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研究者紹介 vol.29 情報科学領域 ソーシャル・コンピューティング研究室(荒牧研)若宮 翔子 先生

2013年兵庫県立大学大学院環境人間学研究科博士課程修了。博士(環境人間学)。日本学術振興会 特別研究員、2014年京都産業大学 研究員、2015年本学 研究推進機構博士研究員、特任助教を経て、2020年4月より現職。専門はソーシャル・コンピューティング、自然言語処理応用。

研究者への道のり

中学生や高校生の頃に研究者になろうと考えたことは一切なかったです。ずっと公立校で、水泳部に所属していました。高校で進路を考える時期になっても、将来何をしたいのかは定まっていませんでした。文系のコースにいたのですが、どの大学に進もうかと考えたとき、なんとなく情報はおもしろそうだと思って、文理融合の学部があり自宅からも通える兵庫県立大学に進学しました。そして、学部3年の時「情報メディア研究室」に配属になりました。ソーシャルメディアやウェブについて研究する研究室でした。卒業論文では、ニコニコ動画のコメント分析に取り組みました。

大学院への進学は考えていなかったのですが、指導教員に「修士に行ってみない?」と言っていただいたり、学会に参加した際の周囲の反応から研究へのモチベーションが湧いてきたこともあって、進学することにしました。ちょうどTwitterが普及し始めた時期で、進学後は、Twitterのデータを用いて人々の振る舞いを分析する研究などを行いました。そのまま博士後期課程まで同じ研究室に所属しました。
私は博士号を「環境人間学」で取得しました。私たちの定義では、環境とは、情報環境や社会環境を指しています。かつて情報発信といえばマスメディアなど特定の媒体が担うものでしたが、今や一般の人がソーシャルメディアなどを通して情報環境に入ってくるようになり、みんなが発信しています。この時代の情報環境と人間のインタラクション、それによって生み出されたものをどうやって社会に返していくのかに興味を持っています。
ソーシャルメディアで発信されたつぶやきは一つ一つをみるとそれほど意味はありません。でも集めてクレンジング(分析)すると、意味のある情報や知識を抽出できる。それが社会に役立つこともある、というのが面白いと思っています。

対象とするつぶやきは特定のテーマがあるわけではないので、私の研究はケーススタディです。特に、健康や医療への応用研究を積極的に進めています。たとえば、インフルエンザ、花粉症やコロナなども対象になります。位置情報をつけて発信するソーシャルメディアの場合は、分析に位置情報を加えられるので、実際の位置と結びつきます。すなわち、どの地域でインフルエンザが流行っているかがわかる。あるいは、その地域にどういう感情を持っている人が多いのかも解析できる。こういった研究は、得た知見を現実の社会問題の解決に応用しようとする社会応用に近いといえますね。最近はフェイクニュースや誹謗中傷などソーシャルメディアのネガティブな側面が取り沙汰されていますが、これらに関する研究も学生中心に行っています。

考えてみると、指導教員が導いてくれたままに、流れに任せて、研究者になったように思います。周囲が企業に就職していくなか、自分も同じようにするより、変わった道をいくのも面白いんじゃないかと思ったというのもあります。修士課程からの同期に中国からの留学生がいたのですが、彼女は研究するために来日し、修士課程を終えたら博士後期課程に進むつもりでした。日本人はたいがいは就職をしていったなか、そういうキャリアもあるんだ、と気付かされました。
これまで、指導教員だけでなく、学会で知り合った国内外の研究者も、私の研究者としての道のりをエンカレッジしてくれました。世界で活躍されている研究者とのつながりや、学生の時から続く人間関係など、応援してくれる環境が研究のモチベーションになっています。

研究と生活のバランス

朝は11時くらいに大学に来て、20時21時くらいに帰宅することが多いです。コアタイムはなく、週2回午後に研究室の定例ミーティングがあります。
荒牧研では、学生の指導を教員全員で行います。学生はそれぞれの研究テーマや言語によって三つのグループ(インターナショナル、データ、医療系)の一つ以上に参加します。教員はその三つのすべてのミーティングに参加します。私がメインに担当しているのはデータのグループです。他の研究室であれば、学生と専門が同じ教員が指導をする体制であることが多いと思いますが、この研究室は学生のテーマも教員の専門も多岐にわたることもあって「あなたのことは誰々がみる」ということを明確に決めないことも多いです。学生は質問をしたいとき、どの教員にも聞くことができます。

学生とは対面だけでなく、slackのチャットでいつでもやりとりできるようにしていて、常に対応しています。必要に応じて個別ミーティングもします。研究室では多くの共同研究を行なっているので、学生にもリサーチアシスタントとして積極的に参画してもらっており、外部とのミーティングも不定期に行なっています。ラボ全体で学生を指導していて、私が不在の場合でも他の教員がみれる体制にもできているので、比較的良いバランスで研究ができていると思います。
夜自宅に帰ってからも仕事をすることはあります。締め切り前は夜遅くまでするし、休日もすることがあります。土日は家で過ごすことが多いです。猫がいるので、家で猫とゆっくりしています。パソコンがあれば仕事ができてしまうので、休日もついついメール確認をしてしまいますが、最近はデジタルデトックスも心がけています。

本学の研究環境と課題

自由に研究ができていて、環境はすごくいいと思います。本学は大学院大学ということで、バックグラウンドが多様な学生も多く、私自身学生から学ぶことも非常に多いです。
学内に女性教員が増えるのはいいことだと思いますし、増えてほしいです。なぜ増えたらいいと思うのかというと、たとえば学内で女性教員が参加しないといけない会議があったとき、女性の絶対数が少ないと一部の人に仕事が偏ってしまうからです。女性の教員を増やすには女性の学生が増えないといけない。女子学生がどうしたら増えるかは難しい問題ですが、進路を考える上で、私の経歴なども少しでも参考になればいいなと思っています。

研究を進める上で、私は性別による影響をあまり感じたことはありません。この研究室自体も、非情報系の方が大半ではあるものの、女性スタッフの方が多いです。また、医療系や心理学系の共同研究先には女性研究者が多いので、研究を進める上では少なくは感じません。アメリカの大学との共同研究でも、日本側の研究代表者は男性ですが、アメリカ側は女性だったりします。幸運にも女性が活躍しているチームに顔を出させていただく機会が多いので、そういう意味では女性が少ないとは感じない環境で研究をしています。

(令和4年8月)

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