物質創成科学領域
情報機能素子科学研究室
助教
髙橋 崇典 Takahasi Takanori
酸化物半導体を集積し、情報社会を支える
高性能の半導体の合成に成功
高度情報社会をコンピュータのハードウェア技術として支えている半導体デバイスは、AIやIoTなどの普及により急拡大する情報処理ニーズに対応可能な研究開発が求められています。クリアすべき課題は、三次元の高密度な集積回路による高性能化であり、動作に伴う膨大なエネルギー消費の低減です。
そこで、世界的に注目されているのが、金属酸化物で構成される酸化物半導体です。代表例はスマートフォンの液晶ディスプレイ表示などに使われる「IGZO」という半導体です。インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)の四つの元素が結合し、その中を電子が移動しやすく、エネルギー消費が少ないことが特徴です。また低温で薄膜を成長できることから、集積回路への応用も進んでいます。これら酸化物半導体の優れた特性が、次世代半導体デバイスの有力な候補として評価されています。
酸化物半導体による三次元集積回路の研究に取り組んでいる髙橋助教は「IGZOなどに代表される酸化物半導体は、ディスプレイの分野で、量産化されるほどの成功を収めました。最近では、メモリー(記憶装置)など集積回路の材料という酸化物半導体の概念を変えるほど大きく発展する可能性がでてきました。そこに興味があり、有用な酸化物半導体を原子レベルでデザインしようと考えています」と話します。
こうしたことから、大学や企業との共同研究をスタート。これまでの実験研究で得た知見などを総動員して研究を重ねました。研究の過程では、「薄膜成長の工程は複雑で、量産化された場合、元素の種類が多ければ、ばらつきが出る」と最終工程まで予測して検討。その結果、「インジウム」の酸化物の層に「ガリウム」の酸化物を添加する形で交互に重ねるというシンプルな構造を設計しました。化学反応により、原子層ごとに薄膜を合成する「原子層堆積(ALD)法」を使って積層し、集積化できる酸化物半導体を得ることに成功しました。
集積回路への道が拓けた
合成に成功した半導体の形状は、厚さ5ナノ(10憶分の1)メートルという極薄のシート(ナノシート)です。特性を確かめるため、電圧により電流を制御する「電界効果トランジスタ」のチャネル(電流が流れる部位)に組み込んで調べたところ、従来の5~10倍の最高レベルの電子移動度を示し、高品質、高性能の半導体であることが実証されました。 さらに、共同研究者がこの関連技術で高集積化が可能な「ゲートオールアラウンド型酸化物半導体トランジスタ」を試作することもできました。酸化物半導体の高集積化に向けて大きな一歩を踏み出したことになります。
髙橋助教は「今後の課題は、消費電力を大きく下げていくこと、また、三次元方向に集積度を上げることです。その点、長年使っても劣化しないという信頼性の問題があり、基礎研究段階で問題点を解明しておかないと、応用フェーズではさらに困難になります」と抱負を語ります。
「半導体の材料研究については、かつては使えるものができればいいという考え方でしたが、今はすぐに使えるものをと切迫した状況にあります。だから、基礎研究を着実に遂行したあと、実用化にまで持っていける要素技術を確立したい。そのためには、共同研究者をはじめ、多くの研究者が参加して、酸化物半導体の集積デバイスの実現に取り組めるプロジェクトなどを盛り上げていきたいと思います」。
気づきがあった
髙橋助教は、奈良先端大博士後期課程を修了したあと、2023年に助教となりました。鶴岡高専から、奈良先端大に入学し、博士前期課程までは、IGZOなど酸化物半導体の信頼性を高めるテーマで研究を続けていました。ところが、博士後期課程に進学したころに、酸化物半導体の集積回路への応用研究の機運が高まり、積極的に学会やセミナーに参加するなど研究の現状の把握に努めました。「正直言って、研究テーマをどのように発展させるか行き詰っていただけに、酸化物半導体の転換期に出会い、一気に視界が開けました。共同研究者らの誘いもあって、新たな研究を始めましたが、これまでの研究も、視点を変えれば、十分に生かせることや、研究者のネットワークの大切さに気づけたこともよかったと思います」と振り返ります。
研究に対するモットーは「最後は気合で突破する」。人生については「成り行きにまかせる」。実家が写真館を経営していたことから、カメラと写真撮影が趣味。飛行機が好きで飛行場に出かけてはシャッターを切ります。学生時代は卓球を10年間続けました。

