異常タンパク質を見つけ出し、修復する生体防御反応の仕組みを明らかに!−アルツハイマー病や糖尿病の治療にも期待−

2007/10/03

【概要】
 細胞内に異常なタンパク質が貯まると、細胞が死んでアルツハイマー病などさまざまな病気を引き起こすが、奈良先端科学技術大学院大学バ イオサイエンス研究科の木俣行雄助教、河野憲二教授(動物細胞工学)らのグループは、この状態を体内物質が見つけ出し、生体防御に向けて働くメカニズムの 発端を明らかにした。この物質は異常なタンパク質と結合すると働きが活発になり、一気にその情報を遺伝子に伝達し、修復役の分子の合成を増量させて、細胞 を守っていた。異常タンパク質の蓄積が原因の糖尿病などの治療にもつながる研究で、この成果は、10月8日発行の米科学誌「The Journal of Cell Biology」(インパクトファクター:11.0)に、本号のトピックとして掲載される。
 タンパク質は、数十〜数百個のアミノ酸が一列につながる「ひも状」の物質。体の構造物になったり、酵素の役目をしたり、体内で正常に働くためには、タンパク質はあらかじめ決められたとおりの立体的な形に折りたたまれなければならない。
一 方で変形した異常なタンパク質は変性タンパク質と呼ばれ、本来の機能を持たないだけでなく、多数がくっついて有害な凝集体を作ってしまう。この現象は生物 にとって、大きなストレスになるため、タンパク質の正しい折りたたみを補佐する役目の「シャペロン」という分子(タンパク質)が、細胞の中には数多く存在 している。
 河野教授らは、こうした生物共通の生体防御反応に着目。細胞内の小胞体と呼ばれるタンパク質の生産工場に変性タンパク質が蓄積すれ ば、ストレスセンサーといわれる物質(Ire1など膜タンパク質)に検知され、その後、シャペロンなどタンパク質を正常化する分子の合成量が増加する、と いう現象について、酵母を使い研究を重ねた。その結果、これまで謎だった「変性タンパク質がIre1を活発に働かせる仕組み」について、Ire1そのもの が変性タンパク質を認識・結合し、それがIre1の活性化にとって必須であるという効率的な仕組みをつきとめた。本研究成果は、「ストレスセンサーがどの ようにストレスを検知するのか」という学術的に興味深い根源的な問いの答えになるとともに、変性タンパク質の蓄積に伴って発症する病気の原因解明や治療に も寄与すると期待される。

【解説】
説明
 タンパク質は生物の体の主要な構成成分であり、細胞内で合成される。一種類の生 物は数千〜数万種類のタンパク質を作っており、その中には合成後に細胞表面に運ばれるものも多い。例えばホルモンや消化酵素だ。膜で囲まれた細胞内小器官 である小胞体は、細胞表面に運ばれるタンパク質の生産工場である(図1)。小胞体内に存在する分子シャペロンは、タンパク質の折りたたみを助ける。
  折りたたみに失敗したタンパク質(変性タンパク質)が小胞体に蓄積することを、小胞体ストレスと呼ぶ。小胞体ストレスセンサーが「小胞体内の異常」という 情報を小胞体外に伝えると、細胞の自己防衛のための応答、すなわち小胞体ストレス応答が引き起こされる(図1)。小胞体ストレスセンサーの代表がIre1 だ。本研究は「小胞体ストレスセンサーが小胞体ストレスをいかにして検知するのか?」という問いに答えるものである。

図1 細胞外や細 胞表面で働くタンパク質の運命: リボゾーム(伸びたひも状のタンパク質を作る)から小胞体に送り込まれたタンパク質は、BiPなど小胞体分子シャペロン の助けにより折りたたまれ、小胞輸送を通じて細胞表面まで運ばれる。変性タンパク質が大量に出来ると、有害な凝集体となる。この異常は小胞体ストレスセン サーに検知され、小胞体分子シャペロンの合成量増大など小胞体ストレス応答を引き起こし、細胞をストレスから守る(異常タンパク質の処理が進む)。

本研究で得られた知見
 ヒトなど動物細胞より操作が容易なモデル生物である出芽酵母を材料として、以下のことを示す研究結果を得た。これらから、Ire1の「2段階活性制御モデル」が導き出された(図2)。
(1)通常時には小胞体全体に広がって存在しているIre1であるが、小胞体ストレスに応じて集合して局在するようになる(図3)。
(2) 小胞体分子シャペロンBiPは通常時にはIre1に結合しており、小胞体ストレスに応じて離れることが知られていた。Ire1変異体の解析から、BiPの 解離がIre1の集合を促すが(図2、第1段階)、これだけではIre1の活性化には不十分であることが分かった。
(3)精製したIre1タンパク質を用いた実験により、Ire1が変性タンパク質と直接的に結合できることが分かった。
(4)変性タンパク質と結合できないIre1変異体は、小胞体ストレスに応じて集合するにもかかわらず、活性化することはできない。このことから、変性タンパク質の結合が集合化以降のステップ(図2、第2段階)を進めるのに必要であると考えられる。

図 2 本研究で明らかになったIre1活性化過程: 通常時にはIre1にBiPが結合しており、Ire1の活性化を抑えている(左)。変性タンパク質が小 胞体に蓄積すると、BiPが解離しIre1分子が集合する(中)。そこに変性タンパク質が結合することにより、Ire1は完全に活性化する(右)。


図3 小胞体ストレスに伴うIre1の集合: I酵母細胞の写真。Ire1の細胞内分布が緑色で示されている。
(左)ストレスが無い状態では、Ire1は小胞体全体に広がっており、小胞体の形がそのまま見える。 (右)ストレス状態ではIre1が集合し、点状の分布になる。

本研究の意義
  生物はさまざまなストレスを受け、さまざまな生体防御応答を引き起こす。現在までに多様なストレスセンサータンパク質が同定されているが、「それらがいか にしてストレスを検知するのか」という疑問はほとんど解決されていない。よって、Ire1を題材としてこの疑問にアプローチした本研究は、学術的にも興味 深いと言える。
 本研究では、「BiPの解離」に加えて「変性タンパク質の直接的な結合」という事象により、Ire1の活性化が調節されているこ とが示された。今後、どのような変性タンパク質が高い結合力でIre1に作用するか分かれば、「どのような変性タンパク質(=ストレス)により小胞体スト レス応答が効率よく起きるか」「どうすれば、小胞体ストレス応答の程度を人為的に調節できるか」という疑問も解決でき、小胞体ストレスが関係する疾患の研 究にも寄与できると期待している。

背景
 特定のタンパク質の折りたたみ不全が疾患を引き起こす事例は、数多く知られている。折り たたみ状態が異常になればタンパク質は機能を失い、また、有害な凝集体を作ることもある。そのタンパク質が細胞表面に運ばれるべきものならば、小胞体スト レス応答と深い関係が生じる。βアミロイドタンパク質凝集が病因のひとつであるとされるアルツハイマー病では、小胞体ストレス応答の不全が症状を重くする という知見がある。また、過剰な小胞体ストレス応答が細胞死を引き起こすこともある。この現象はインスリン産生細胞の細胞死を引き起こし、糖尿病を悪化さ せると考えられている。本研究を行ったグループは、小胞体ストレス応答を制御する仕組みの解明を通じ、小胞体ストレス応答が不全あるいは過剰となる原因を 理解し、治療に寄与することを目指している。

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