植物が病原菌感染を阻止する仕組みを世界で初めて発見 ~食糧生産の安定化やバイオ燃料の開発に向けた病気に強い植物の創生に期待~

2007/12/25

【概要】
 病原体が植物に感染したさい、植物はまず活性酸素を発生し、それをシグナルとして様々な防御反応を展開することが知られているが、奈良 先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科の島本功教授(植物分子遺伝学)らの研究グループは、この反応を直接に制御しているタンパク質 (OsRac1)を世界に先駆けて発見した。さらに、このタンパク質が他の植物免疫タンパク質と結合した複合体「Defensome」を見つけ、これが中 心に病原体の感染を知り、迎え撃つ自然免疫反応を活発にしていることもつきとめた。
 この成果は、世界的な植物科学専門誌「The Plant Cell」の12月21日付けの電子ジャーナル版で同時に2報の論文を公表する。
  これらの発見は、イネの最重要病害であるイネいもち病や白葉枯病に対する耐病性育種として応用できるだけでなく、世界中の様々な作物の生産に莫大な損害を もたらす病害の克服が可能になる「病気に強い植物」の開発に貢献できる。さらに、耐病性技術の向上により、作物生産の安定化させ、爆発的な人口増加に伴う 食糧問題を解決できると同時に、バイオ燃料の安定供給に向けたバイオマス植物の開発の基盤技術としての応用も期待される。

 見つかったOsRac1は、細胞内の生化学反応のスイッチの役割をするGTP結合タンパク質(Gタンパク質)の一種。「Defensome」は、OsRac1を含む植物免疫タンパク質の複合体。
植 物は、病原菌の感染について、受容体を介して認識し、様々な抵抗性反応を誘導する。この反応は動物における自然免疫応答と似ていることから「植物自然免疫 反応」と呼ばれる。その反応のうち、最も早い反応が活性酸素の生成であり、様々な防御反応を発動するシグナルとして機能している。
 最近、自然免疫反応において活性酸素の生成を触媒する酵素が細胞膜に存在するNADPHオキシダーゼ(酸化酵素)であることが明らかになったが、どのような分子機構によって制御されているかについては全く不明であった。
  島本教授らは、イネの防御反応の誘導の分子スイッチとして機能するGTP結合タンパク質OsRac1が、NADPHオキシダーゼと細胞内で直接的に相互作 用することにより酵素活性を調節し、活性酸素生成を制御していることを見出した。動物においても、両タンパク質に似たタンパク質が活性酸素生成に関わって いることが報告されているが、その分子機構は植物と動物で全く異なるものであった。さらに、OsRac1が形成する複合体の生化学的解析により、 OsRac1複合体には植物免疫反応の重要な制御タンパク質であるRAR1とHSP90が含まれていることを明らかにした。RAR1の発現抑制体や HSP90の阻害剤を用い、それぞれの働きを止めて変化を調べる実験から、OsRac1による耐病性反応の活性化には、RAR1とHSP90との複合体形 成が必須であることが証明され、OsRac1を中心とするタンパク質複合体が植物自然免疫応答の中枢を担っていることを発見した。


【解説】
どうして耐病性研究は重要なのか

  世界の人口は爆発的に増加しており、現在65億人である世界人口が2050年には約91億人に達する。現在、すでに開発途上国を中心にした飢餓や貧困問題 が山積し、食糧問題を解決するための抜本的な対策が望まれている。作物生産における最重要課題は、病害による損害の軽減である。国内においても、病害によ る作物の損害は莫大であり、イネのいもち病や紋枯病、ジャガイモの疫病、ハクサイの根こぶ病など早期に解決すべき数多くの重要病害の課題を抱えている。中 国では、多収性を重視して育成されたハイブリッドイネがいもち病や白葉枯病により大打撃を受けているほか、病害によるジャガイモの損失量は全世界で 7,000万トンにも上り、それは14億人分にも相当する。さらに、世界規模での化石燃料などのエネルギー資源の枯渇が予測され、バイオマス植物の開発が 期待されているが、耐病性を含め解決すべき問題は多い。本発見は、耐病性誘導の分子機構の理解を進め、バイオマス植物の開発や耐病性の付与による作物生産 の安定化に大きく貢献できるものと考えられる。


【本研究内容についてコメント出来る方】
奥野哲郎 教授 京都大学大学院農学研究科植物病理学研究室
電話:075-753-6131 E-mail: okuno@kais.kyoto-u.ac.jp

吉岡博文 准教授 名古屋大学大学院生命農学研究科生物相関防御学
 電話:052-789-4283 Fax : 052-789-4283
E-mail : hyoshiok@agr.nagoya-u.ac.jp

【本プレスリリースに関するお問い合わせ先】
奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 植物分子遺伝学講座 准教授
氏名 川崎 努
TEL 0743-72-5501    FAX 0743-72-5502
E-mail: kawasaki@bs.naist.jp

奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 植物分子遺伝学講座 教授
氏名 島本 功
TEL 0743-72-5500    FAX 0743-72-5502
E-mail: simamoto@bs.naist.jp

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