ブックタイトルSENTAN せんたん SEP 2021 vol.30

ページ
16/24

このページは SENTAN せんたん SEP 2021 vol.30 の電子ブックに掲載されている16ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

SENTAN せんたん SEP 2021 vol.30

バイオサイエンス領域山口暢俊助教繰り返す猛暑に植物が適応する仕組みを発見細胞保護の遺伝子を働かせる機構を発動して維持し、次の高温に備える高温耐性の予測と操作による気候変動下の食糧の安定供給に期待(a)野生型(b)jmj変異体バイオサイエンス領域の山口暢俊助教、伊藤寿朗教授と東京大学などの共同研究グループは、植物が繰り返しやってくる高温の刺激に適応した上で、あらかじめ次の高温刺激に備えておくという巧妙な生体防御の仕組みを世界で初めて明らかにした。共同研究グループは、シロイヌナズナを使った実験で、DNAを巻き取っているヒストンというタンパク質にメチル基が結合(メチル化)することで、熱ショックタンパク質の遺伝子の発現を抑制し、高温になるとメチル化が除去されて、その遺伝子が活性化されるという生体防御の機構が働きはじめ、気温が下がった後もその状態がしばらくの間、維持されることを突き止めた。熱ショックタンパク質の遺伝子の発現が抑制されないままなので、高温の刺激に速やかに応答できることもわかった。さらに日本各地の温度条件に応答した遺伝子の発現の状態を数理的なシミュレーション(模擬実験)で予測し、人工的に操作して高温耐性を付与することにも成功した。この成果は「ネイチャーコミュニケーションズ」(オンラインジャーナル)に掲載された。▲繰り返される高温の刺激を与えた植物最新の研究成果バイオサイエンス領域稲垣直之教授神経ネットワークの要の構造、シナプスを強化する新しい仕組みを解明~認知症等の神経疾患解明への応用に期待~バイオサイエンス領域の稲垣直之教授、リア・カスティアン博士研究員、嶺岸卓徳助教と京都大学の研究グループは、脳内の情報伝達を担う神経ネットワークのシナプスを強化する新しい仕組みを明らかにした。神経細胞の樹状突起上にあるスパインというトゲ状の構造体は、他の神経細胞の軸索との間にシナプスをつくり、情報を伝達する。研究グループは、シューティンという細胞内タンパク質が、脳内の記憶を司る海馬の神経細胞のスパインを形成するとともに、神経活動に応答したスパインの拡大を行うことを見出した。また、その仕組みとして、シューティンが細胞の骨格を形作るアクチン線維と細胞膜上の細胞接着分子を連結することでスパインの拡大に必要な力を生み出すことを解明した。この成果により、神経ネットワークの形成や記憶・学習、ヒトの神経疾患についての分子レベルの理解が深まるとともに、医療への応用などが期待できる。この論文は米国科学雑誌「セルリポーツ」に掲載された。▲シューティンの量の増減に伴う樹状突起スパインの数の変化15 S E NTAN