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研究者紹介 vol.1 バイオサイエンス研究科 植物代謝制御研究室(出村ラボ)大谷 美沙都 助教

2005年 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻修了。博士(理学)。専門は植物分子遺伝学。研究テーマは「植物細胞の柔軟な増殖・分化制御の分子機構の解明」。二児(女・男)の母。

なぜ研究者に?

もともと学校の先生になりたいと思っていたのですが、修士1年の秋にシロイヌナズナ変異体の遺伝子を同定し、自分で何かを発見する喜びに魅了されました。そのままこの道を極めようと研究の道を進み、現在に至ります。学位を取得したあとはそのまま同じ研究室で半年間ポスドクをした後、理化学研究所で8年間研究員をしていました。この間に子どもを二人出産し、2014年4月に本学に移ってきました。

大学で研究をするということ

理化学研究所で研究をしていたときもこの大学に来てからも、研究の現場を担っているテクニカルスタッフ、技術職員などのメンバーは女性が多いです。シングルであったり、子どもがいたり、介護をしていたり…どの現場でも、研究の最前線を支えているのは、多様な環境をもちながら自分のスキルを活かしたいという人たちが多いように思います。
大学は、やはり学生の教育が主体ということで、研究を進めるにしても研究所とは感覚が異なります。自分のささいな発言が学生の研究生活を決定づけてしまうかもしれないし… 責任も感じます。研究自体のおもしろさとしては、新しい発見をして新しい技術につながるかもしれないだとか、教科書を書き変えるかもなどといったわくわく感もありますが、同時に、一般の人の価値観からしたら理解されづらいという難しさもあったりします。この意味では、教育には肌感覚としての達成感というか、人と人の関わり合いといった生の感覚がある。学生さんたちに刺激されて、次の研究の方向性が変わることもある。そこが大学で研究をするということのひとつの面白さだと思います。

研究と子育て

朝は上の子を小学校に送り出し、下の子を保育園に預けてから大学に来ています。夕方は二人のお迎えがあるので18時過ぎには大学を出ます。帰ってからは、食事の支度、子どもの宿題チェック、子どもたちとお風呂、寝かしつけ、などで、ばたばたと時間が過ぎてしまいます。とはいえ、論文の〆切など、どうしてもやらなければならないことがあるときは、子どもが寝たあと、夜に仕事をすることも多いです。また、上の子が小学校に入るまでは子どもたちを連れて出張に行くことも多かったのですが、小学校に入るとなかなか難しいですね。最近は出張時には親のヘルプを頼むことが増えました。
先日、「研究において女性ならでは、母親ならではの視点が活かせている点はどこですか」と聞かれることがありました。実際には、女であり母親であることも含めて私という個人であるという認識なので、そもそも切り分けて意識しておらず、この手の質問は困ってしまいますね。科学というのは、もちろん研究の視点や切り口といったような個性が活かせるところもたくさんあるけれど、基本は実験や理論ベースで「誰がやっても同じ結果になる事実に基づく」ことが足場にある世界ですから。逆に、これまで、科学者であることを母親業に活かせたことの方が、たくさんあったように思います。最近では、「どうなるか実験してみようか?」と子どもたちと楽しむこともあったりします。

「女性研究者」のロールモデル?

男性の生き方については一昔前ならば「頑張って勝ち組になれ」のようなシンプルなモデルで事足りてきたように思いますが、この裏には女性が生活環境の多様性の受け皿になってきたという事実があります。同じ女性でも、結婚しているか・していないか、パートナーと同居できているか・できていないか(研究者同士のカップルは別居婚が多いので)、子どもがいるか・いないか、親御さんがまだ元気かなど、環境はさまざまで、これらの条件は、残念ながら今の日本ではとくに女性の働き方を直接的に制約してきます。そんな現実のなかで「これだけがんばれないとだめなんだよ」というメッセージにもつながりかねない、ロールモデルの提示という考え方自体が、私には空虚な感じがしています。仕事も家事も育児も、すべてをこなせるスーパーウーマンでないと成功できない社会では、きっと誰も幸せにはなれません。100人いたら100通りのやり方があって良いと思います。

ただ、いわゆる「社会常識」も世代とともに変わっていきます。理化学研究所で働いていた頃、ベテランのパートタイマーの方に「私の頃は結婚したら家庭に入るのが当たり前で、研究を続けたくても続けられなかった。良い時代になったわねえ」と言われて胸を打たれた覚えがあります。
現実問題として、価値観の変化スピードはどんどん上がっている。これから就職や結婚を経験する世代には、これまでのような「がんばれないとだめ」なロールモデルの提示では伝わらないと思います。どういう社会が望ましくて、そのためにはどういう価観観を育むべきなのか。結局のところ、教育の力に戻っていく問題ですね。

3割を超えないと声は届かない

ラボ旅行や研究発表会の際には、温泉旅館を団体利用することがよくあります。そういうとき、私は可能な限り「部屋風呂も付いているかどうか」を確認するようにしています。というのは、何度か自分がちょうど生理中で大浴場を利用できないタイミングにあたったことがあるからです。これって多分、男性幹事のみなさんはあまり考えたことないですよね(笑)。普通に「生理で入れない人がいるかも」と思いつけるようになるためには、それを共有できるだけの人数や経験が必要です。一般的に集団のなかでその属性を持つものが3割を超えないと声は届かないと言いますが、ほんとうにそうだと思います。もちろん人数を増やせば全てが解決するわけではありませんが、重要な第一歩であることは確かです。
生物学の世界では、多様性の豊かな集団の方が、集団安定性や繁栄能力が高くなることが知られています。お互いの多様性を認め尊重する社会に向けて、まずは自分の身近な環境から。子どもたちや学生さんたちと考えながら、やっていきたいと思っています。

(平成29年3月)