植物の細胞が細長く成長し続ける仕組みを解明 ~長い根毛の作物など増産に期待~

2008/02/29

【概要】
 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科(グローバルCOE形態統御機構研究グループ)の武田征士特任助教は、英国ジョン イネス研究所のリアム・ドーラン(Liam Dolan)教授のグループ、東京理科大学の朽津和幸教授のグループと共に、植物の根に生える小さな毛、根毛の細胞が一方向に細長く伸びていくシステムを 明らかにした。根毛で働く酵素が、成長を促す役割がある活性酸素を先端部分のみで作ることを発見。今後、栄養分を効率よく吸収する長い根毛の植物を作り出 すなど作物の増産などに役立つ、と期待されている。

 植物の細胞はその周りを堅い細胞壁で覆われているため、体の中を自由に行き来するこ とができない。そのため、細胞は体のどの部分に位置するかによって、その形を驚くほど柔軟に変えている。なかでも根に生える小さな毛、根毛は、根のひとつ の細胞が細長く成長することによってできており、土から水分や栄養分を効率よく吸収するという重要な役割を持つ。

 武田助教らは、シロイ ヌナズナの根毛で活性酸素を作る酵素(RHD2-NADPH酸化酵素)に着目。この酵素が生み出す活性酸素は、細胞の中へのカルシウムイオンの流入を促す ことで成長を早めていることが知られていたが、そのカルシウムイオンが今度はRHD2 NADPH酸化酵素を刺激して、活性酸素の産生を増やすことを発見、根毛の成長を一方向に促進する正のフィードバック制御があることを示した。また、酵素 そのものであるRHD2たんぱく質が成長中の根毛の先端部分に多く集まることを見出し、このフィードバック制御が成長中の根毛の先端で行われていることを つきとめた。これらの結果から、根毛の先端部の局所的なフィードバック制御によって、植物の細胞が方向性をもったまま成長し続けられることを示した。

 成果は、2月29日発行の米科学誌Scienceに発表される。

 根毛は、土から水分や栄養分を吸収する重要な役割をもつ。今回の研究で明らかになったフィードバック制御をコントロールすることで、長い根毛をもつ植物、つまりより高い効率で土から栄養分を吸収できるものを作ることができるようになるかもしれない。

 なお、この研究は、武田助教が英国ジョンイネス研究所のリアム・ドーラン(Liam Dolan)教授の研究グループの一員として行ったものである。

【論文情報】
掲載雑誌のプレス解禁日時:平成20年2月29日(金)午前4時(日本時間)
論文掲載ジャーナル:Science、2月29日号
論文タイトル: Local Positive Feedback Regulation Determines Cell Shape in Root Hair Cells
 (和訳:局所的な正のフィードバック制御が根毛細胞の形を決める)

著 者:Seiji Takeda1*, Catherine Gapper1, Hidetaka Kaya2,3, Elizabeth Bell1, Kazuyuki Kuchitsu2,3 and Liam Dolan1 (1Department of Cell and Developmental Biology, John Innes Centre, Norwich NR4 7UH, UK. 2Genome and Drug Research Center, Tokyo University of Science, 2641 Yamazaki, Noda, Chiba 278-8510, Japan. 3Department of Applied Biological Science, Tokyo University of Science, 2641 Yamazaki, Noda, Chiba 278-8510, Japan. *現 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科)

【本研究内容についてコメント出来る方】
岡田清孝 (基礎生物学研究所所長 自然科学研究機構 0564-55-7650)
島本功 (奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 教授 0743-72-5500)

【本プレスリリースに関するお問い合わせ先】
所属: 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 
グローバルCOE形態統御機構研究グループ
氏名: 武田 征士(たけだ せいじ)
TEL: 0743-72-5487
FAX: 0743-72-5489
E-mail: seijitakeda@bs.naist.jp

【解説】
● 用語説明
・ 活性酸素;過酸化水素、スーパーオキシドなど、酸素に由来する高い毒性をもつ物質。通常暮らしているだけでも、呼吸などによって作られるため、生物はこれ らを無毒化するシステムを持っている(赤ワインに含まれるアントシアニンは抗酸化剤と呼ばれ、活性酸素を無毒化できる)。ところが、植物の根毛細胞など、 早い速度で成長する細胞は、わざわざ酵素を使って活性酸素を作り出し、細胞の成長のために使っている。これは、細胞膜上にあるカルシウムチャネル(細胞内 にカルシウムイオンを流入したり、逆に排出したりできる溝のような機構)を刺激して、細胞内にカルシウムイオンを取り込んだり、細胞壁をゆるめたりするこ とによって、成長を促していると考えられている。

・NADPH酸化酵素;還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸酸化酵素の 略。細胞膜に局在し、NADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)という物質を酸化することで生じた電子を細胞の中から外へ運び出 し、そこで酸素に電子を与えて活性酸素を作り出す。


● 補足資料
シロイヌナズナの根には、表面に根毛という小さな毛が びっしりと生え、水分や栄養分を吸収する(図左)。この先端では、RHD2によって作られた活性酸素がカルシウムチャネルを刺激して、細胞内にカルシウム イオンを取り込ませる。このカルシウムイオンは、今度はRHD2を刺激して、活性酸素の産生を促す(図右)。この局所的な正のフィードバック制御によっ て、根毛は方向性をもって細長く成長し続けられると考えられる。

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