認知症傾向をアバターとの質問応答から発見 ~被験者の声、言葉、表情など反応の特徴を組み合わせて高精度で検出~ 早期に医療対応する道拓く可能性

2018/09/10

認知症傾向をアバターとの質問応答から発見
~被験者の声、言葉、表情など反応の特徴を組み合わせて高精度で検出~
早期に医療対応する道拓く可能性

【概要】

 奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:横矢直和)先端科学技術研究科 情報科学領域 知能コミュニケーション研究室の中村 哲教授、田中 宏季助教らの研究グループは、大阪大学(総長:西尾章治郎)大学院医学系研究科(キャンパスライフ健康支援センター/精神医学)の工藤 喬教授、足立 浩祥准教授らと共同で、コンピュータ画面に登場する人型のアバターと高齢者との質問応答から認知症傾向を高精度で早期発見する技術を開発しました。

 中村教授らが開発したシステムは、早期の認知症傾向を検出するための新たなアルゴリズムを提案したもので、アバターによる質問機能を備えているのが特徴です。これまでの研究では神経心理検査の質問に基づいたものがほとんどでしたが、日常的に同じ質問を繰り返し利用すると検出精度が劣化するため、ランダムに問いかける非定型の質問を設計しました。具体的にはアバターが高齢者に質問をし、その質問への応答から認知症傾向の検出を行います。質問は、アバターにより研究協力者24 名(12 名の認知症患者と12 名の非認知症者) に投げかけられました。収録した高齢者の質問応答の様子から、「声、言葉、顔」の特徴を入力した機械学習モデルを構築し、9割程度で認知症と非認知症が区別できることを明らかにしました。

 この技術を発展させることにより、高齢者が自宅などにいながら、日常的にアバターとの会話をしていくことで、早期に認知症傾向を知ることができ、早めの医療機関への受診に繋げていくことが可能となります。本研究成果は、2018年9月7-9日に神戸で開催される精神医学分野の国際会議WFSBP Asia Pacific Regional Congress at Biological Psychiatryで9月8日に発表されました。

【解説】

アバターシステム

 本システムはWindows PCで動作します。中村教授らは、高齢者が理解しやすい様に、アバターの発話速度を下げ、発話の内容に字幕を付与しました。さらに、認知症傾向を検出するために、図に示すような(a)「自己紹介」(d)固定質問、(e)ランダム質問など6つの認知課題を用意しました。各課題はそれぞれ2〜3分程度で完了することができます。中村教授らは、固定質問、ランダム質問のデータ解析により、高精度の認知症傾向の検出が可能であることを明らかにしました。

図1.開発したアバターシステム

固定および非定型質問

 本研究では、神経心理検査に基づいた固定質問、および特定の検査に基づかない非定型な質問を設定しました。固定質問としては「今日は何月何日ですか?」などがあり、非定型質問としては表1に掲載したものを利用しました。非定型質問は、13 問の質問からランダムに5問を選び、高齢者に投げかけます。システムは、質問応答中の高齢者の声と顔をPC内蔵のマイクとカメラで記録します。

表1.非定型質問の例

質問応答からの認知症の認知症傾向検出

 12 名の認知症患者、12 名の非認知症者の対話収録を行いました。認知症患者は既存の基準「DSM-IV-TR」に従って、精神科医師により認知症であると診断を受けています。試験では収録したデータに対し、「声、言葉、顔」の特徴量をそれぞれ抽出しました。これらの特徴量から、機械学習により、認知症患者と非認知症者を分類するためのモデルを作成しました。

 結果として、92%の確率で認知症と非認知症を正しく判別することのできる性能を得ました。つまり、アバターの質問の種類による応答遅れ、イントネーションの幅、発声の明瞭さ、発話文の中での動詞の使用頻度の違い、など被験者の反応の特徴をすべて組み合わせるという解析方法により、高い精度で認知症傾向を識別できることが明らかとなりました。このさい、応答遅れのデータのみの解析だと63%しか判別できないことからも、この方法の有効性が示されました。

結果の応用可能性

 この技術を発展させることにより、高齢者が家にいながら、日常的にアバターとの会話をしていくことで、早期に認知症傾向を知ることができます。こうしたことから、医療機関への早期受診、早期診断に繋げていくことが可能となります。

【発表文献】

 国際雑誌IEEE Journal of Translational Engineering in Health and Medicine, vol.5(1)に本研究成果の一部が掲載されています。

 タイトル:Detecting Dementia through Interactive Computer Avatars

 著 者 名:Hiroki Tanaka, Hiroyoshi Adachi, Norimichi Ukita, Manabu Ikeda, Hiroaki Kazui, Takashi Kudo, and Satoshi Nakamura

 発表年月:2017年12月

【用語解説】

  • 認知症の現状:
     これまで認知症の診断は、ミニメンタルステート検査(MMSE)などの認知機能検査、画像検査、あるいは脳脊髄液検査など病院で行う大掛かりなあるいは侵襲的な検査により行われていますが、手軽にできる認知症検査が求められてきました。高齢化に伴う認知症の急増に備え、気軽にできる認知症検査は社会に大きな意義を持つと思われます。
  • アバター:
     アバターとは、コンピュータ上で動作する仮想のエージェントを意味しています。アバターにより、どこにいても、例えば高齢者が家にいながら、日常的に人間と話すようにアバターとの会話をすることが可能となります。
  • 機械学習:
     人工知能における研究課題の一つで、機械が自ら学習し、物事の規則やパターンを獲得していく技術です。これまでの認知症研究では、一つの現象(例えば応答時間)から傾向を検出することを目指しているものが中心でしたが、機械学習により、多くの現象を考慮したモデルを構築することが可能となりました。

【本プレスリリースに関するお問い合わせ先】

奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 知能コミュニケーション研究室
教授 中村 哲
TEL:0743-72-5260 FAX:0743-72-5269 携帯電話:080-4464-0071
E-mail:s-nakamura@is.naist.jp

助教 田中 宏季
携帯電話:090-7649-3408
E-mail:hiroki-tan@is.naist.jp

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