ブックタイトルSENTAN せんたん JAN VOL.29

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概要

SENTAN せんたん JAN VOL.29

知の扉を開くプログラムの自動合成このような研究室スタッフ、OBが全員参加する大がかりな研究プロジェクトには、各分野のエキスパートが顔をそろえる。石尾准教授は、大規模なソフトウェアのソースコードの作動状況などを調べる「プログラム解析」の研究者。バグの発見と除去の効率化、動作異常の原因究明など開発者の研究活動を支援する成果が多い。企業のソフトウェア内のデータを自動的に追跡し、会計や人事など重要なデータを算出するプログラムにマークを付けて残し、一方で改変を重ねて不要になった過去のプログラムは切り捨てる技術により、処理能力を高めるアップサイクリングの素材を集める研究も行っている。最近の成果は、「プログラミング言語の自動合成」。ユーザーがデータベースを検索したときに、その入力データから出力データを計算する操作言語を自動的に合成するもので、出力の条件を絞り込むことにより、自動合成の時間を1秒以内と大幅に短縮、成功率も向上した(https://www.naist.jp/pressrelease/2020/11/007406.html)。プログラミング教育の方法を変革する開発もある。全国初の完全遠隔授業システム「カメレオン」だ。どこにいても本学のプログラミング演習の受講や指導がリモートにより双方向で可能になる。プログラムを作成する学生のモニター画面を指導者側はクラウド上で一括管理して個別に添削やチェックができる。さらに、学生の理解度をAIが自動的に判断する機能も加える予定だ。石尾准教授は、大学生の時、アルバイトで企業の情報システムづくりを手伝ったのをきっかけにプログラミングに興味を持ち、「ソフトウェアづくりは、故障の原因になるバグをなくすなどの責任が重く、それがやりがいになると実感し、理論より実践の研究を選びました」という。「困難なテーマに対しては、最初からできないと言わずに、取りあえず何かやって▲AIを活用した遠隔授業システム「カメレオン」みることです」。乗り捨て可能なカーシェア畑助教の研究テーマは、ソフトウェア開発に関連するドキュメンテーション。ソースコード中のコメントにはソフトウェア開発時に参照した情報の出典が、ウェブのリンクを貼って示されている。しかし、そのリンク先が消えてしまうケースが約1割あることを世界で初めて明らかにした。ユニークな研究では、電気自動車を有効に共有する「乗り捨て可能カーシェアリング」の実証実験で、決められた駐車場であれば、どこへでも容易に自動車を返却できるシステム(https://naist-carshare.github.io/)。畑助教は自律的に効率的な管理運用が果たせるように、暗号通貨などに使われるブロックチェーンという分散管理のシステムを使い、自動車の需要の状況に応じた返却の行動に報酬を与えるという動機付けの仕組みが有効かどうかを調べている。「ソフトウェアづくりでも、複数の開発者の協調が必要で、うまく分担するような望ましい行動に報酬を与えるようなシステムに応用できないかと考えています」と意欲を見せる。ラウラ助教は、開発者の人格的な側面、スキルの熟練度などを測定して評価し、適正に配置する方法を研究している。AIについては、開発者に対し、使っているソフトウェアに関連して有効なソフトウェアを推薦するシステムに取り組んでいる。最近の成果は、ソフトウェアのバグなど脆弱性の問題について、開発者の80%が、ソフトウェアの欠陥を修正して更新するアップデートを行わず使用していることを明らかにし、注意を促した。ラウラ助教はパプアニューギニアの出身。オーストラリア、米国で学んだあと、「日本は最新の技術の中に自前の文化を育んでいる」と心惹かれ、本学に入学。ポスドクを経て助教に就任した。「研究はシンプルがベスト。その方がコミュニケーションを取りやすい」。地ビールが好きで「飲み二ケーションが弾みます」。きれいなプログラム上田裕己さん(博士後期課程2年)はソースコードのバグを除いたり、読みやすく修正したりして高性能のきれいなプログラムをつくる研究をしている。「開発の履歴を調べると、バグなどを防ぐために、そのチームだけの暗黙のルールがありました。製品のトラブル防止の有力なツールになります」。また、IPA(情報処理推進機構)のIT人材発掘・育成事業で、卓越した開発能力を持つ「スーパークリエータ」に認定されている。「研究はプログラムをきれいにして、楽しく使うのが目的なので、今後も誰もが利用したくなるプログラミングツールの研究を続けていきたい」と意気盛ん。博士前期課程2年のワッタナクリエンクライスパトラサラ(ニックネーム:エイシア)さんは、タイからの留学生。ソフトウェア開発の共同作業で、どのように協力し合っているかを人的な側面からデータで明らかにし、適正な役割分担を図る。「NAISTは先輩の勧めでインターシップを経験して入学しました。教育や研究の環境が素晴らしく、後輩の学生にも伝えます。後期課程に進んで大学の教員になりたい」と意欲を見せる。日本国内の旅行や料理も気に入っている。▲上田裕己さん▲NAISTワンウェイ型カーシェアリングにおける活動分析▲ワッタナクリエンクライスパトラサラさん?情報科学領域ソフトウェア工学研究室https://isw3.naist.jp/Contents/Research/cs-05-ja.htmlS E NTAN08