕組みを世界で初めて明らかにした。現在の生物の設計図の大まかな下絵が「ON」スイッチによって5億年前にできており、不要なものは打ち消されていったことになる。この研究成果は、2012年5月22日付けの英科学誌「Nature Communications」に掲載された。ナメクジウオ(全長約5cm、左が頭部)ゲノム倍化による重複遺伝子の形成とそれらの働きを調節する仕組みの進化荻野肇研究チーム長越智陽城研究員遺伝子は蛋白質の設計図となるDNA配列(コード配列)と、その設計図をいつどこで使うかを決めるスイッチのDNA配列(シス調節配列)とから構成されている。ゲノム倍化によって、祖先遺伝子から重複遺伝子が生まれた後は(この場合はpax2遺伝子とpax8遺伝子)、片方の遺伝子のスイッチ配列にONではなくOFFの働きをする部分が新たに付け加わって、それらが異なる機能をもつように進化してきたことがわかった。バイオサイエンス研究科分子発生生物学研究室高橋淑子教授(兼任)齋藤大介助教ストレス耐性を担う交感神経や副腎髄質の発生機構を解明バイオサイエンス研究科分子発生生物学研究室の齋藤大介助教と高橋淑子教授(兼任)らは、体の恒常性の維持やストレス耐性を担う自律神経系の重要な器官である交感神経と副腎の発生機構を解明した。自律神経系に属する交感神経と副腎髄質は神経堤細胞(以下、前駆細胞)に由来する。ニワトリ胚とマウス胚を使った解析から、発生においてどのようにして前駆細胞から交感神経と副腎髄質の細胞系譜が生み出されるのかについて明らかにした。その内容は、胚において最初に形成される動脈である背側大動脈(以下、大動脈)が、前駆細胞の移動、そののちの細胞系譜の分岐、および副腎髄質のさらなる移動を制御するといった多彩な役割を果たすシグナルセンターとして機能するというものであった。具体的には、大動脈から分泌されるBMPが周辺の間充織に対しSDF1とNrg1の発現を誘導し、この2つのタンパク質のもつ誘引タンパク質としての活性により前駆細胞がガイドされる。つぎの段階では、BMPシグナルは交感神経と副腎髄質との細胞系譜の分岐に直接にかかわる。この研究から、交感神経系が形成されるためにはBMPがきわめて中心的な役割をもつことが証明された。iPS細胞から交感神経や副腎をつくったという報告はまだない。今後の細胞工学や細胞治療、そして、自律神経失調症の治療にむけ、BMPは注目されるべきタンパク質となるだろう。また、自律神経にかかわる血管の作用も明らかになったことから、自律神経失調症の治療と循環器系とのかかわりについての研究進展も期待される。この研究成果は、2012年6月22日付けの米科学誌「Science」に発表された。交感神経と副腎の形成には血管が重要1.2.3.高橋淑子教授(兼任)齋藤大介助教副腎髄質の「通り道」をつくるシグナル分子“Nrg1”13 SENTAN