根端で細胞増殖を指令する遺伝子を発見

2007/04/09

〜根と茎に共通した機構が存在 栽培植物の増収にも期待〜


【概要】
奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科の中島敬二准教授(植物遺伝子機能学)らの研究グループは、植物の根が伸びるさいに先端部の細胞が分 裂・増殖する仕組みの鍵を握る遺伝子をドイツとオランダの研究グループと共同で発見し、4月12日発行の英科学誌「ネイチャー」に発表する。植物の根は植 物体を支え、土壌から栄養分を吸収するなど生命を維持するうえでの重要な機能があるが、遺伝子の発見により根の伸長や分化を調節できれば、厳しい環境でも 生育できる作物の育成につながる、として期待される。また、樹木などが数千年も生長し続ける謎を解く糸口を見つけ出した研究でもある。
中島准教授と大学院生の宮島俊介は、フライブルク大学(ドイツ)のトーマス・ラオックス教授、及びユトレヒト大学(オランダ)のベン・シュヘーレス教授ら のグループと共同で、シロイヌナズナの根端にあるわずか数個の細胞のみで,司令塔のような機能を果たす遺伝子の働きを調べた。この細胞は「静止中心」と呼 ばれ、それ自体は分裂しないが、その周囲にある幹細胞群(さかんに増殖して根を作るのに必要な細胞を供給する細胞群)を養う働きをする。この機能を持つ遺 伝子はWOX5と命名されており、他の遺伝子の発現を制御する物質で転写因子といわれるタンパク質をつくりだしている。
WOX5を破壊した株の根では、根の先端の「根冠」と呼ばれる組織をつくる幹細胞が増殖を止めて、はやばやと分化を始めてしまった。また根の成長に必要な別の遺伝子も同時に破壊すると、すべての幹細胞が失われて根の成長が発芽後すぐに停止した。
反対にWOX5遺伝子を静止中心よりも広い領域で強制的に発現させると、幹細胞の性質をもつ多数の細胞が蓄積して、細胞の成長の統制が取れず正常な成長が出来なくなった。
これらの結果は、静止中心で発現するWOX5遺伝子が、それに接した幹細胞の機能を保持するのに必要かつ十分な機能を持つことを示している。同じ遺伝子が単子葉植物のイネでも見つかっており、WOX5による根の幹細胞の保持機構は高等植物に共通であると考えられる。
また、WOX5が作り出すタンパク質は、茎の先端で幹細胞を保つ働きをするWUSタンパク質とよく似ていた。WOX5破壊株の静止中心でWUSを発現させ ると根の幹細胞は正常に戻り、逆に茎の成長が停止するWUS破壊株の茎の先端でWOX5を発現させるとその成長が回復した。これらの結果は根と茎の成長が よく似た細胞間コミュニケーション機構で制御されていることを示している。
動物では再生医療への応用を目指して幹細胞の研究がさかんに行われているが、基礎研究の分野では植物でも動物に匹敵するレベルで研究が進行している。根の 成長制御は農業や園芸産業などへの応用につながる分野であり、今回の研究成果が将来作物や花卉の改良につながることが期待される。

【解説】
研 究の背景植物の根や茎の先端はその生涯を通じて成長を続ける。ある種の樹木などではその期間は数千年にさえ及ぶ。これは根や茎の先端に「幹細胞」(継続的 な分裂能力と様々な細胞への分化能力をそなえた細胞)が保持されているためである。動物と植物に共通して、幹細胞は近接する細胞からのシグナルに依存して 増殖することが分かっている。植物の根の幹細胞は「静止中心」と呼ばれるわずか数個の細胞を取り囲む様に配置している(図1)。静止中心の細胞は、それ自 体は分裂しないが、周囲の幹細胞を増殖させる役割をもっている。同様に茎の先端の幹細胞も、その下にある「形成中心」に依存して増殖を続ける(図1)。茎 の形成中心で発現する転写因子タンパク質WUSは、茎の幹細胞の増殖に重要であることが既に示されていた。一方、根の静止中心が幹細胞を増殖させるのに働 く遺伝子は明らかでなかった。最近になってシロイヌナズナのゲノム中に、WUSによく似たタンパク質をコードする複数の遺伝子が発見された。今回の研究で は、そのうちの1つのWOX5の機能解析をおこない、以下の2つのことが明らかとなった。
1. 転写因子タンパク質WOX5は、根の静止中心が隣接した幹細胞の機能を保持するのに中心的な役割を果たす。
2. 根と茎における幹細胞の分裂や分化は、類似した機構によって制御されている。


研究の手法と結果
WOX5遺伝子の発現組織を様々な方法で調べたところ、根の静止中心のみで発現していた(図2)。
シ ロイヌナズナのWOX5遺伝子破壊株を作り、根の内部構造を観察したところ、静止中心の先端側にあり「根冠」と呼ばれる組織のもとになる幹細胞が分裂を停 止し根冠に分化していた(図3)。静止中心よりも基部側の根の伸長を担う幹細胞は変化していなかったが、根の組織形成に機能する他の遺伝子を同時に破壊す ると、これらの分裂能も失われて根の成長が停止した。これらの結果はWOX5が根の幹細胞の機能を保持するのに必要であることを示していた。
WOX5 遺伝子を静止中心よりも広い領域で強制的に発現させると、本来1層しかない根冠の幹細胞が十数層にまで多層化した(図4)。これらは根冠に分化しておら ず、分裂能力をもっていたことから余分な幹細胞が蓄積したと結論付けられた。この状態でWOX5の発現を正常な状態(静止中心のみ)に戻すと、多層化して いた幹細胞が根冠細胞へと分化し、幹細胞は1層のみに戻った。この結果は、WOX5が根の幹細胞の機能を保持するのに十分であることを示していた。
WOX5 破壊株の根の静止中心でWUSを発現させると、根の幹細胞の機能が回復した。反対にWUS破壊株の茎の形成中心でWOX5を発現させると、茎の幹細胞の機 能が回復した。これらの結果はWUSとWOX5が互いに交換可能であり、植物の地上部(茎)と地下部(根)の成長の基礎となる部分が、共通の機構で制御さ れていることを示していた。

本研究の意義と位置づけ
動物と植物の幹細胞は、ともに近接した細胞間のシグナル伝達に依存して保持さ れているが、シグナル分子の実体は明らかでない。今回、WOX5が根の幹細胞と静止中心の間でのシグナル伝達に重要な機能を果たすことが示されたことで、 細胞間シグナルの実体解明に大きく近づいた。また、根の先端が伸び続けるしくみが遺伝子レベルで解明されたことで、厳しい自然環境でも生育できる植物の作 出など、応用面での意義も大きい。

【本件に関するお問い合わせ先】
バイオサイエンス研究科 分子生物学専攻 植物遺伝子機能学講座 准教授 中島 敬二
 TEL:0743-72-5521  FAX:0743-72-5529 E-mail:k-nakaji@bs.naist.jp    

このトピックにつきましては、以下のとおり報道されました。
2007年4月12日 日経産業新聞
2007年4月16日 読売新聞

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