ホーム  > メッセージ  > 研究者インタビュー  > 研究者紹介 Vol.28

研究者紹介 vol.28 バイオサイエンス領域 植物代謝制御研究室(出村研)中田未友希 先生

2012年3月京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了。2012年から2019年にかけて、基礎生物学研究所専門研究職員、立教大学ポストドクトラルフェロー、産業技術総合研究所特別研究員として、植物の形づくりに関する遺伝子の研究や植物細胞壁の改変によるバイオ資源増産をテーマとした研究に従事。2019年4月より現職。

なぜ研究者に?

もともと算数や理科の勉強は好きでしたが研究者になりたいという発想はありませんでした。ただ、雑誌『ニュートン』が家にあったり、理数系の研究の世界は身近ではありました。実学には興味がなく、わからないことを試行錯誤しながら理解していくプロセスが好きだったこともあり、大学は理学部に進みました。
大学では、友達に誘われてきのこ採りのサークルに入り、週末には山に出かけ、先輩方にさまざまな植物やきのこの名前を教えてもらったり、図鑑を見ながら一緒に調べたりしていました。この経験が、かたちも生き方も様々な植物が身近にたくさんあることを意識するきっかけとなったように思います。ですが、かたちや生き方といった一見曖昧なものが科学研究の対象になるという発想はありませんでした。

研究者になる契機としては、当時京都大学の教授だった岡田清孝先生の授業を受けたことが大きかったように思います。植物の様々なかたちをつくるしくみがすでに科学研究の対象になっていて、遺伝子を調べるとそのしくみを論理的に理解することができる、ということを知り衝撃を受けました。中でも、葉っぱを平らにするしくみに特に興味を持ちました。葉の表裏には柵状組織と海綿状組織、毛や気孔の数などの違いがあり、その違いを生み出すのは働く遺伝子の組み合わせの違いによります。表を作る遺伝子と裏を作る遺伝子が互いに働きを抑え合うことで表と裏の場所が決まり、維持されるのですが、この遺伝子レベルでの表裏の違いが葉っぱの扁平化にも必要だということが分かってきた、という内容でした。表裏の違いが葉っぱが平らであることとどういうふうにつながっているのか不思議に思いました。それで学部のあとは岡田先生の研究室に進学し、この研究テーマに取り組みました。途中、岡田先生が基礎生物学研究所の所長に着任されたため私も基礎生物学研究所に移りましたが、博士号取得後まで一貫してこのテーマで研究を続け、表裏の違いと葉っぱの扁平化をつなぐ遺伝子とそのメカニズムの一端を明らかにすることができました。

その後、立教大学のポスドクを3年間勤め、研究対象は根に変わりましたが、植物の形づくりをテーマとした遺伝子の研究という点では岡田研の時と似た研究をしていました。産業技術総合研究所ではテーマがガラッと変わり、バイオ資源増産のための植物細胞壁の改良をテーマとした基礎研究に3年間従事しました。このプロジェクトでは、社会につながる研究に関わることのやりがいを知ることができました。

本学に着任してからは、植物のかたちや生き方における植物細胞壁の力学的な役割をテーマとした学際的な研究に取り組んでいます。着任前はモデル植物として世界中で利用されているシロイヌナズナという草本植物を実験材料としていましたが、本学ではマメ科の作物や樹木のユーカリなど、様々な植物種を研究対象として扱うようになりました。他大の建築学や物理学出身の研究者の方々とも意見交換しつつ、植物の多様なかたちや生き方を理解するため、また、研究成果を社会の役に立てるため、日々研究に従事しています。

一日のスケジュール

朝は私が家事・育児の担当で、子どもに朝ご飯をあげてから出勤します。9時半から10時の間に出勤をしたら、17〜18時ごろまで仕事をします。通勤は車で15分くらいです。帰ってからは育児を交代して、子どもをお風呂を入れたり、遊び相手になったり、寝かしつけも担当することが多いです。自営業の夫は、日中は家事をしながら子供のお世話、夜に家事が終わったらやっと自分のことができるという状況で結構大変だと思いますが、しっかりやってくれているので、安心して研究することができています。とてもありがたいです。

現在担当している学生は2名です。小さい子どもがいるからと出村先生に業務量への配慮をいただいていることはたいへんありがたいです。大学院大学ということもあるのかもしれませんが、研究に意欲的に取り組む学生が多く、とても助かっています。担当している学生と一緒に、研究テーマに関連する文献を精読する勉強会をしていますが、教えながら自分も勉強し直しているところもあり、教育と研究が完全に分離していることはないように感じています。

本学の研究環境と課題

研究環境としては、研究室にある研究機器以外にバイオサイエンス領域の共通機器が多くあり、植物栽培のための温室もあるので、設備面で困ることはほとんどないです。ただ、情報共有や事務手続きなどが印刷物かメールでのやり取りのみのことが比較的多いので、グループウェア的なものでシステム化してもらえると、事務的な負担がより軽減でき、研究時間をより多く確保できるようになると思います。

先日、学内の託児室せんたんにシッターさんに来ていただいて、ベビーシッター利用費補助を利用しました。託児室は安全対策がきちんと施されていておもちゃもたくさんあり、学内で安心して預けられる場所があるのはありがたかったです。ベビーシッター利用の基本料金は補助のおかげもありそれほど高く感じませんでしたが、大学の近くにシッターさんがいないということで手配に時間がかかり、遠方から来てくださったため交通費がずいぶんかかりました。そうなるとなかなか気軽には使えないので、この点は今後改善されることを期待します。

(令和4年2月)

interview content