せんたん Jan.2014 Vol.22

せんたん Jan.2014 Vol.22 page 11/24

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生体適合性物質科学研究室http://mswebs.naist.jp/courses/418/べながら精密に設計し、合成するという立場から研究に挑んでいる。その方法は「リビング重合」という化学反応が中心だ。多数の分子が結合(重合)して....

生体適合性物質科学研究室http://mswebs.naist.jp/courses/418/べながら精密に設計し、合成するという立場から研究に挑んでいる。その方法は「リビング重合」という化学反応が中心だ。多数の分子が結合(重合)してできた高分子の末端が、常に結合の活性を持っている状態で、さまざまな分子を継ぎ足して、分子の鎖を伸ばすことができるのだ。安藤准教授は、リビング重合した鎖状の高分子を核に多数結合させた「星型高分子」を開発している。結合する分子の鎖の性質は親水性(水に溶けやすい)でも疎水性(油に溶ける)でもよいことから、用途によって分子を設計し性質を自在に変えて機能を発揮させることができる。手掛けている具体的な研究テーマは幅広い。まず、正の電荷を持つ星型高分子を遺伝子治療で遺伝子を導入する際のベクター(運び屋)にすることを目指している。かつてウイルスをベクターにしていたが、まれにがん化など事故を引き起こす場合があって使えない。安全性や導入効率を向上させることが課題だ。篭(かご)のように高分子の枝で他の分子を包み込むタイプでは、がんの放射線治療で照射する放射線の量を減らし、正常細胞に与えるダメージを少なくする薬剤の開発を研究している。放射線に対する感度が高く、がん細胞への影響を増幅できる重金属などを星型高分子に抱え込ませる形(錯体)で薬剤を作って投与する。それが患部に到達した時点で放射線を照射すれば、がん細胞だけを狙って退治できる。さらに、ユニークなのは、埋め込んだ人工血管など、人工物と生体の反応で血栓ができるのを防いだり、抗菌性を持たせたりする材料の開発だ。星型高分子の核部分から、親水性分子、疎水性分子の両方を混在させて生やす。その高分子を溶かした液に、人工血管の代表的な材料である「ポリエチレンテレフタラート(PET)」という高分子のフィルムを浸す。すると、疎水性の枝がフィルム表面に吸着する一方で、親水性の枝は表面から何本もブラシの毛のように広がり、生体の物質や細菌との接触を防ぐ形でコーティングできることを発見した。この高分子設計技術、新材料は他の用途も考えられ、企業との共同研究が進んでいる。「リビング重合は学生のときに出合い、続けている研究テーマです。分子設計の際に分子の形や大きさなどをコントロールすることで、これまでにない特性を持たせられます。そこをさらに開拓することで、また、新しい機能性材料をつくる世界が広がります」と安藤准教授は抱負を語る。「いろいろと知恵を絞って予測したところが、すぽっとつぼにはまった瞬間が醍醐味。この気分を学生の時に実感してもらえれば、社会に出ても科学に対する興味は続くでしょう」と語る。趣味は食べ歩きだが、おいしい料理に出合うと、研究者らしく、つい調理法まで考えてしまうという。トンネルを抜けたこうした新材料開拓の期待を受けて、学生らは積極的に研究に励んでいる。博士後期課程3年の戸谷匡康さんは、星型高分子をコーティングした素材の表面にどれだけ抗血栓性や抗菌性が出ているかを調べている。「血栓になる血液中の血小板や、細菌を使って評価しており、ねらい通りのデータが出始めました。最初のころはデータが安定しなかったので、効果があるかどうか不安でしたが、実験操作を試行錯誤しながら半年ぐらい何度も繰り返すことで、効果を確認できました。そのときは、『やった』というより、『安心した。トンネルを抜けた』という気持ちが大きかった」と率直に振り返る。「これからも、できれば大学に残って研究者となり、人工臓器に使えるような材料を開発していきたい」と意欲を見せる。実は、本学から派遣されて半年間、米国・ミシガン大学に留学したときに、「抗血栓性の材料も抗菌性の材料も同じような仕組み」という指摘があった。本学で研究していた材料を持ち込んだところ、確かに両方の性質があることを突き止め、一気に道が開けたという経験もある。「本学に帰っても同様の設備で研究できるなど環境としては申し分ない」と満足気だ。博士前期課程1年の大湯なつ美さんは、放射線治療のさいの増感剤がテーマ。「実験材料の調製をしている段階で、どのような研究テーマにするかを考えています。学部時代も、病気に関係するテーマでしたが、本学では微生物などの実験だけでなく、医療を含めた広い視野で研究できると思います。将来的には、企業の研究室で薬剤開発など実用的な研究をしたい」という。本学については「多種の実験設備があり、大学院の先輩が自由に研究の戸谷匡康さん大湯なつ美さん岩田信司さん星型高分子の模式図。枝や核の分子構造を設計することで様々な性質・機能を付与できる。話に乗って、意見をくれるところなど学部時代の研究生活にはなかった非常によい環境です」と話す。同学年の岩田信司さんは、遺伝子を導入するベクターの研究がテーマ。「いまは準備段階で、将来的には、星型高分子で何種類ものベクターを作り、結合させる分子の本数や長さが遺伝子の導入に及ぼす影響を調べ、効果が高いものをつくりたい。本学は学生に対して指導教員の数が多く、機器の使用も学部では順番を待って予定を合わせる形だったのが、自分の予定に合わせて機器を使えるなど、すべての環境が研究に向いている」とやる気十分だ。抗血栓性、抗菌性を付与する星型高分子(左)。PETフィルム表面に接着した血小板(中央)、バクテリア(右)。SENTAN10