ブックタイトルSENTAN せんたん JAN 2022 vol.30

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SENTAN せんたん JAN 2022 vol.30

知の扉を開く不純物の価数ごとに周囲の構造を測定することができます」という。この方法で松下教授はダイヤモンドを次世代の半導体材料に仕立てる研究の重要な課題を解明した。通常のシリコン(Si)半導体では、リン(P)を不純物にしてマイナスの電気を帯びたN型半導体ができるが、炭素の結晶であるダイヤモンドでは、それがうまくいかない。調べたところ、リンには2種類の価数があり、そのうちの1種類は、結晶の成長過程で炭素原子が2個抜けた空間に1個だけ入るという歪んだ構造を取っていることが原因とわかった。松下教授は「新たに開発した装置を使い、結晶構造学に加えて、これまでなかった観測に基づいて3次元的に調べる不純物構造学を構築していきたい」と抱負を語る。限りなく平坦な表面服部准教授は、シリコン半導体を立体化して電子回路が集積できるスペースを増やすなど高性能化する研究に取り組んでいる。なかでも、電子の通り道になる基板の側面を限りなく平坦化し、電子のエネルギーロスを減らすことは、重要な課題だ。そこで、ピラミッド形の立体的なシリコン基板を作り、その表面の凹凸の深さがわずか原子サイズの0.1ナノメートル(10億分の1メートル)と超高精度で乱れのない原子配列構造のレベルに仕立てる方法の開発に世界で初めて成功した。結晶面の化学反応性を考慮した処理など結晶学や、低速電子回折という表面の原子構造を鋭敏に見ることができる表面科学を取り入れた基礎科学の手法の導入により、これまでの経験則中心の技術の限界が突破できた。さらに、立体の側面が接する稜線(境界線)の直線部分の原子配列を整えることにも挑んでおり、「立体の面、線、点を原子のサイズで制御し、ナイフのように尖らせるなどさまざまな精緻な造形の実現を目指しています」と語る。また、このピラミッド形の物質の斜面上にナノメートルサイズの厚さの鉄(Fe)の薄膜を作製したところ、特異な磁石の性質(強磁性特性)を示すこともわかった。理論的には予測されたが、実証できなかった現象で、「立体化したシリコン半導体の形状と、その表面での精緻なモノづくりが織りなして新たな特性が引き出せることがわかってきました」。こうした高精度の立体表面加工技術の成果を電子回折により短時間で測定し、データを「逆空間マップ」という読み取り易い形で評価できる装置の開発も手掛けている。「技術革新を起こす研究は、あれこれ試行錯誤して既成概念と異なる方向を打ち出すことにあります。研究の多様性を維持することが大切です」と強調した。電子の動きが変化する武田助教は、半導体の結晶表面の原子の配列や電子の移動の様子を光電子分光の装置を使って調べ、理論解析している。半導体素子では、電子が結晶表面から10ナノメートル程度の非常に狭い層に閉じ込められ、ナノの世界特有の物理現象で動くので、その振る舞いの特徴をつかむことは、性能の向上に大きく関係する。これまで武田助教は、「角度分解光電子分光装置(ARPES)」という測定装置により、光電子が飛び出した方向別にエネルギーと数を測定し、電子の状態がわかる画像を得ることに初めて成功している。最近の研究では、電子は結晶表面近くの狭い空間で移動速度が遅くなったり、数多くたまった電子が他の電子に影響を与える現象(多体効果)が出て電流を流すための電圧が変化したり、性能の低下につながる電子の新たな挙動が明らかになった。「測定すればするほど新しい現象が見つかる。まさに百聞は一見にしかずで、わかった気にならず実測することは重要です」という。分解能を高める橋本助教は、X線を試料に照射して発生する元素固有の蛍光X線のエネルギーを手掛かりに分析する「蛍光X線ホログラフィー」という装置の研究に取り組んでいる。この装置は、微量に添加した元素の原子配列の決定はできるものの、現行のX線検出器のエネルギー分解能に限界があり、化合物を測定するのは困難だ。そこで、蛍光X線のエネルギーを電子のエネルギーに変換して分解能を上げるという新たな原理のX線2次検出器の開発を目指している。橋本助教は、本学博士後期課程の出身。「光電子分光は実験がメインの物理学なので、自分の性に合っていて興味がつきない。開発中の装置も時間の経過を追えるなど様々な機能を付加していきたい」と意欲を見せた。若い学生も測定技術の発展に一役を担っている。博士前期課程2年生の黒崎真帆さんは、半導体の表層の電子の動きを理論計算によるシミュレーションで調べている。「電子が平面状に分布すると動きが速くなるケースについて、内部のエネルギー状態などとの関連をシミュレーションしています。理論計算でわかったこともあり、この手法をさらに効率化していきたい」。同じく博士前期課程2年生の竹内走一郎さんは、光電子ホログラフィーを使い、シリコン半導体の表面で絶縁材料になる酸化膜の構造解析などを行っている。研究はできるだけ効率的に行うのが信条で、「AIの深層学習の手法により、原子像を再生する研究にも取り組んでいます」と話した。▲黒崎真帆さん▲竹内走一郎さん?物質創成科学領域物性情報物理学研究室https://mswebs.naist.jp/courses/list/labo_02.htmlS E NTAN10