植物が根を増やすメカニズム、作用するホルモンの謎を遺伝子で解明

2007/01/30

〜過酷な環境での栽培や増収をねらい、根の数や量を調節、発根の誘導技術の開発に期待〜

バイオサイエンス研究科形質発現植物学講座 田坂昌生教授、ゲノム機能学講座 深城英弘兼任助教授らの研究グループは、植物が根を増やす仕組みに関わる遺伝子を米国の研究グループと共同で発見し、米専門誌「プラント セル」(インパクトファクター11.1)1月号に発表しました(1月26日に電子ジャーナル版で公表)。これはオーキシンという成長を活発にする植物ホル モンに応答してその働きが活性化される遺伝子で、根から「側根」と呼ばれる新しい根を作らせることにより、地下に伸びる根の発達を促進しています。今後、 砂漠など過酷な環境での栽培ができるように根の発育をデザインし、新たに優れた性質を持った植物を育てるなど農業や園芸に大きく貢献すると期待されます。

【論文要旨】
高等植物の地下部は、種が発芽して最初に伸びる根(主根)と、伸びている根の内部から新たに作られる根(側根)や地上部から作られる根(不定根)などから 成り立っている。側根は根の内部に生じた分裂組織(根端分裂組織)から作られるが、この側根の分裂組織を次々と作ることで、植物は根を増やす。
このような根を増やす仕組みのうち、田坂教授らの研究グループは、双子葉植物のモデル植物であるシロイヌナズナを材料に使い、特定の遺伝子を欠いた突然変 異体と比較することにより、側根を作り出す際に重要な働きがある遺伝子を見出した。これまでの研究でオーキシンに応答して働く2つの遺伝子(ARF7 とARF19遺伝子)が側根形成に必要なことはわかっていたが、これらの遺伝子がどのようにして側根を作らせるのかは不明であった。今回は、オーキシンで 活性化される別の2つのよく似た遺伝子LBD16とLBD29が、ARF7とARF19遺伝子の指令を直接受け、側根を作り出す際に重要な働きをすること を明らかにした。
根は土中の水分やミネラルを吸収して茎や葉に送るだけでなく、地上部を物理的にも支えている。また根を食用とする作物も多く知られている。今後、これらの 遺伝子の働きを調節することで、人工的に根を多く作ることが可能となり、挿し木栽培の可能な作物種を新たに作り出すことや、根が発達しにくい環境でも根が よく増える品種を作り出すことが可能になるだろう。今回の発見は農業や林業、園芸上有用な品種改良につながる可能性がある。

【研究の背景】
高等植物の地下部は、種が発芽して最初に伸びる主根とよばれる根と、伸びている根の内部から新たに作られる側根や、地上部から作られる不定根などから成り 立っている。個々の根はその先端にある分裂組織(根端分裂組織)の働きによって細胞数を増やし成長する。植物は根の分裂組織を次々と作ることで根を増や し、植物体の生育に必要な土中の水分やミネラルの吸収を行っている。これまで植物ホルモンの一つであるオーキシンが側根を作る過程を促進することがわかっ ていたが、遺伝子レベルでの仕組みはこれまでほとんど研究されていなかった。
【研究の手法】
シロイヌナズナの側根形成の初期段階に必要なARF7とARF19遺伝子の2つの機能が欠損した変異体(arf7 arf19)では、側根がほとんど作られない(図A�A)。ARF7とARF19遺伝子がオーキシンに応答して他の遺伝子の働きを活性化させる鍵遺伝子で あることから、この変異体で働きが低下している遺伝子のうち、側根形成の初期段階でオーキシンによって活性化される遺伝子が側根の形成で重要な働きを持つ と予想した。そこで今回、そのような条件に合う2つの遺伝子(LBD16、LBD29)に注目し、側根形成におけるそれらの遺伝子の働きについて詳しく調 べた。

【結果】
LBD16とそれに良く似たLBD29遺伝子は、オーキシンによって側根形成部位で活性化される遺伝子で、ARF7とARF19遺伝子の2つの機能が欠損 したarf7 arf19変異体の中では、活性化されない。またARF7、ARF19遺伝子は、それぞれ他の遺伝子を作動させるスイッチになる転写因子と呼ばれるタンパ ク質を作り出ししているが、実際にこれらがオーキシンに応答してLBD16とLBD29遺伝子のスイッチを直接活性化する。つまり、このたんぱく質をつく るために必要なDNAの遺伝情報を伝令RNA(mRNA)がコピー(転写)するさいに、mRNAを合成する段階を促進していることを明らかにした。
さらに、側根が作られなくなったarf7 arf19変異体(図A�A)の中で、LBD16やLBD29遺伝子の働きを人為的に活性化させると、側根が新たに作られるようになった(図A�B)。ま た逆に、LBD16遺伝子の働きを抑制した野生型植物では、側根の数が減少した(図A�C)。そしてLBD16やLBD29遺伝子もまた、細胞の核の中で 他の遺伝子の働きを調節する植物に特有なタンパク質をコードすることが示唆された。
このような結果から、LBD16とLBD29は、オーキシンの作用により、ARF7、ARF19遺伝子の指令を受けて側根形成初期段階で働く遺伝子であることが示された。


【本研究の意義と位置づけ】
オーキシンは植物の成長のさまざまな現象に働く重要なホルモンであるが、今回、植物が根を増やす際のオーキシン作用の仕組みが遺伝子レベルで明らかになっ た。この発見により、植物の根が作られる仕組みの全体像を分子レベルで解明する糸口が見つかった。また、植物が陸上で生育するために根の形と働きを進化さ せてきたメカニズムを理解する手がかりにもなる。さらに、今回の発見から、さまざまな環境に適応して発育する根をもつ作物・品種を人工的に開発する技術が 生まれることが大いに期待される。

【農学への応用】
いくつかの果樹や花木は挿し木によって栽培生産されるが、このときに根の発根のしやすさが栽培上重要となる。今回、オーキシンに応答した根を増やす過程を 遺伝子レベルで明らかにしたことから、これまで挿し木で栽培することが難しかった品種において、栽培を可能にする技術の開発に結びつく可能性が高い。ま た、根は土中の水分やミネラルを吸収するだけでなく、地上の茎や葉を支えるのにも役立つ。したがって林業や農業では、発芽後の実生が生育しにくい環境で も、地下部を発達させることで、実生の成長を維持・促進させることができるだろう。さらに、サツマイモやニンジンのように根を食用とする作物においては、 これらの遺伝子の働きを調節することで、人工的に根を多く作る品種を作り出すことや、逆に側根の形成頻度を調節することもできると期待される。このように 今回の発見は、農業や林業、園芸で重要な品種改良技術の開発につながることが期待される。

【本件に関するお問い合わせ先】
バイオサイエンス研究科 細胞生物学専攻 形質発現植物学講座 教授 田坂 昌生
TEL: 0743-72-5480 FAX: 0743-72-5489 E-mail: m-tasaka@bs.naist.jp

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