平成22年度 秋学期入学式を挙行(2010/10/04)

イベント報告 2010/10/07

10月4日(月)、先端科学技術研究推進センター1階研修ホールにおいて平成22年度 秋学期入学式を挙行しました。

本学では、国内外を問わず、また出身大学での専攻にとらわれず、高い基礎学力をもった学生あるいは社会で活躍中の研究者・技術者などで、将来に対する明確な目標と志、各々の研究分野に対する強い興味と意欲をもった者の入学を積極的に進めており、このたび、27名の新入生を本学に迎えました。

海外からの留学生も多数含まれていたため、当日は学長の式辞が行われている間、英語訳の式辞がスクリーンに映し出されました。

【入学者数】
(博士前期課程)
  情報科学研究科 5名(うち外国人留学生 3名)
  バイオサイエンス研究科 1名(うち外国人留学生 1名)
  計 6名
(博士後期課程)
  情報科学研究科 6名(うち外国人留学生 1名)
  バイオサイエンス研究科 10名(うち外国人留学生 8名)
  物質創成科学研究科 5名(うち外国人留学生 2名)
  計 21名

総計 27名(うち外国人留学生 15名)


【磯貝学長式辞】

 本日、奈良先端科学技術大学院大学に入学されました博士前期課程入学者6名、博士後期課程入学者21名、合計27名の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。本学の教職員や学生を代表して、心からお喜び申し上げます。また、本日の新入学生の中には、15名の海外からの留学生諸君が含まれています。母国を離れて、この日本で学生生活を送ることを決意された皆さんにも、深く敬意を表したいと思います。

 まず最初に、皆さんがこれから生活しようと考えているこの大学の歴史を紹介したいと思います。

 本学は、これからの時代を担う、新しい科学や科学技術の研究教育は、新しいシステムのなかで行うべきであるという方針の元に、1991年、98番目の国立大学として設立されました。その際、もっとも重要な特徴として考えられたのが、学部を持たない、大学院生だけからなる大学院大学という制度です。それは当時の硬直化した日本の大学院制度に風穴をあけるために工夫された新しいシステムなのです。その期待がどのくらい大きかったかは、現在の本学における3研究科、すなわち、情報科学研究科、バイオサイエンス研究科、物質創成科学研究科の教育研究内容は、日本政府がこれからの科学技術政策の中心として設定した、IT、バイオ、ナノテク、環境という4つの分野の内の3つを基盤とするものであることからもうかがえます。その中で、本学は、それぞれの分野での最先端の研究を行いつつ、その研究力を背景にした、新たな教育体系を作り上げ、それによって、第一級の研究者や高度専門的な職業人を育成し、社会に貢献していくことを理念として掲げました。

 その後、19年間の多くの教員や、職員、また、本学に入学してきた学生諸君の努力によって、本学は、日本の国立大学のなかでもっとも優れた大学院の一つとして、社会に認知されてきました。その具体的な現れが、本年の3月に公表された文部科学省の法人評価委員会による大学評価です。そのなかで本学は、色々な指標での総合評価で、86国立大学法人のうちの第1位という評価を受けました。もちろん、これには、本学が先端科学技術分野に特化された小型の大学院大学であるということが、有利に働いたということはあります。しかし、客観的に見て、本学の研究力及び教育力はきわめて高いものであると、私達は自負しています。このような教育研究活動によって、本学はこれまでに、先月末の修了生を加えて、博士前期課程の修了生4,885名、後期課程934名の修了生を世の中に送り出してきました。皆さんの先輩達は、日本のみならず世界の各地で、科学者として、また、科学技術者として、活躍されています。彼らが、今、本学の歴史と、伝統を作っているといってもいいのだと思います。

 私は本年2月に、本学が教育や研究での連携をしているアメリカのカリフォルニア大学デービス校を訪問しました。それは昨年新たに、デービス校の総長に就任された、Katehi総長にお会いして、今後の本学とのいっそうの交流の推進をお願いしてくることが主目的でした。Katehi 総長は、デービス校の第6代目の総長で、女性として初めてこの職に就いた人です。ギリシャの出身で、子供の頃、テレビが1つしかないという貧しい村に育ち、そこで、アポロの月面着陸を見て、科学者になろうと決心し、アメリカに行ったということです。アメリカでは電子工学で学位を取り、幾つかの大学の教授を歴任し、今回デービス校の総長に就任されました。Katehiさんが子供の頃に見たのは、アポロ11号、その月面着陸は1969年7月20日の事です。私もこのときのことを鮮明に覚えています。

 日本でも、暗いニュースの多いなか、小惑星探索機はやぶさが、数々の困難を乗り越え、火星と木星の間にある小惑星イトカワへの往復の旅を終えて、打ち上げから7年後の2010年6月13日、奇跡的な帰還をしました。地球の大気圏で、そのカプセルを切り離し、自身が燃え尽きていくはやぶさの映像は、快挙として、テレビや新聞で報道されました。これはある意味では日本の科学力とそれに関わった人間群の意志と組織力の勝利といえるでしょう。これを見ていた子供たちのなかには、きっと、アポロの月面着陸を見たKatehiさんのように、将来科学者になろうと考えた子供たちが大勢いるのではないかと思います。私はこれからの世界が子供たちに、科学への夢を与え、その夢を持ち続けられるような社会であって欲しいと思っています。

 私がこうした話を皆さんにするのは、皆さんも、きっと、何かに触発されて、科学者になろうと考えたのだろうと思っているからです。その動機は人それぞれ違っているでしょう。しかし、多くは、自らの知的好奇心を満たすなかで、家族や、街や、国や、世界を豊かにしたいと考えたからでしょう。そのことが皆さんの原点であることを常に思い出して欲しいと思います。そしてその夢の実現のために、皆さんは本学に入学してきたのだと思います。

 但し、科学者になるのは、そう簡単ではありません。私たちは優れた教員と優れた教育システムで皆さんをお待ちしていました。その中で、もし、皆さんが、単に教育を受ければいいと思っているとしたら、それは間違っています。科学者になるためには、皆さん自身が自立的に学修していくなかで、皆さん自身を育てていく必要があります。皆さんの身になる知識は、皆さん自身が考えるなかで、初めて身につくものです。いま、情報化社会と呼ばれるなか、ネットで調べれば簡単な情報はすぐに手に入ります。しかし、そうしたものは、知識とは言わない、単なる皆さんの外にある情報なのです。どうか、自らの経験と思考のなかから、自らの本当の知識を広げていってください。学ぶべき専門的な知識は、先端科学の分野では、最近極めて多くなってきています。そのための努力は忘れないでください。もし、皆さんが、研究の過程の中で、行き詰まるようなことがあったら、皆さんが科学者になろうと思った初心を思い出してください。きっとまた元気が出るでしょう。身体と心の健康は、良き科学者になるためには、何より大切なものです。

 私が毎年、入学式で新入生に言っていることに、科学者として科学の作法を学んで欲しいということがあります。作法という言葉には、単に、書かれた知識だけでなく、考え方や理念、身体で覚えることや、文字に書けない当然の決まり事、また、身の処し方、生き方などの科学者としての倫理なども含まれます。科学の作法とは科学の文化、あるいは科学するための哲学といっていいかもしれません。

 また、皆さんが将来科学者として、社会に出て、さまざまな分野で、大学院修了者として人の上に立つ立場で活躍するためには、科学的な知識だけではなく、人間としての幅広い、文化的な素養も必要です。その目的のためにも皆さんの時間を使って欲しいと思います。たとえば、芸術や工芸といったものが、独創性、創造力という意味では、科学や、科学技術に極めて近いものだということがきっと理解されるでしょう。

 私達の大学があるこの地区を関西文化学術研究都市(通称けいはんな学研都市)と呼びますが、その文化という言葉の一部は、奈良という都市に由来するものです。奈良では今、遷都1300年を記念した催し物が各地で行われています。奈良はシルクロードの終着駅として、当時は国際都市でした。色々な文化的なものを奈良の歴史から考え、学び取る事が出来れば、皆さんの人間力を高める事にきっと役立つでしょう。

 皆さんが活躍するこれからの世界は、地球は一つと言う理解の元、世界が協調して、地球規模の問題の解決にあたる必要があります。そのため、本学も、日本の中での著名な大学院にとどまることなく、世界の中で評価される大学院を目指し、その国際化をすすめております。現在、本学では、20カ国、42機関との交流協定を締結し、国際交流を図っています。その意味でも、今回15名の海外からの留学生が入学されたことを大変うれしく思っています。これで現在、33カ国122名の留学生が在学することになります。これは学生総数の10%を越えます。このように、日本人と留学生がともに学ぶなかで、これからの本学の国際化が図れると思っています。

 ここで、海外から来られた留学生の皆さんに、特にお願いしておきたいと思います。本学は皆さんが勉学する環境を整える努力、あるいは生活環境を良くする努力も続けております。そのなかで、皆さん自身が、日常生活を通じて、良き交友関係を広げていくことで、初めて皆さんのこの国や、本学での暮らしやすさが、増すことになるだろうと思います。皆さんの本学での勉学は、国際語である英語で、それを続けることが可能であろうと思います。しかし、皆さんが日本に来られたことの意味を考えて欲しいと思います。この国で、単に専門の科学や科学技術を学ぶだけではなく、日本語を学び、日本について学んで欲しいと思います。それは、皆さんが将来、日本で生活するためにも、あるいは、母国に帰られて活躍する場合にも役立つことであると考えます。

 最後に、皆さんの本学における学生生活が実り豊かなものであることを祈って、また、皆さんが将来、本学での学生生活を終了した後、世界の舞台で大いに活躍されることを期待して、式辞と致します。入学おめでとうございます。

                                  平成22年10月4日
                                  奈良先端科学技術大学院大学 学長 磯貝 彰

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