せんたん Jan.2014 Vol.22

せんたん Jan.2014 Vol.22 page 14/24

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知の扉を開くバイオサイエンス研究科バイオサイエンス研究科において平成25年4月に発足した3つの独立准教授研究室を紹介します輸送する膜タンパク質の謎を原子レベルで解き明かすバイオサイエンス研究科膜分子複合機....

知の扉を開くバイオサイエンス研究科バイオサイエンス研究科において平成25年4月に発足した3つの独立准教授研究室を紹介します輸送する膜タンパク質の謎を原子レベルで解き明かすバイオサイエンス研究科膜分子複合機能学研究室http://bsw3.naist.jp/courses/courses309.html塚﨑智也准教授塚﨑智也准教授巨大な分子も通す生命の営みには様々なタンパク質が関わり、体内の適材適所で働いて正常な機能を保っている。これらのタンパク質の生産は、個々の細胞の生体膜に包まれた細胞質で行われていて、それを必要とする細胞内外の場所に運ばれる。それでは、どのようにして小さな分子も通さないはずの生体膜の袋を難なくすり抜けて巨大な分子であるタンパク質を細胞内外に輸送することができるのだろうか。このような生命科学の基本的なテーマである膜透過の謎について、その担い手である膜に組み込まれたタンパク質複合体の構造を調べ、輸送するさいのダイナミックな形の変化をつきとめるなどして、解明しているのが塚﨑研究室だ。これまでの研究成果のひとつを紹介しよう。膜透過という現象には、細菌から高等生物まであらゆる生物の膜に保存されている共通の主要な仕組みとして、「Secトランスロコン」と呼ばれるタンパク質専用の開閉する孔(チャネル)があることがわかっている。大腸菌など細菌の場合、3種類の膜タンパク質(SecA ATPアーゼ、SecYEG、SecDF)が巨大な分子の複合体をつくりチャネルの役目をしている。「SecA」は運ぶべきタンパク質を膜に押し込み、「SecDF」がそれを引き抜いて外に出すという形だが、詳細な分子の構造や、それに基づく機能は不明だった。このため、塚﨑准教授らは、膜透過を高効率化するとされていた「SecDF」に着目。2011年に大型放射光施設SPring-8(兵庫・播磨科学公園都市)でのX線構造解析により、詳細な構造を世界で初めて解明した。動画で理解を深めたいその結果、「SecDF」の構造は、12本のαヘリックス(右巻きらせん型のタンパク質)からできていて、膜を貫通し、内膜と外膜に挟まれたぺリプラズムという空間に張り出していた。その構造や機能解析などからわかる「SecDF」の機能は、膜の内外のプロトン(水素イオン)の濃度勾配(濃度差)により生体エネルギーを生み出し、これを駆動力として動的な構造の変化を繰り返す。同時に、膜をすり抜けて運ばれるため細長くほどけた状態のタンパク質が、膜の外側に引き抜かれるさいに折りたたんで正しい立体構造にする「シャペロン」という機能を持つことで、膜透過を高効率化している。このような新仮説を提唱し、実験データから立証した。塚﨑准教授は「SecYEG」「SecA」など他の膜タンパク質についてもすでに構造解析に成功している。こうしたことから、タンパク質の膜透過の謎が原子レベルで解けたことになり、イオンをはじめ、薬、毒物の輸送など応用に結びつく他の分野の研究にも影響を与えている。塚﨑准教授は「今後、相互作用をみるため、膜タンパク質の複合体の構造解析をしていきたい。また、未解明な膜タンパク質の構造変化の時間経過を探ることも重要で、蛍光顕微鏡を使った1分子観察や高速原子間力顕微鏡の手法で直接得たデータと、X線結晶構造解析のデータ(静止画像)を組み合わせることで詳細に明らかにしたい。理解を深めるため、動画として可視化するのが目標です」と抱負を述べる。放射光施設はふるさとにあり実は、塚﨑准教授にとって、構造解析で通ったSPring-8は古くからのなじみである。この施設が建つ播磨科学公園都市(旧三日月町)の出身で、「すごい物ができる」と建設前から知っていた。小学校高学年では起工式の鍬入れにも参加し、建設の状況を眺めながら「ここで研究したい」という思いも募っていた。京都大学で、Secタンパク質を発見した伊藤維昭教授(現京都産業大学教授)の下で研究を始めたさい、「構造解析をしたい」と申し出て受け入れられ、一貫してこのテーマに挑んできた。しかし、膜タンパク質は、膜にしかないので量が少なく、不安定な構造など結晶化の段階のすべてで困難が伴う。こうしたことから、高品質の結晶を作るのに7年かかった。さらに、SPring-8には、500~600個の結晶を持ち込み、相次いで解析し、良質のデータが得られるのは100個に1個という努力を重ねて成果をあげた。このような研究歴を物語るようにモットーは「継続は力なり」。学生に対しては「学生時代は研究に時間が割けるいい時期なので、研究に没頭してほしい」と期待する。本学については「学部がない大学院大学なので、みんな研究をしようという意識が非常に高い。共通機器などもそろっていて、実験は非常にやりやすい」と評価する。趣味はトレーニングで、体も頭も常に鍛えることが大切、という。愛読書は、現代生物学思想の古典ともいえるジャック・モノ―の『偶然と必然』だ。蛋白質膜透過の模式図SecDFの結晶構造SecDFの結晶13無限の可能性、ここが最先端-Outgrow your limits-