トーマス・ブッシュ(OIST 研究科長・教授)
プカあや(OISTカリキュラム・プログラムセクション マネージャー)
沖縄科学技術大学院大学(OIST)
「モビリティ(人材の流動性)」を高める
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究力と博士人材育成
世界トップレベルの研究力と国際性を誇る沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、英語を公用語とし、学生・教員の約半数以上を外国籍が占める国内では極めてユニークな大学院大学です。分野横断型の研究環境とPI中心の研究資金制度を特徴とし、若手研究者に大きな裁量と挑戦機会を提供しています。また近年、産業界との連携やキャリア支援にも力を入れており、博士人材の多様なキャリア形成を支える機能を強化しています。今回はOISTの教育・キャリア支援を推進するトーマス・ブッシュ教授とプカあやさんにお話を伺いました。
Q1. 今の日本社会における研究者の現状について、どのようにお考えですか?
一方、日本では研究者の「移動」が比較的少ないと感じます。例えば、東京出身の学生が東京大学で学部・修士・博士と進み、そのまま同じ大学に残るケースも珍しくありません。もちろんそれ自体は悪いことではありませんが、必ずしも最適な環境で研究できるとは限りません。研究者がより多くの選択肢を持ち、様々な場所で経験を積むことができれば、より大きな成果を生み出す可能性があります。
つまり、日本にとって重要なのは「モビリティ(人材の流動性)」を高めることだと思います。
Q2. 企業は博士人材をどのように評価すべきでしょうか?
博士号の価値は「特定分野の専門知識」だけではありません。本当に重要なのは、複雑な問題を解決する能力です。博士課程の学生は、3〜5年間をかけて難しい研究課題に取り組みます。その過程で、問題を分析する力、新しい方法を考える力、失敗に耐えて試行錯誤する力を身につけます。つまり博士人材とは、難しい問題を解決するための戦略と忍耐力を持つ人材なのです。これは企業にとっても非常に価値の高い能力と言えるでしょう。
Q3. ヨーロッパの企業は博士人材をどのように評価していますか?
この仕組みは、新しい技術分野の発展や社会実装を促進するうえで非常に効果的でした。
Q4. なぜ日本、そしてOISTを選んだのでしょうか?
しかしOISTは世界的に見ても非常にユニークな大学です。特に魅力的なのはPI(Principal Investigator)中心の研究資金モデルです。多くの研究機関では、研究費は特定のプロジェクトに対して支給されます。しかしOISTでは、研究者個人に対して研究費が与えられます。つまり、「あなたを信頼するので、この資金で自由に研究をしてください」という仕組みです。研究費は5年間与えられ、その間は細かな報告を求められません。そして5年後に成果を評価します。
このような制度はEUの研究助成制度(ERC)などでも採用されており、非常に成功しています。もちろんすべてが成功するわけではありませんが、全体としては大きな成果を生み出すのです。
Q5. 日本で外国人研究者として生活する上での課題はありますか?
Q6. OISTの博士学生のキャリアはどのようになっていますか?
近年の修了生のうち55%が大学教員(アカデミア)となっていて、実は多くが企業やスタートアップに進んでいます。以前は博士学生の約75%がアカデミア志向でしたが、最近ではアカデミアと企業がほぼ半々になってきています。これはOISTが近年、産業連携やキャリア支援を強化していることが影響していると思います。特に外国籍学生の間で日本での就職に対する関心は非常に高い傾向にあります。一方で、実際の就職においては言語や制度、文化的な側面など、乗り越えるべき課題が存在しています。
Q7. 日本企業が、国際的な博士人材を採用するには何が必要でしょうか?
Q8. 日本の企業は今後どのように変わるべきでしょうか?
さらに、優秀な人材の「パイプライン」にもっと早い段階から関わることを期待しています。つまり大学との連携や学生へのメンタリング、インターンシップなどです。大学だけで人材育成と就職支援を担うことはできません。企業もこのプロセスに参加していただく必要があると考えています。
Q9. ありがとうございました。では最後に、今回のOIST/NAISTサロンへの意気込みをお願いします。
Thomas Busch (OIST研究科長・教授)
OISTにて量子システム研究ユニットのリーダーを務める理論物理学者。量子力学、極低温原子物理、量子技術の境界領域において研究を展開している。特に、ボース=アインシュタイン凝縮体やフェルミ気体、低次元量子系を対象に、相互作用や粒子統計、コヒーレンスが生み出す複雑な量子現象の理解と制御に取り組む。これらの研究は、量子シミュレーション、量子センシング、量子情報科学といった次世代技術への応用にもつながっている。
オーストリアのインスブルック大学にて理論物理学の博士号を取得後、欧州の複数の研究機関で研究・PIとして活躍。2011年にOISTに着任し、国際的に評価される研究プログラムを構築。これまでに180報以上の査読付き論文を発表し、極低温原子、量子ダイナミクス、量子熱力学の分野において世界的評価を受けている。博士課程学生やポスドクの指導、国際共同研究の推進にも精力的に取り組んでいる。2023年より研究科長を務める。
プカあや (カリキュラム・プログラムセクション マネージャー)
OIST博士課程学生のキャリア開発を支援するProfessional and
Career
Development(PCD)プログラムの企画・運営を担う。国家資格キャリアコンサルタント。研究室支援職としての8年間の経験を経て、2019年より現職。PCDプログラムでは、研究力の深化に加え、社会で活躍するために不可欠なトランスファラブルスキルの育成や、多様なキャリアパスの構築を推進している。アカデミアにとどまらない進路選択を支援しながら、博士人材の可能性を最大限に引き出すことを目指している。
「研究も人生も、もっと自由で創造的であっていい」という信念のもと、新たな企画や実践に積極的に取り組み、次世代を担う“カッコイイ博士”の育成に力を注いでいる
取材・撮影: 谷口直也(奈良先端科学技術大学院大学)