大学院生インタビュー

student interview

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情報科学領域

2025.9 update

小倉和己

生体画像知能研究室
博士前期課程1年

  • 出身
    日本・京都府
  • 学部での研究内容
    医用画像処理
  • 大学院での研究内容
    医用画像処理

NAISTに入るまで

私は小1での事故により車椅子ユーザーですが、小学校、中学校は公立の学校の支援学級に籍をおき、体育の時間以外は普通学級で過ごしました。日常生活の介助は、支援学級の担任の先生にお願いしていました。周りの友達も自然と手伝ってくれることが多くありました。

高校、大学は一般受験をして、大学は滋賀大学のデータサイエンス学部に入学しました。高校時代はサイエンス部に入っており、何かを分析することに興味があったことと、机上で自分で作業ができるということも考慮して、情報系の分野を選びました。

大学では、公的な制度ではなく、介助のできる事務職員に日常生活の介助を主に担っていただき、その他にも学生支援の事務の方、保健管理センターの方など大学全体で包括的にサポートしていただきました。

滋賀大学では、現在専攻している医用画像処理というテーマに出会いました。大学入学時には、データサイエンスの力をどの分野に生かしたいかが明確ではなかったのですが、医用画像処理を専門にしている先生がおられて、このテーマであれば私が今までお世話になってきた医療の分野で社会貢献できる可能性があると考え、この分野を選びました。

大学院への進学は学部生の頃から希望していて、より実際の医療の現場に近いところで、よりたくさんの医用画像データを扱える研究室に行きたいというモチベーションから、NAISTを見つけました。「いつでも見学会」で研究室に伺ったのですが、私が障害を持っていることに対してネガティブな扱いを受けることは一切なく、大竹先生、佐藤先生、マーゼン先生が快く歓迎してくださいました。これが今の研究室を選んだ大きな要因の一つになりました。先生方や事務の方々は、入学前から入学後どのように学校生活を送っていくかの相談に乗ってくださいました。

現在の研究内容と研究生活

現在専攻している医用画像処理は、CTやMRIなどの医用画像をAIを用いて解析し、その情報を診断・治療に役立てることを目的としています。私の現在の研究テーマは、人が食べ物を飲み込む動作(嚥下)を写したCT(4次元CT)の解析です。食べ物を飲み込むには喉の収縮力が非常に大切なのですが、嚥下障害がある患者さんは、この収縮力が弱くなり、食べ物をうまく飲み込めないことがあります。この喉の収縮力をCTから定量評価し、診断に役立てることを目指しています。また、嚥下に関わる体の構造の動きを明らかにするため、CTから各構造の領域をAIで分割するセグメンテーションという技術の精度向上にも取り組んでいます。

本学での日常生活の介助は、奈良市の移動支援事業大学修学支援型という制度を利用して外部のヘルパーさんにお願いしています。この制度は、国ではなく市町村などの各自治体が主体となって、修学に必要な移動支援、身体介助などを提供するものです。講義や研究を行っている最中はサポートの必要はないのですが、登校してから帰宅するまでの間ヘルパーさんに研究室に待機していただいています。時折、研究室の同期や先輩方に何かサポートをお願いすることもありますが、快く引き受けてくれます。先生方を含め皆さんのサポートもあり、問題なく大学院生活を送れています。非常に感謝しています。

また、生体画像知能研究室は自宅からリモートでも研究が行うことができ、それは私にとって大きなメリットだと感じています。日々の状況や体調に合わせて、フレキシブルに自宅と研究室を選択できるため、とてもありがたいです。

研究環境の課題

研究に関してはあまり不自由していません。先生にはいつでも相談に乗っていただけますし、日常生活では常にヘルパーさんについていただいています。

しかし、入学前の準備段階では、一苦労がありました。私が入学する前は、大学側は移動支援事業大学修学支援型について知りませんでした。そのため、私自身がまず大学の所在地である生駒市に修学支援の制度が利用できるかを問い合わせ、生駒市にはそのような制度はないことがわかりました。それから、奈良市に連絡し、奈良市では修学支援の制度を使えることがわかりました。この時点で、寮や生駒市内の物件ではなく奈良市内に住むことを決めました。それから、どのように制度を利用するか、どの事業所のヘルパーさんにお願いするかといったことを、奈良市基幹相談支援センターの方などと相談し、大学側とも連携をとっていただいて進めていきました。

私のように日常生活に介助が必要な車椅子ユーザーが入学してきた経験は今までなかったと思うので、大学側には試行錯誤していただいたと思います。その過程で「日常生活の介助を友達に手伝ってもらったら」といった意見もありました。もちろん、友達に手伝ってもらえることはとてもありがたく、感謝しています。しかし、それだけに頼ってしまうと、誰かひとりに負担が集中してしまったり、支援が必要なときに支援してくれる人がいないといった状況に陥ってしまいます。それは私だけでなく周囲への負担になってしまいます。あらゆる人の教育の権利を保障するという意味で、障害を持つ学生に対して「このような公的支援を利用できます」というような支援方法を大学側が提示できることが必要だと思います。

研究の観点からみても、本学を多様な人がいられる環境にしておくことは大事なことだと思います。私自身、様々なバックグラウンドをもつ人との関わりで自分だけでは生まれないアイデアが生まれることもあると感じています。基礎研究となるとまた別だと思うのですが、私がやっているような、技術を実社会に応用する研究は、「何の役に立つか」「誰のためになるか」という目的意識もとても大切だと考えています。そういった目的意識は、小中高大の期間に様々な境遇の人と学ぶことで育まれるし、それは大事なことであると思います。

大学院大学は一般的にみても学部のない特殊な大学で、受験などの段階を経て特定の層に固まってしまっていることは否めません。それは仕方ない部分もあると思います。多様性と言って無理矢理に多様な人を集めるのも違うと考えています。とはいえ、ダイバーシティ&インクルージョン推進室を含め大学として障がい学生支援を推進することで研究環境を整えておくことはできるはずです。また、学生自身も閉ざされた空間になりがちな研究室内だけでなく、大学の外、そして社会に日頃から目を向ける意識を持つことが大事だと考えています。

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