情報技術で祖国を水害から救う- フィリピンからの留学生グループが災害情報共有システムの開発を目指す -

2011/03/29

【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(学長:磯貝彰)情報科学研究科に在籍するフィリピンからの留学生グループが、携帯電話やインターネットを駆 使して災害情報を共有するためのシステムを開発しています。彼らの祖国フィリピンでは、頻発する水害に多くの人々が苦しんでいます。貧弱な社会基盤の中、 被害を最小限に抑えるためには、人と人とのつながり、フィリピンの現地語で言う "Bayanihan"(バヤニハン、絆、結いという意味) の精神を活用するしかないと一念発起しました。「単に情報を共有するだけでなく、人の持つ善意を行動に結びつけることができるシステムを作りたい」という 想いのもと、日々研究に励んでいる学生たちです。

【背景】
本学情報科学研究科には、学術交流協定を結んだAteneo de Manila University(アテネオ・デ・マニラ大学、フィリピン)からの留学生が10名在学しています。取り組んでいる研究テーマは一人ひとり違っています が、昨年夏ごろより、これらの学生が自主的な活動として、災害情報を共有するシステムの開発を開始しました。リーダーは、2009年9月のフィリピン大洪 水を現地で経験した Mejia Ramon(メヒア・ラモン)君(博士後期課程2年生)。被災現場には善意も余力も持ち合わせた人がいるのに、情報がなくて、その能力を十分に発揮できな い。そのときの歯がゆい思いが今回のプロジェクト「Bayanihan(バヤニハン)」につながりました。情報科学研究科の提案型研究テーマコンテスト (CICP, Creative and International Competitiveness Project)を勝ち抜いて研究予算を獲得し、災害時でも生き残る可能性の高い携帯電話やインターネットを駆使したシステム作りに取り組んでいます。

【技術的な特徴】
開 発システムの根幹は、災害に遭った人たちが、携帯電話やパソコンから被災情報を投稿するシステムです。本システムの特徴は、専門的な観測装置から得られる 少数のデータに頼るのではなく、善意の人々が発信する大量の情報を収集し、そこから意味のある情報を読み解く"crowdsourcing"(群衆への業 務委託)と呼ばれるアプローチをとっている点です。アフリカでの選挙不正監視用に開発されたUshahidi(ウシャヒディ、スワヒリ語で「目撃者」の 意)と呼ばれるシステムをベースに、実際に水害を経験した視点から、様々な工夫を凝らしています。たとえば、GPSや汎用のインターネット機能を備えた高 機能携帯電話だけではなく、ショートメッセージサービス(SMS)しか使えないような低機能の携帯端末(発展途上国では、そちらのほうが主流)も想定し、 「情報提供」「救援要請」等、ニーズにあわせた情報の投稿が素早く行えるよう設計されています。
また、洪水の水深情報を投稿するにも、混乱状態に ある人でも正確に情報を送ることができるよう、「膝の高さ」「肩の高さ」といった目安の表記を取り入れ、インターフェイス面の設計にも注意が払われていま す。集約された情報は、管理者による最低限のフィルタリングをかけたうえで公開され(この部分の自動化は将来の検討課題です)、誰でも参照することができ るようになります。ネットにつながる端末さえあれば、被災現場で周辺状況を把握したり、自分のまわりで困っている人、助けを求める人に関する情報を得たり することが可能です。これにより、救助隊の入れない最悪の状況でも、人々が互いに支えあい、助け合うことができる仕組みの実現を目指しています。
まだプロトタイプの実装が完了した段階で、大規模利用のためには、多くの技術的ハードルを越えないといけませんが、人の善意を行動に結びつける本開発システムは、国や地域を越えて多くの人々を救うものになると期待されます。

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