学位記授与式を挙行(2012/12/21)

イベント報告 2012/12/27

12月21日(金)、先端科学技術研究推進センター研修ホールにおいて学位記授与式を挙行しました。

4名の修了生に対して、磯貝彰学長から出席者一人ひとりに学位記を手渡し、門出を祝して、式辞を述べました。

式終了後には記念撮影も行われ、修了生たちは和やかな雰囲気のもと、学長、理事をはじめ指導教員等を交えて歓談し、喜びを分かち合っていました。

※今回の修了生の内訳は、以下のとおりです。

【博士後期課程修了者】
バイオサイエンス研究科 3名
物質創成科学研究科 1名
計 4名

総計 4名

【磯貝学長式辞】
  本日、平成24年度3回目の学位記授与式にあたり、博士後期課程を修了される皆さんに、本学教職員はじめ、全ての構成員を代表してお祝いを申し上げます。 皆さんにお渡しした学位記は、博士の学位に相応しい知識と能力を持っているという認定の証しです。皆さんのこれまでの努力に学長として敬意を表したいと思 います。

皆さんを含めて本学が開学以来これまでに与えてきた学位の数は、修士5560名、課程博士1060名、論文博士40名でありま す。本日修了される皆さんには、日本や世界で活躍している本学修了生の一員として、これから社会の色々な分野で活躍されていくことが期待されています。

皆 さんご存知のように、本学は昨年創立20周年を迎えたばかりの新しい大学です。その中で、教職員や学生の努力によって本学は発展し、研究や教育で大きな成 果を上げ、本学の社会的な認知度と評価は高まってきました。そして、今後さらに国際的にも認知される大学を目指して、新たな20年の歴史を刻むための努力 をしていこうという段階であります。こうした中、本学栄誉教授の山中伸弥先生が本年のノーベル生理学・医学賞を受賞され、12月10日にスウェーデンのス トックホルムで授賞式が行われました。山中先生のノーベル賞受賞の知らせは、閉塞感のある日本の社会に大きな夢を与えてくれました。特に、これからの日本 を支えていくことになる子供達に対する影響は、大きなものがあると思っています。またさらに、11月には本学元学長の山田康之先生と山中伸弥先生が、揃っ て本年の文化勲章を受章されました。山田先生は山中先生が本学に採用された時の学長であって、お二人には直接の接点もあり、新聞などでは「分野は異なれ ど、師弟での受章であり、こんなことはこれまでに無かったことである」と紹介されました。こうしたノーベル賞の受賞や文化勲章の受章は、まさに、本学のこ れまでの20年の歴史の成果を示すものであり、また、本学の存在意義を明確に示したものであって、お二人にとっても、また本学にとっても極めておめでたい ことであると思っております。そして、今回のお祝い事によって、本学の社会的認知度はますます高まってくることが期待されています。皆さんにも是非、自分 たちは「ノーベル賞受賞者を育てた、あの奈良先端大出身である」と周りの人に喧伝して欲しいと思っています。そして皆さん自身も、こうした優れた大学を修 了したのだということに、誇りを持っていただきたいと思います。

今日は、皆さんへのはなむけの言葉として、山中先生のことを取り上げてみ ようと思います。山中先生には昨年、本学の20周年記念の特別講演をしていただきましたが、その中で先生は、米国留学中に教えられた言葉として、車のフォ ルクスワーゲンのVWをキーワードとして、Vision and Work hard、という話をされました。ビジョンを高く持って、そして一生懸命仕事しろ、ということです。先生は本学に助教授として赴任された時、どんな研究を するかということについてよく考えられ、当時、研究テーマとしては誰も取り組んではいなかった、身体の細胞からES細胞のような万能細胞をつくるという テーマを掲げられました。そして、そのテーマに惹かれて集まった学生諸君とものすごい量の実験をされ、極めて短期間のうちにそれを実現されました。そし て、その細胞にiPS細胞という名をつけたのであります。山中先生が本学に来られたのが1999年、ノーベル賞の対象となった業績が掲載された論文が発表 されたのが2006年、そして、2012年にはノーベル賞というのですから、いかにその研究の進展が早く、また、そのインパクトが大きかったかが分かりま す。今やiPSという言葉は、一つの流行語のように世の中に流布し、社会現象になっています。

私は、山中先生のVW(Vision and Work hard)に、さらにThink deeplyという言葉を付け加えたいと思います。皆さんには科学者として、あるいは、科学技術者として、将来いずれ何をするか、何をすべきか、自分で独 立して考えなければいけない時が来ます。そこでは、誰かからテーマが与えられるわけではありません。自分の責任で何をするかを決めなければいけません。そ うした時、つまりビジョンを自分で作り出す時、よく考えること、また、よく考えることが出来る力が必要なのです。また、さらに言えば、そのためには自分の 基本的な立ち位置、目標を明らかにしておくことが必要です。山中先生の場合は、それは医師でありたい、ということであったのだと思います。それが今、山中 先生の「iPS細胞を使った臨床研究を目指したい」、という発言に表れています。一時基礎研究に身を置いても、最終的には医師として患者を助けたいという のが、山中先生の基本的立ち位置、信念であると私は理解しています。皆さんにも、自分と社会との関係について日頃からよく考え、また、ビジョンを決める時 によく考えられる素養と幅広い基礎知識を持って欲しいと思っています。もちろん、自分は何者であるのかということについての信念も必要であります。

山 中先生は、2009年にラスカー賞を受賞されたとき、Ekiden to iPS Cellsというエッセーの中で、自分の研究は、ガードン博士の先行研究があり、そして、目標に向かって仲間と駅伝のようにたすきをつなぎながらここまで 来たと書いておられます。現代の科学や科学技術の多くは、このようにいろいろな協力関係があって初めて大きな成果に繋がるものであります。その意味で、そ れを実現するためには、その組織をまとめ、引っ張っていく力が必要なのです。それは、単なる個人としての研究力ではなく、まさに人間力なのであろうと思っ ています。山中先生はその人間力に優れた人であります。先生は、講演の機会がある毎にいつも先行研究者や共同研究者への感謝の気持ちを述べておられます。 こうした山中先生の誠実な人柄は大変素晴らしいものであって、科学者としても皆さんが模範にしてよい人であると思います。

もう一つ山中先 生の業績から学び取ることは、山中先生の最初の学生であり、今でも山中先生の片腕として京都大学で活躍している高橋和利さんの話です。高橋さんは、大学時 代工学部で化学を学んできた学生で、生命科学は本学に来てから学び始めた分野であります。しかし、その後の努力で、今、世界で知られた若手研究者の一人に 成長しました。高橋さんは、自分の環境を自ら変えることで自分を刺激し、自分で成長してきたのです。そして、ある意味では山中先生との出会いが、彼の人生 を運命づけたのです。こうした出会いを作り得たのも、本学の教育システムの一つの大きな特徴であると思っています。今、日本の大学のたこつぼ教育の問題点 の一つとして、日本の学生が海外に行かないという話をよく聞きますが、一定の変わらぬ環境の中でぬるま湯的に育っていく中では、山中先生や高橋さんのよう なチャレンジングな、また突出した研究者は生まれてこないのだろうと思います。

皆さんも、自らの大学学部を離れて本学で学んで来ました。 大きなチャレンジであったはずです。そして今、本学を修了するわけですが、これで学びの世界は終わったのではありません。これからもよく学び、よく考え、 そして目標を高く持って自らの環境を変えることを恐れず、一生懸命努力して自分自身を育ててください。そうすれば皆さんの未来は開けてくるはずです。も し、皆さんが高橋さんのように、本学で良い先生に巡り会ったとしたら、そのつながりをこれからも大事にしてください。それが皆さんの人生を決めることにな るかもしれないのです。そして、いつも言うように、修了生の皆さんの活躍が本学の歴史と未来をつくるのだということを忘れないでください。皆さんの今後の ご発展とご活躍を期待してお祝いの言葉といたします。

平成24年12月21日 
奈良先端科学技術大学院大学 学長 磯貝 彰

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