INTERVIEW

Johanes Effendi(NAIST修了生)

Senior Research Scientist, Frontier Research Department (FRD), Rakuten Asia, Pte. Ltd.

インドネシア出身、シンガポール在住。楽天のFrontier Research Department(FRD)に所属するシニア・リサーチ・サイエンティスト。自然言語処理(NLP)分野、とりわけ大規模言語モデル(LLMs)や生成AIの研究開発に従事している。インドネシアのUniversitas Indonesiaでコンピュータサイエンスを学んだ後、日本に留学。奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)にて修士号および博士号を取得した。現在は、大規模LLMの学習および評価、日本語・多言語技術の高度化、さらに効率的かつ実用的なLLMシステムの開発を主な研究テーマとしている。研究と実装の両面を橋渡ししながら、最先端AI技術の社会実装を推進している。

Pearlyn Yap(聞き手)

奈良先端科学技術大学院大学外部アドバイザー (留学生キャリアアドバイザー)・
森興産株式会社 国際人財開発事業部 副部長

シンガポール出身、日本在住。シンガポール国立大学(心理学部)を卒業後、日本へ来日。学生時代は京都大学で交換留学を経験した。2019年より森興産株式会社で国内外の学術機関との連携強化、外国人材の活躍支援に注力している。
日本語・英語・中国語を話すマルチリンガル。2025年10月より奈良先端科学技術大学院大学の外部アドバイザー(留学生キャリアアドバイザー)に着任し、外国籍視点からの留学生就職支援を行っている。

日本発AIを、世界へ

Pearlyn
Pearlyn

Johanesさん、本日はお時間をいただきありがとうございます。
まず、現在お勤めの会社やご自身の業務内容、役割について教えてください。

Johanes
Johanes

こちらこそお越しいただきましてありがとうございます。
現在、楽天グループのフロンティアリサーチ部門(Frontier Research Department, FRD)でシニア・リサーチ・サイエンティストとして働いています。私たちのチームは、楽天の事業および長期的なAI戦略を支えるため、日本語の大規模言語モデル(LLM)の研究開発を担当しています。楽天では「AI-nization(AIの徹底活用)」を掲げ、あらゆる事業領域にAIを取り入れることで、さらなる成長を目指しています。
私自身は、日本語および日本のビジネスユースケースに特化したLLMの開発を担当しており、日本の技術コミュニティを支援するため、「Rakuten AI 2.0 LLM」などのオープンソースプロジェクトにも貢献しています。最近では、経済産業省およびNEDOが主導する国家プロジェクト「GENIACプロジェクト」に採択され、次世代の日本語LLMを活用した高度にパーソナライズされたAIエージェントの開発にも取り組んでいます。

Pearlyn
Pearlyn

とても興味深いですね。単なる“研究職”に留まらず、現代ビジネスや社会課題の解決に直結するAIプロダクトの実装・応用まで視野に入れたポジションを任せれておられるんですね。こうした「プロジェクトをリードする実行力」は博士人材に期待される能力の一つだと感じます。
奈良先端大では博士人材の育成に注力していますが、楽天シンガポールオフィスでの(もしくはJohanesさんが所属するAI開発チームでの)博士号取得者の割合や期待値について教えていただけますか?

Johanes
Johanes

私たちのチームでは、博士号取得者の割合はかなり高く、実は修士号取得者よりも多いくらいです。これは、私たちの部署が最先端のAIモデルの研究開発やエンジニアリングを担っているためで、強い研究バックグラウンドが求められるからです。博士人材に対しては、一般的により高い「自立性」が期待されています。具体的には、自ら課題を発見する力、解決策を主体的に提案する力、新しい研究方向を切り拓く姿勢、実験設計やアイデアの検証をリードする力などが求められます。
また、博士課程で培われた批判的思考力、厳密な実験設計・検証能力、オープンエンドな課題に取り組む力を、実際のモデル開発に応用し、AIシステムのイノベーションに貢献することが期待されています。 さらに博士人材は、研究と実装をつなぐ“橋渡し役”になることも多いですね。研究のアイデアをエンジニアと協働しながら、実際に動くシステムへと落とし込んでいく重要な役割を担っています。

Pearlyn
Pearlyn

なるほど、様々な役割が期待されていることが分かりました。Johanesさんが実際に働いてみて、博士号を持っていることの価値をどのように分析されていますか?

Johanes
Johanes

企業で働く中で感じるのは、博士号の価値は「専門知識そのもの」だけではないということです。
技術の進化は非常に速く感じます。例えば、私が博士課程にいた頃には生成AIは今ほど普及していませんでした。しかし現在では至るところで活用されており、私自身も多くの概念を一から学び直す必要がありました。だからこそ、博士号の本当の価値は「マインドセット」と「思考力」にあると感じています。
博士課程では、すぐに解決策に飛びつくのではなく、まず「正しい問い」を立てること、本質的で意味のある問題を見つけること、既存の知識のフロンティアを押し広げることが重視されます。そのためには、最新の学術・産業動向を追い続ける厳密さ、既存の方法を改善、あるいは再発明する創造性が不可欠です。私にとって博士課程で得た最も価値ある成果は、継続的に学び続ける力、新しいアイデアを批判的に評価する力、その上に改善を積み重ねていく力でした。これらの力は、アカデミアであっても産業界であっても、場所や時代に関係なく自分をアップデートし続けるための基盤になります。

Pearlyn
Pearlyn

生成AIの進化の話は、私たち誰しもが身近に感じるまでになりましたね。「マインドセット」と「思考力」は、博士研究に打ち込んでこそ身につくものがあるでしょうし、社会人(企業研究者)になってその成長を感じられるのは今の学生たちからすると大きな励みになるでしょう。
せっかくですので、普段の1日の様子について教えていただけますか。

Johanes
Johanes

1日の最初は、東京やアメリカにいる同僚とのミーティングから始まることが多いです。
昼食は、オフィスの社員食堂でチームメンバーと一緒に取ります。多国籍なメンバーが集まっているので、文化的な話題も含めて活発な会話が生まれます。
仕事の進め方としては、個人で集中して作業する時間と、チームで議論する時間のバランスを大切にしています。進行中のタスクに集中するだけでなく、研究論文の共有や戦略的な議論を行うことで、知的に刺激の多い環境が生まれています。

Pearlyn
Pearlyn

とても充実した職場環境ですね。私もシンガポールから日本に移住しましたが、日本人だけではなく多国籍のメンバーと一緒に仕事をする環境はとてもワクワクします。
そもそもこの仕事をどのように見つけ、なぜ現在の会社を選ばれたのですか。

Johanes
Johanes

このポジションはLinkedInで見つけました。
応募前には、社内で働いている研究室の先輩、指導教員、そしてNAISTキャリア支援室の新城先生に相談しました。皆さんから前向きな意見と、選考対策に関する具体的なアドバイスをいただきました。楽天を選んだ理由は、eコマース、フィンテック、モバイルなど多様な分野を横断しながら研究できる、グローバルなイノベーション企業だからです。また、「イノベーションを通じて人と社会をエンパワーメントする」という明確なミッションがあり、自分の研究が社会に直接貢献できる点にも魅力を感じました。さらに、楽天の「英語公用語化(Englishnization)」のおかげで、日本語が話せなくても、入社初日から実質的な貢献ができたことも大きなポイントでした。

Pearlyn
Pearlyn

ありがとうございます。
NAISTでの学びが、現在のキャリアにどのような影響を与えたかについても教えてください。

Johanes
Johanes

NAISTでの経験は、私の研究者としての基盤を形作る上で非常に重要でした。
多国籍な学生コミュニティの中で学んだことで、研究スキルだけでなく、異文化環境で協働する力も養われました。AHC研究室での研究は、音声・言語処理という最先端分野の専門性を身につけるだけでなく、常に進化し続ける分野において、自らの限界を押し広げ続ける姿勢の大切さを教えてくれました。この経験が、現在の研究開発の現場でも大いに活きています。

Pearlyn
Pearlyn

NAISTでの成長が、ここシンガポールでのキャリアにもつながっているのですね。
ちなみに、シンガポールで働くための就労ビザ(Employment Pass)の申請はいかがでしたか。

Johanes
Johanes

会社がEmployment Passの申請を全面的にサポートしてくれました。手続きはすべてオンラインで完結し、申請から約2週間で許可が下りたのはとても印象的でした。

Pearlyn
Pearlyn

2週間は本当に早いですね。日本では3か月ほどかかることもありますから。
最後に、仕事以外の面についても伺いたいです。シンガポールでの生活はいかがですか。

Johanes
Johanes

シンガポールでの生活はとても快適です。気候は基本的に一年中夏のようで、エアコンの効いた建物に入ると「ミニ冬」を感じるくらいです。特に印象的なのは、多様な文化が共存している点です。日本と同様、人々はとても親切で、食文化も非常に豊かです。世界中の料理を楽しめるのは大きな魅力ですね。
働き方の面では、週2日の在宅勤務が可能で、柔軟なワークスタイルを実現できています。また、街中に公園が多く、週末には地元の人にならって散歩を楽しんでいます。中でも、海沿いに広がるイースト・コースト・パークがお気に入りです。公共交通機関も充実しており、英語が広く通じるため、海外生活への移行も想像以上にスムーズでした。
NAISTで培った知識やスキルは、日本だけでなく、グローバルな舞台でも十分に通用すると感じています。

Pearlyn
Pearlyn

仕事も生活も充実されている様子が伝わってきました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

Johanes
Johanes

こちらこそありがとうございました。学生や企業の皆さんの参考になれば嬉しいです。

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