ブックタイトルSENTAN せんたん JAN 2019 vol.27

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概要

SENTAN せんたん JAN 2019 vol.27

様に調べ、双方で共通する遺伝子を選別したところ、たった一つみつかったのが「PD-1」の遺伝子でした。なぜ、がん細胞だけ狙い撃ちされるのか―これからNAISTで行われる研究はどのように進められますか。いままでPD-1について分かってきたことは、免疫応答に関するブレーキ役(負の調節役)であるということです。だから、抗体を結合させて機能を弱め、そのブレーキをはずしてやると、がん細胞に対する免疫応答が高まる状態になって、がんが治る場合がある。しかし、そこで、「なぜ、がん細胞に対する免疫応答が選択的にかさ上げされるのか」という問題が解かれていません。免疫応答が全体的にかさ上げされた場合、自己免疫疾患などが生じるが、PD-1抗体を投与した臨床では極めて軽微な副作用で済んでしまっている。そこのところを基礎医学で解明する必要があります。例えば、PD-1の遺伝子を持たないノックアウトマウスを作っても、若いときは健常なままだが、加齢とともに生じる自己免疫疾患などを抑えるためにPD-1が必要になってくる。それはどのような仕組みか。自己と非自己の識別との関連で調べたい。―どのようなことがわかってきましたか。一つの仮説を提唱しています。正常な体細胞であっても、年齢を重ねるに伴い遺伝子・DNAの変異が少しずつ集積します。この結果、変異タンパク質が体内のあちこちで作られ、それらを免疫のシステムが目ざとく見つけ、非自己とみなして攻撃を始め、自己免疫疾患が生じる。その現象を防ぐために、、PD-1の遺伝子を進化の過程で獲得した、と考えています。体内には数10兆個の細胞があり、それぞれ変異タンパク質を作りだしたら収拾がつかなくなるので、PD-1により、少し変異したぐらいの正常細胞に対する免疫応答が起きないように自己と非自己の境界を少し広げたのではないか。そこに、少しだけ変化した細胞であるがん細胞がぎりぎり入ってきたとみられます。そこでPD-1抗体を投与して境界を元に戻すと、がん細胞は非自己として排除されるのでしょう。その時に、わずかに変異した正常体細胞も弾き出されて攻撃される。それが副作用につながると思います。ただ、がん細胞の方が変異の数が多いので、非自己として識別しやすく、選択的に攻撃しているようにみえるのです。本庶先生の言葉ですが、「自分が何を知りたいかを明確に意識すること」が、非常に大事です。漠然と面白そうだから、これをやってみようという程度の気持ちでは足りない。明確に意識できれば、解明に向けて何が必要かわかり、実験計画を立てることもできる。私の場合、京都大学の本庶先生の研究室に大学院生として入る前から、自己と非自己の識別に興味があり、いまも続いている。その執着心も必要だと思っています。「PD-1」の特性を応用したがん免疫治療薬の開発「PD-1」は、免疫担当のT細胞が活性化したとき、表面に発現する受容体。これに特定の物質(リガンド)が結合すると、T細胞の免疫機能が弱まる。がん細胞の一部は同様の物質を表面に発現することがあり、これがT細胞の「PD-1」と結合して攻撃から逃れている。このため、「PD-1」に結合できないように、人工的な抗体でフタをすることで、治療効果を高めている。これまで、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頚部がん、膀胱がん、胃がんなど多くのがんの治療に使われている。しかし、効果が現れる確率は、肺がんで20%-30%、悪性黒色腫で30%-40%と低く、石田准教授らもこの率を向上させるための研究を行っている。目標を明確に―このようなPD-1の基礎研究での実績を踏まえ、若い研究者に望むことは。(上)スウェーデンから帰国後、京都市内のホテルにて/(左)ノーベルレクチャー終了後のレセプションにて/(右)本庶教授と研究室にてS E NTAN0 6