ブックタイトルSENTAN せんたん JAN VOL.29

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概要

SENTAN せんたん JAN VOL.29

知の扉を開く接着剤を入れて、剥がれ落ちを防止するが、バインダーの絶縁性により、電気抵抗が増し、充放電の効率が落ちてしまう。そこで、高橋客員教授らは、真空下の熱処理により、熱分解して気化するバインダーを開発し、全固体電池の中からバインダーを消すことに成功した。充放電速度や電池寿命が改善され、国際特許にもなっている。産学連携で進める「全固体電池の実用化には、非常に多くの課題が有ります。研究室は企業の支援の場でもあり、大学や企業の独自技術を持ち寄って、世界に先駆け実用化を進めたい」と高橋客員教授。研究に対するモットーは、「モノの本質の理解は工夫することにある」「失敗も視点を変えればよい結果」「研究テーマを深く愛せよ」。多忙な中で、パラシュートで飛行する「パラグライダー」を約30年間続けている。2人乗りができる「タンデムライセンス」を保持するが、「飛行中は緊張・弛緩の繰り返しで、あらゆるストレスが吹っ飛びます」と話す。エネルギー密度を向上山本客員准教授は、全固体電池の重量当たりの電気エネルギーの量(重量エネルギー密度)を向上させることを主なテーマに研究してきた。「イオンを授受する活物質を均一に分散して電極に詰め込んだり、固体電解質層を薄くシート状にして重量を減らしたり、そのための材料や作り方を検討しています。また、どのような形態や組成のシリコンが全固体電池に適した負極となるかを調べています。」と説明する。注目されたバインダーフリーの研究では、溶媒に対する固体電解質の安定性とバインダーの溶解性がトレードオフの関係であったが、固体電解質が劣化せずバインダーが溶ける溶媒をみつけ、成功に結びつけた。「研究はどんな結果が出ても、つとめて楽観視すれば、あれこれ考える余裕ができて、道が拓けます」と前向きの姿勢で臨む。好きなスキーも楽しみながら練習し検定1級の上級者の資格を獲得した。生分解性プラスチック一方、門多客員准教授は、木材など植物資源から作られ、廃棄時に土中の微生物により生分解される「ポリ乳酸系プラスチック」の新素材の研究に取り組んでいる。「ポリ乳酸は、環境問題と関連して認知度が高く、工業生産もされていますが、それほど普及していません。さらに用途を広げるには、製法を見直し、新たに高性能な機能を持つ分子の構造を設計したうえで精密に合成することが必要になっています」と強調する。ポリ乳酸は、動植物の生体内にもある乳酸という有機化合物が長い鎖のように多数結合した重合体。強度はあるが、硬くてもろいという欠点がある。そこで、門多客員准教授は、柔軟性を持たせるため、重合体の鎖を複数つないで分枝したような構造を考え、独自開発の金属を含まない有機触媒を使って合成することに成功した。合成した物質は柔軟性の向上に加えて、接着力が従来の20倍とエポキシ樹脂に匹敵する能力があり、生分解性の物質としては初の接着剤になった。?図2植物由来プラスチックの精密合成「自然の循環に即して、すべてがバイオマス由来の材料で、高機能な信頼性があるプラスチックの素材を開発していきたい」と意欲を見せる。「未知の現象を発見する楽しみをベースに、企業のニーズと両立する形で研究を続けてきました。本学の大学院生も企業の研究を間近に見て、視野を広げてもらいたい」と話す。オフの日は、セラミックスに目を向け、歪が無い青磁づくりを生涯の目標としている。環境保護と便利さの両立本学から大阪産業技術研究所へは、電車で約30分の距離。1年生は、本学で授業があるが、2年生からは、ほとんどの時間を研究所で過ごす。奥野亮太さん(博士後期課程2年)は「日頃は研究室のメンバーだけなので、人数が少ない分、仲良くなります」という。テーマは、硫化物系全固体電池の負極に使うシリコン粒子の体積変化による劣化防止で、「粒子の多孔質化により、大幅に軽減できることがわかりました」と話す。研究は、「障壁があってもどこかに抜け道をみつけてやりきる。好きなゴルフで勝つ戦略を立てる経験が生かされているかもしれません」という。谷口雄介さん(博士前期課程1年)は、「新型コロナの影響で遠隔授業になり、研究の時間が十分にとれるようになりました」と話す。硬い酸化物系固体電解質の粒子を密着させる柔らかいバインダーの研究で「できるだけ低温でできるものを探していて、固定観念にとらわれない研究を心がけています」という。生分解性プラスチックを研究している村山美希さん(博士前期課程2年)は「学生は少ないが、企業の研究者が頻繁に訪れるので就職に向けての参考になります」と話す。ポリ乳酸を柔らかいポリビニルアルコールと組み合わせることで、柔軟なポリ乳酸素材を開発できた。「環境保護と便利さが両立するような素材を開発したい。そのために、思考も柔軟にしようと心掛けています」という。▲奥野亮太さん▲谷口雄介さん▲村山美希さん?物質創成科学領域先進機能材料研究室https://mswebs.naist.jp/courses/list/labo_23.htmlS E NTAN12