ブックタイトルSENTAN せんたん SEP 2018 vol.27

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概要

SENTAN せんたん SEP 2018 vol.27

知の扉を開く生命現象が持つ複雑なシステムを物理の視点で解明するバイオサイエンス領域計算生物学研究室教授紹介電位)が発生するのは、膜にあるイオンの通路(イオンチャンネル)の開き具合と、もともと膜が持つ電位差(膜電位)との相互作用であることを解明した。「生化学に物理的要素の視点を加えることで、複雑な現象が意外にシンプルに見えてきます。神経細胞のシグナル伝達も生体分子の拡散ではなく、電気を使うから瞬時に行えるのです」と説明する。作村諭一准教授国田勝行助教神経細胞の形が偏る仕組みの定式化細胞のシグナル伝達は分子とは限らない細胞は、遺伝子やタンパク質分子が化学反応することにより、ATP(細胞のエネルギー源)や必要な分子を生み出して生命活動を営んでいる。急速に発展してきた分子生物学では、この分子の生化学反応を中心に研究されてきたが、一方で、ATPを電気や力など物理的な量に変換して機能を発揮する。例えば、神経細胞はATPを消費して細胞膜内外でイオンの濃度差を生み出し、イオンの濃度差は膜内外の電位差(電圧)を生み出す。これが神経上を伝わって、軸索末端では再び分子シグナル(グルタミン酸等)に変換される。このように神経では電流という物理量自体が細胞内シグナル伝達の一要素となる。作村研究室では、特に細胞の物理的な現象である「形づくり」や「移動」などをテーマに、関係する分子や力、形についての実験や観測のデータを解析し、これらの数理的な関係を導き出して複雑な生命現象の全体像の解明に挑んでいる。作村准教授によると、物理的な生命現象を最初に定式化したのは、英国の生理学者、ホジキン博士とハクスレイ博士(1952年)で、後にノーベル医学生理学賞を受賞した。神経の興奮(活動これまでの大きな成果のひとつは、神経細胞の形の偏りである「極性」が形成されるときの力学的な仕組みの解明。神経細胞には複数の短い樹状突起と、一本の長く伸びた軸索という突起があり、樹状突起が情報を受け取り、軸索の先端から、神経伝達物質を放出し、別の細胞に伝えている。本学の稲垣直之教授らの研究により、神経突起が伸びるときに、駆動力となるエンジンの役割を果たす「アクチン線維の流れ」と、その力を伝えるクラッチの役割をする「シューティン」タンパク質が突起先端で働いていることはわかっていた。しかし、シューティン濃度が揺らいでいるにもかかわらず極性ができる理由を普通の言葉で表現することが困難だった。そこで、作村准教授らは、稲垣教授らとともに、「突起の長さ」「シューティンの濃度」「駆動力」の3つの物理量の相互作用を考え、実験データを導入した定量物理モデルを作成した。その結果、シューティン濃度だけで極性を決めているのではなく、突起の長さとの相互作用で極性が生まれることが分かり、しかも濃度が揺らぎながらも突起が伸長できることが再現できた。この過程をエネルギーの観点で解釈すると、ATPから分子輸送、突起先端における駆動力、基質の変形と突起伸長における弾性エネルギーと次々にエネルギー変換がなされている。つまり、ATPの全0 7 S E NTAN