全学で知恵を出しAIと向き合う、研究の融合と深化で社会課題を解決
情報科学、バイオサイエンス、物質創成科学の3領域融合による知の創出を担う先端科学技術研究科の研究科長に4月、情報科学領域長の笠原正治教授が就きました。同研究科は3領域融合型の「データサイエンス」「デジタルグリーンイノベーション」の教育プログラムを導入してきたほか、研究の深化と社会課題の解決を目的とする「高度情報専門人材育成コース」を新設。外部との医工連携プロジェクトを通じ、新たな専攻を設置する準備も進めています。「社会から要請が強い人材を輩出したい」と意欲を示す笠原研究科長に、優秀な研究者の獲得戦略や外部連携の進展などについて聞きました。
進めてきた3領域融合、博士課程を増員
――3領域の融合と新しい教育プログラムは、どのように進んできましたか。
笠原研究科長 開学以降、3領域の研究科ごとに培ってきた教育と研究の蓄積を2018年に先端科学技術研究科として統合してから、8年が経ちました。3領域を基本とする教育プログラムに、実験データから研究アイデアを見つけ出すデータサイエンスと、持続可能な社会を築くデジタルグリーンイノベーションの各プログラムも加え、拡充してきたのが主な動きです。続く大きな変化が、25年度に設置した高度情報専門人材育成コースのプログラムです。設置に伴い、博士前期課程を40人増の390人、博士後期課程を5人増の112人へ増員しました。このプログラムのキーワードはAIで、社会の要請が強まっている素養であり技術です。これを研究の手段として身に付けた優れた人材を輩出しなくてはいけない。責任は重大ですが、融合による研究成果や教育の進化を目指します。
ケモインフォマティクスなどで先行するAI活用
――AIの社会実装は急速に広がっています。
笠原研究科長 どこまで進歩するか分かりませんが、AIの素養は研究現場で非常に重要な課題です。研究の仕方を単に改善したり向上したりするだけならば、もうそれはAIが代わりにしてくれるようになるでしょう。研究者の感性が求められる発見や発明も、AIの助けを借りながらになる時代が来ると思います。本学では特にバイオサイエンスと物質創成科学の2領域で、AIの活用が非常に進んでいます。例えばケモインフォマティクス(情報化学)では、物質を造る材料の組み合わせがとてもたくさんあり、論文に書かれた内容だけで造れるかといえば、そうではない。その研究過程が重要であり、きちんとデータとして残しておかないとうまく再現しない。そこにAIを採り入れて、研究の自動化を試みています。情報科学の領域ではAIの進化に即して、研究室を構成する分野をAI基盤情報学とAI応用情報学に再編しました。医療画像やカルテの処理をAIで高精度化する研究にも積極的に取り組んでいます。
理工系の大学院大学なのでAIを強みとして積極的に伸ばしたいですが、だからこそ哲学的な視点も必要と考えています。AIは多くの雇用を奪うおそれがあり、先端科学技術の発展に伴って倫理性も問われます。そこで、そうした視点を備える人文系の教員も起用しています。AIとどのように向き合っていくのか、全学で知恵を出し合いたいと思っています。
ファウンドリ拠点の整備を推進、留学生比率を向上へ
――24年度に文部科学省から採択された「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」には、どう取り組みますか。
笠原研究科長 研究開発を自動化し社会実装を目指す「ARWIT」(Automated Research Workflow Industrial Translation)を主要な戦略に打ち出しています。機能性材料と大規模データを自律的に創成する学内のファウンドリ(前処理、合成、物性評価、生物活性評価の各ユニットで構成する自動設備拠点)を整備していきます。ARWITでは、実験データを共有する「電子ラボノート」の本格的な学内運用を今年1月に開始しました。データを学内外で安全に流通させるにはセキュリティが非常に重要で、外部連携機関の技術協力も得て先駆的なセキュリティをゼロから作ろうとしています。これらに必要な専門人材を増やしていきます。
一方、優秀な留学生の獲得を増やすミッションも重要です。先端科学技術研究科は学生が1,223人(25年10月1日時点)いて、そのうち留学生は316人(25年10月1日時点)と約26%です。J-PEAKSの最終年度に当たる29年度、さらにその後へ向け留学生比率を伸ばしていきます。国内は少子化が進行し、学生数の激減が目にみえています。本学の留学生のうち一番多いのは中国からの留学生ですが、中国以外にも、留学生の出身国がとても多様であるのが、本学のセールスポイントになっています。日本に留学を希望するニーズは国ごとの経済発展レベルなどで異なりますが、近年はインドネシアとマレーシアに特に注目しています。留学生の健康を守るため、メンタル面を含めサポートする体制の拡充が必要になると感じています。
優れた学生の獲得では、高等専門学校との連携にも力を入れます。奈良工業高専と本学は「高専・大学院連携教育プログラム」を実施する覚書を24年に締結しました。奈良工業高専の学生が専攻科へ在籍中に、本学の「特別学修生」と「科目等履修生」となって大学院の授業科目を先に履修すれば、本学入学後、博士前期課程を1年で短期修了できるようにする制度です。これがうまくいけば博士号の学位を1年早く取得でき、より若い高度専門人材を輩出することが可能になります。25年度に奈良工業高専生の受け入れを始めました。基本的に全員、博士後期課程の進学希望者です。専攻科の単位取得と本学での履修を両立する上で課題がないか、しっかりとみて、支援していきます。
挑戦する人材を育てる
――少子化や大学間競争の激化で人材獲得は厳しくなりますが、どのような学生や研究者を望んでいますか。
笠原研究科長 人によって個性が異なるので一概にいえませんが、個人的には意欲的で新たな研究に挑戦するハングリー精神を大切にしたいです。おかげで本学では、国内から来る学生は自身の大学の大学院に進学せずこちらを選んでくれます。留学生は母国を飛び出して学びに来るので、意欲が強い。生命力といいますかね。リスクを取ってチャレンジする学生には、教える側もやり甲斐を感じます。そうした学生たちをさまざまな面から、もっと積極的に支援していきたいと思います。

